放送大学の『日本語アカデミックライティング』が面白かったので紹介したい!
以前にも書いたが2021年の4月から通信制の教育機関である放送大学に、選科履修生として入学している。コロナ禍でどうしても自宅で過ごす時間が増えたので、少し真面目に勉強をしてみようかと思ったのだ。
先日、一学期が終了したところだが、履修していた科目の中でも『日本語アカデミックライティング』の内容が素晴らしかったので、同講座のテキストをご紹介しつつ、授業内容についても触れておきたい。
放送大学のテキスト(教科書、放送大学的には印刷教材と呼ぶ)は、全て市販されている。放送大学の学生でなくても購入できるところが魅力である。大きな書店や、Amazonなどのネット書店で購入が可能だ。
テキスト『日本語アカデミックライティング』は2017年に刊行されている。
この講座の主任講師は二名。滝浦真人(たきうらまさと)は1962年生まれの言語学者で、放送大学の教授。もう一人の、草光俊雄(くさみつとしお)は1946年生まれの英国史学者。東京大学の名誉教授で、放送大学の元教授。
その他にも、情報検索のありかたについては、経済学者の坂井素思(さかいもとし)が。調査法については、教育学者で、放送大学の現学長でもある岩永雅也(いわながまさや)が。そして、理科系の文章については、天文学者の吉岡一男(よしおかかずや)が、各パートを担当している。
この本で得られること
- 論理的な文章、学術的な文章の書き方が分かる
- レポートの書き方、論文の書き方について学ぶことが出来る
- 「わかる文章」の書き方がわかる
内容はこんな感じ
日本では客観的な文章、学術的な文章の書き方について学ぶことが少ない。小中高で、感想文や、小論文を書かされることはあっても、それらは客観的、学術的な文章とは程遠い。アカデミックな文章は単なる主張ではなく、読み手を説得するための過程でなくてはならない。アカデミックライティングのプロセスを紐解きながら、抑えておきたい具体的なポイントを解説していく。
目次
本書の構成は以下の通り
- 第1回 何のために書くか?
- 第2回 わかる文章とは?
- 第3回 客観的な文章
- 第4回 タイトルまで
- 第5回 問題意識と観点の整理
- 第6回 情報を調べる
- 第7回 「他者の言葉」で書く
- 第8回 パラグラフで書く
- 第9回 文のつくり方
- 第10回 根拠を挙げる
- 第11回 調査結果を利用する
- 第12回 理科系の文章
- 第13回 社会科学の文体
- 第14回 考察と結論
- 第15回 アカデミックライティングとは何か?
学術的な文章の書き方について、全体的な構成から、書き始め、まとめ方に至るまでの一連の流れについて学ぶことが出来る。また、文章の書き方についてのテクニカル面についても知ることが出来る。
客観的な文章とは?
さて、客観的な文章とは何であろうか。本書では以下のように定義している。
客観的な文章では、書かれる内容が書き手個人を超えるものとして捉えられている。書き手がそう感じたから、思ったからではなく、もし書き手が違う人だったとしても同じような書き方と結論になったはずだ、という構えで書かれるのが客観的な文章である。
『日本語アカデミックライティング』p39より
それでは、主観的な文章とは何だろうか。
主観的な文章というのは、書き手が感じたり思ったりしたことを書くことに主眼がある。
『日本語アカデミックライティング』p38より
本書では文章の種類を以下のように分類している。
- 感想文:体験や読書で感じたこと(主観的文章)
- 意見文:何か問題についての意見(主観的文章)
- 報告文:ある出来事の概要や経緯(客観的文章)
- 説明文:ある事柄がどうであるか(客観的文章)
小中高の学校教育で書かされてきた、読書感想文や、いわゆる「小論文」などは主観的な文章に該当する。入試で書かされる「小論文」は書き手の意見を問う意見文であり、客観的な文書とは言えない。学術的な「論文」と、入試の「小論文」は全く違うものなのである。
学生時代はあまり縁がないかもしれないが、社会人になると主観を排した報告文や、説明文を書く機会が多くなる。もちろん、報告文や説明文にも、うっかりすると主観が入り込みがちである。新人の頃に書かされる報告書の類で、「お前の意見は聞いてない、事実だけを書け!」と上司に怒られたことは無いだろうか。訓練されていないうちは、文章から主観を排することは難しい。
レポートや論文の作成プロセス
本書では、レポートや論文を書く際のプロセスとして以下の流れを提唱しており、各項目についての詳細な説明がなされている。
- テーマからタイトルまで
