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『ウクライナ戦争の200日』小泉悠 ロシアの軍事・安全保障研究家がリアルタイムで語った同時代史

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小泉悠の対談本

2022年刊行。「文藝春秋」「Foresight」「週刊文春エンタ+」「週刊文春WOMAN」などで掲載されていた対談を一冊にまとめて上梓したもの。

筆者の小泉悠(こいずみゆう)は1982年生まれの軍事評論家、軍事アナリスト。ロシアへの留学経験を持つ、軍事、安全保障の専門家である。今年はすっかり時の人となってしまった感があって、マスコミには出ずっぱりであった。

ウクライナ戦争の200日 (文春新書)

著作も今年は刊行ラッシュで、三冊も刊行されている。週末には最新刊の『ウクライナ戦争』が出るようなので、これも読まねばなるまい。

この書籍から得られること

  • ウクライナ戦争の初期200日までの流れがわかる
  • 多用な価値観が世界には混在していることを改めて理解できる

内容はこんな感じ

わたしたちは歴史の転換点を目撃しているのか?2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻は、ポスト冷戦時代に終焉をもたらすものなのか?ロシアの軍事、安全保障の専門家である小泉悠が、七人の識者(東浩紀・砂川文次・高橋杉雄・片渕須直・ヤマザキマリ・マライ・メントライン・安田峰俊)とウクライナ戦争の「いま」を語り尽くす一冊。

目次

本書の構成は以下の通り。

  • I.ロシアは絶対悪なのか(×東浩紀)
  • II.超マニアック戦争論(×砂川文次)
  • III.ウクライナ戦争百日間を振り返る(×高橋杉雄)
  • IVウクライナの「さらにいくつもの片隅に」(×片渕須直)
  • V.「独裁」と「戦争」の世界史を語る(×ヤマザキマリ)
  • VI.徹底解説ウクライナ戦争の戦略と戦術(×高橋杉雄)
  • VIIドイツと中国から見るウクライナ戦争(×マライ・メントライン×安田峰俊)
  • おわりに
  • ウクライナ戦争200日の動き

小泉悠と七人の識者

本書では、小泉悠が七人の識者たちと対談を行っている。ラインナップはこんな感じ。

  • 東浩紀(あずまひろき):批評家・作家
  • 砂川文次(すなかわぶんじ):小説家・元自衛官
  • 高橋杉雄(たかはしすぎお):防衛省防衛研究所防衛政策研究室長
  • 片渕須直(かたぶちすなお):アニメーション映画監督
  • ヤマザキマリ:マンガ家
  • マライ・メントライン:翻訳家・通訳・エッセイスト。ドイツ人。
  • 安田峰俊(やすだみねとし):ルポライター。中国の専門家。

高橋杉雄のみ二回登場。一回目は2022年5月、二回目は2022年6月の対談で、それぞれその時点での戦況を振り返る形式となっている。マライ・メントラインと安田峰俊の回は小泉悠を含めた鼎談方式で、ドイツ、中国の専門家の視点から、今回のウクライナ戦争を考察する形を取っている。

ウクライナ戦争はまだ途中だけど……

ウクライナとロシアの戦争は2022年、世界的に見ても最大級の歴史的事件となった。しかもこの戦争は短期間では終わりそうになく、残念ながらまだまだ続きそうだ。よって、事態は流動的であり、この先どうなるかも見えていない。

よって、進行中の事象について語ることについてはリスクが伴う。事態の全貌が見えているわけではないし、後になって振り返ってみれば、違った解釈が求められることもあるだろう。予測を外してしまうことも十分にあり得る。

それでも、これほどの大事件ともなれば、少しでも情報を得たいと思うのが人の性であろう。同時代を生きている人間としては、「いま」何が起こっているのか。知っておくことは重要なのではないかと考える。

多様な価値観が混在する世界

個人的にいちばん興味深く読んだのは、最初に収録されている東浩紀との対談「ロシアは絶対悪なのか」だった。今回、ロシアによる数々の残虐行為が注目を集めているが、これはいまに始まった話ではない。ロシア国内でのチェチェン紛争や、シリアへの軍事介入では同様の事象が既に起きていた。

日本に住んでいると、世界は次第に良くなっていくのではないか。いずれはどの国も民主化されていくのではないか。そんな平和ボケした所感を抱きがちだ。今回のウクライナ戦争はそんなぬるま湯意識に冷水を浴びせかけてくれた。

世界には民主国家ばかりではなく、権威主義的な国家も多数存在し、しかもその勢力は拡大の一途にある。権威主義的な国家においては、非道な事態もまかり通るし、残虐行為も正当化される。

世界には多様な価値観が存在していることを、わたしたちはあらためて認識すべきなのだろう。容認しがたい価値観を持つ人々が存在し、それは容易に覆すことができない。東浩紀の「世界は複雑な存在であったことを、今こそ思い返すべきだと思います」という最後のひとことが、とりわけ強く印象に残った。

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