スズキナオ初の単著
2019年刊行。筆者のスズキナオは1979年生まれ。Webメディア「デイリーポータルZ」「メシ通」などでの活躍が知られる、大阪在住のフリーライター。
同業者との共著で、『"よむ"お酒』『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』『酒の穴』がある。本作、『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』は初めての単著ということになる。
内容はこんな感じ
友人の家に行って、友人の家ならではの「家系ラーメン」を食べてみる。いま、巷で流行っている「昼スナック」に突撃してみる。「たこせんべい」を食べるためだけに淡路島を訪れる。スーパーの半額肉だけを集めて焼肉パーティを開く。友人のプライベートな歴史スポットを案内してもらう。
何ごとも試してみなくては判らない。行ってみなくては判らない。何事も試してみるタイプの筆者が綴る「なんでもない日々を少しくらいは楽しいものにするための実用書」
サラリーマンからライターへ転身
筆者は30代半ばにして会社勤めを辞めてライター業に転身。このタイミングで東京から大阪への転居を決行している。安定したサラリーマン業から、気ままな自由業への転身。収入は減ったがその分、可処分時間は爆増した。余った時間は、好奇心の赴くままにいろいろなことに手を出してみる。『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』はそんな筆者の個人史の断片が綴られている。
筆者は生活拠点を大阪に移しながらも、かつての生活基盤であった東京にも頻繁に足を延ばす。『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』のタイトルは、その際、大阪-東京間の格安移動手段として、筆者が深夜高速バスを多用していたことに拠る。象徴的な意味合いでのタイトルネーミングなので、決して深夜高速バスのノウハウを書きとどめたものでないので、その点は注意が必要である(笑)。
人生は楽しい
廃車になったバスの中で和歌山ラーメンを食べる。三重県の答志島にある食堂を訪ねてみる。瀬戸内の海小屋で「四つ手網」を体験。カップヌードルに入れるとおいしい漬け物を検証してみる。大阪の瓶ビールはどこまで安いのか調査してみる。
驚かされるのは筆者の旺盛な好奇心と実行力であろう。よくそんなこと思いつくな、そして思いついても、よくそれを実行に移せるな。次から次へと繰り出される奇想天外な企画の数々が堪らないのだ。
「デイリーポータルZ」と言えば、ネタ系ウェブテキストの宝庫とも言えるサービスである。「デイリーポータルZ」のライターだからこそ、奇抜な発想が求められてくるのだろうが、こうして一冊にまとめられてみると壮観である。これは楽しい。
いずれの企画も、費用面ではそれほどかからないのではないかと思われる。少しの勇気と時間があれば誰でも挑戦できる。一歩足を踏み出してみるだけで、人生はこんなに楽しいことに満ちている。自分の身の回りにも、まだまだ楽しいことはあるのだと気づかされる。不思議と読むと元気が出てくる一冊なのだ。
楽しいことは身のまわりにたくさんある
本書は人、店、旅、調査、酒、散策と、六つの章で構成されている、食や酒に関するレポートが中心となっているのだが、個人的に注目したのは最後の「散策」の章である。
見出しを紹介してみよう。
- 誰も知らないマイ史跡めぐり
- チャンスがなければ降りないかもしれない駅で降りてみる
- としまえんに行ったけど入れなかった人のために
- ディズニーランドに行ったけど入れなかった人のために
- 終電を逃したつもりで朝まであるいてみる
- 名前のないラーメンを探して
不毛な路上探索を趣味としているわたしとしては、最高かよ!と叫びたくもなるラインナップである。
「チャンスがなければ降りないかもしれない駅で降りてみる」あたりは、誰にでも挑戦できる冒険行なので、是非お試しいただきところ。普段降りない、一つ前の駅で降りてみる。それだけで非日常の体験が出来るし、自分の世界も広がっていく。非日常は日常に隣接している。一歩踏み出すだけで得られるワクワク感があることを本書は高らかに教えてくれるのである。
ほとんどの記事はウェブで読める
本書に収録されているテキストの初出はほとんどが「デイリーポータルZ」などのウェブ媒体である。そのため現在でもネットで読むことが出来るものが多い。以下、代表的な記事にリンクを貼っておいたので、興味のある方は是非どうぞ。写真がカラーで見られるのも嬉しい。
酒を飲まないわたしとしては、スナックは未知の世界。ましてや「昼」のスナックとは異世界に等しい。そんな異界への扉を開いてくれる調査レポート。
「伊勢屋」の外観が凄い!お店のビジュアルがすさまじいので是非、画像を見ていただきたい。これは実際に見ても突撃する勇気はないかも。それくらいヤバい。
旅好きなら憧れる離島。ましてや、いろいろ曰くのある答志島である。これは羨ましい。行ってみたいなあ。
既に廃業されてしまったそうだが、和歌山独特のバスラーメン文化が熱い!このお店のビジュアルもインパクト大である。
体験レポートで一番スゲーと思ったのがこれ。海小屋直下に網がセットされていて、宿泊しながら漁が出来る魅惑の「四つ手網」。これは確かに経験したら忘れられないだろうね。
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