- 問題意識と観点の整理
- 先行研究のレビュー
- 調査/データ
- 健闘と論証
- 考察
- 結論
タイトル決めだけでも一章が費やされており、安易に決めてよい簡単な問題ではないことがわかる。先行研究のレビュー方法については、情報検索について、どんな姿勢で臨むべきかが示されている。また、調査/データでは、基本的な社会調査の手法について学ぶことが出来る。
本書では全体の流れを序盤に提示してから、各項目の説明に入る。そのため、客観的文章、レポートや論文の類をこれから書いていこうという方には、とてもわかりやすい構成となっている。
<わかる文章>の4つの原則
本書のもう一つの柱となっているのが<わかる文章>の書き方である。ここで気をつけなくてはいけないのは<わかる文章>は<うまい文章>とは異なる点である。以下、<わかる文章>と<うまい文章>の違いについて引用する。
<うまい文章>とはいわゆる名文のことであり、芸術的あるいは理知的に際立っていて読み手を惹き付けるような文章である。<わかる文章>とは内容に過不足がなく構成や流れも無理がなく、読み手が書き手の意図したとおりの理解で読んでくれるような文章である。
『日本語アカデミックライティング』p23より
ある程度文章を書くことに慣れている人間(わたしのようなブロガーがそうだ)が、陥りやすい罠が、<うまい文章>を書きたくなってしまう点にある。格好いいことを言いたい。読み手にインパクトを残したい。書き手に共感して欲しい!などと考えていると、どんどんわかりやすさからは遠く離れてしまうのだ。
<わかる文章>を書くための大切なポイントとして、本書では「読み手の立場に立つ想像力」を挙げている。
例えば自分の家の場所を説明しようとする。同僚との世間話であれば、「〇〇線の▽▽駅から徒歩で10分くらい」で事足りるだろう。しかし、実際に家に人を招く場合であれば具体的な家までの道順を説明する必要があるだろうし、相手が外国人留学生であれば、より詳細に当該路線の乗り方についてや、切符の買い方まで説明する必要があるかもしれない。
つまり<わかる文章>とは、読み手が誰である方によって、説明の解像度が変わってくるのだ。読む側の立場になって書くことの大切を本書では繰り返し説いている。
<わかる文章>の4つの原則として、本書では以下が示されている。
質:誤った内容や根拠のないことは書かないこと
量:過不足ない情報内容が書かれていること
関係:論旨に関係する話だけが書かれていること
様態:誤解が生じないような明瞭な書き方であること
『日本語アカデミックライティング』p35より
<わかる文章>とは、相対的なものである。読み手がどんな人物であるのか。どの程度の知識を持ち、書き手とどれくらい同じ前提理解を持っているかを知ることなしに<わかる文章>は書けない。
客観的で学術的な文章を書きたい方におすすめ
以上、放送大学の『日本語アカデミックライティング』についてご紹介させていただいた。具体的なシラバス(講義要綱)はこちらから。
一学期の授業は終わってしまったが、再放送もあるので気になる方は是非、チェックしてみて頂きたい。次回の放送日程は以下の通り。
- 2021年8月31日~9月7日 15:00~16:30
BS531CHでの放送である(音声のみのラジオ科目である)。滝浦先生と、草光先生の軽妙なやりとりは、テキストがなくても、面白く聞けるのではないかと思う。
おまけ:単位認定試験は比較的簡単
最後に、放送大学で実際に『日本語アカデミックライティング』を履修するか悩んでいる方向けに。
放送大学の単位認定試験は、通常であれば学期末に放送大学の各センターで実施される。授業は放送で行われるが、試験については、リアルな試験会場に赴く必要があった。
しかしながら、2021年度の1学期及び、2学期は、コロナ禍のため、特例として自宅での受験に切り替えられている。自宅での受験は、時間制限なし、もちろんテキストやノートなどの持ち込みも許可されている。所定の期限までに答案を郵送すればオッケー。
よって、テキストをしっかり読み込んで、放送授業をきちんと聴いていれば、単位を落とすことはまずないと思われる。個人的な所感だが、持ち込みなしのリアル受験だったとしても、難易度はそれほど高くなく。単位は取れていると思う(まだ、結果出てないけど)。
放送大学のHPでは過去の試験の平均点も公開されている。『日本語アカデミックライティング』の平均点はかなり高めである。
2020年度2学期(81.5点)
2020年度1学期(87点)
放送大学についてもう少し知りたい方は、こちらのエントリも参考にしてみて頂きたい。
文章術についてもっと学びたい方はこちら