音楽から歴史を読み直す
2000年刊行。筆者の上尾信也(あがりおしんや)は1961年生まれの音楽学者。本書の刊行当時は、桐朋学園大学短期大学部の助教授。その後、同短大の教授に。続いて、上野学園大学にて准教授に。現在は、教授職にある人物である。放送大学でも教鞭をとっている。
書影の帯を見ると「『のだめカンタービレ』でクラシックにハマった人へ」とあり、同作のファンに向けた訴求がなされている。
ただ、『のだめカンタービレ』の連載開始は2001年からであり、人気が爆発したのも本書の刊行後である。想像するに、マンガの人気に合わせて、訴求用の帯が新たに作られたのではないかと思われる。版元が同じ、講談社だからこそできたコラボだろう。
内容はこんな感じ
古代より人類と共にあった音楽。それは人々に喜びと安らぎをもたらす至高の存在。しかしその力は時の権力者たちによって利用されてきた。ある時には戦意を高揚させ、またある時は信仰の力を高める。規律正しい軍事行動に欠かせなかった軍楽隊。ルターが推し進めた音楽による宗教改革。政治、宗教の側面からヨーロッパの音楽史を概観する。
音楽史をコンパクトに紹介
本書では古代オリエント時代から、ギリシャ、ローマ時代、そして中世、ルネサンスの時代を経て、近代にいたるまでの音楽の歴史が紹介されている。西欧社会における、音楽と政治、宗教、戦争との関わり合いについて述べられている。非常に興味深いテーマなのだが、非常に文章が読みにくいのが難点。歴史的事実や固有名詞、年代を限られた頁数の中で出来る限り収めようとした結果なのだろうか。
西洋音楽と言えば、古くてもバッハくらいまで。それ以前の時代の音楽については、一般的に顧みられることが少ないだろうから、紀元前時代からの音楽の歴史を知ることが出来るのはとても楽しい。
ヨーロッパ史を歴史の流れに沿って遡りながら、節目節目での特徴的な出来事について説明していく。一体、どんな風に音が鳴るのか皆目検討がつかない古代の楽器の図解が楽しい。宗教改革で有名なルターが音楽史に残した意外な役割。フランス国家「ラ・マルセイエーズ」の成立と血なまぐさい歌詞の内容にも驚かされた。クラシック好きは、多少の読みにくさに目をつぶってでも読んでおくと蘊蓄ネタが増やせて良いのではないかと思う。
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