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『ヨハネ受難曲』礒山雅の遺稿となった入魂の「ヨハネ」考察本

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礒山先生の遺作

2020年刊行。筆者の礒山雅(いそやまただし)は1946年生まれの音楽学者。残念ながら2018年に不慮の事故で亡くなられている。

遺稿となったのが本書で、国際基督教大学名誉教授である伊東辰彦(いとうたつひこ)が校訂し刊行にまでこぎつけている。礒山雅は『ヨハネ受難曲』に関する研究で博士論文を書いており、この論文の審査で主査を務めたのが伊東辰彦だった。

ヨハネ受難曲 (単行本)

内容はこんな感じ

J.S.Bachの代表作であり、西洋クラシック音楽の傑作のひとつでもある『ヨハネ受難曲』。この曲はいかなる経緯で作曲され、いかにして演奏されたのか。再演の度に改稿されたその意味はどこにあるのか。『ヨハネ受難曲』成立についての歴史的背景を読み解きながら、その楽曲の音楽性、精神性を読み解き、徹底的な解説を施した入魂の一冊。

目次

本書の構成は以下の通り。

  • 第1部 イエスの受難と「ヨハネ福音書」
    • 第1章 受難から福音書の成立まで
    • 第2章 「ヨハネ福音書」におけるイエス
    • 第3章 ブーゲンハーゲンの「調和福音書」
    • 第4章 二つの同時代資料―『ライプツィヒ教会全書』と『ドレスデン賛美歌集』
    • 第5章 ルターの受難観
  • 第2部 ヨハネ受難曲の歴史とバッハの上演諸稿
    • 第1章 受難曲の歴史―『ヨハネ受難曲』を中心に
    • 第2章『ブロッケス受難曲』とバッハ
    • 第3章バッハの受難曲体験と『ヨハネ受難曲』成立まで
    • 第4章『ヨハネ受難曲』の諸稿
  • 第3部 バッハ『ヨハネ受難曲』全楽曲各論
    • 第1章 冒頭合唱曲―低さの極みの栄光
    • 第2章 イエスの捕縛
    • 第3章 初出の二アリア―罪の逆説と信従
    • 第4章 ペトロの否み
    • 第5章 進みゆく裁判
    • 第6章 判決からゴルゴタへ
    • 第7章 十字架上の三つの言葉
    • 第8章 イエスの死
    • 第9章 死後の出来事
    • 第10章 遺体の証言、埋葬と結び
    • 第11章 『ヨハネ受難曲』第二稿
  • 補記―終章にかえて

『ヨハネ受難曲』って?

『ヨハネ受難曲』は1724年に初演された、J.S.Bach(ヨハン・セバスチャン・バッハ)の代表作のひとつ。演奏時間が二時間を超える大作で、2024年はちょうど初演から200年だったので、日本各地でも各所で演奏されていた。

ちなみに、勘違いする方が時々出てくるのだが、『ヨハネ受難曲』は新約聖書の「ヨハネによる福音書」を下敷きとしたイエス・キリストの受難曲であって、ヨハネが受難するお話ではない。

わたしの『ヨハネ受難曲』おススメ動画はNetherlands Bach Societyのこちらの演奏。気になる方はチェック。

 

『ヨハネ受難曲』は初演後も、バッハがあれこれと手を加えたことで知られる作品で、複数の異稿がある。

  • 1724年:初稿
  • 1725年:第二稿。大幅改定される
  • 1732年:初稿に近い状態に戻される
  • 1739年:さらに初稿に近い状態に戻される
  • 1749年:最終稿。さらに初稿に近い状態に戻される

特に第二稿は「全然違う!」と評判の大改造版で、それだけに注目されて、現在でも演奏されることがある。ところが、第三稿以降は、改訂すればするほど初稿に近づいていく不思議な改訂となっている。どうしてこんなことになったのかは、本書を読めば礒山先生が事細かに検証してくれているので、バッハファンは是非読んでいただきたい。

圧倒的な熱量の『ヨハネ受難曲』解説

冒頭に本書の目次を提示したが、バッハ好き、受難曲好きであれば、この作品に賭けた礒山雅の凄まじい熱量が伺えるはずだ。複数存在する福音書の成立事情から語り始め、その中での「ヨハネ」の意味を考察。受難曲の歴史を振り返りつつ、かの『ブロッケス受難曲』にも言及。ここまで書いてようやく『ヨハネ受難曲』成立事情の考察に入る。前置きが膨大過ぎて、ここで挫折する人も多そう(わたしは、某T先生に最初は飛ばして具体的に「ヨハネ」に言及しているところから読んだ方がいいよと言われたがその通りだった)。

そして圧巻なのは第三部の楽曲分析だろう。300頁かけて『ヨハネ受難曲』の懇切丁寧なアナリーゼが展開されるである。冒頭にまず日独併記されたテキスト(歌詞)が提示され、続いて楽譜を掲出しながらの音楽部分の考察が入る。このあたりは楽典の知識が必須となってくるので、読みこなすには相応の専門性が必要になってくる。だが時間をかけて読んでいけば、十分すぎるほどのリターンが得られる。

全体では500頁近い作品で、専門的な内容も多く含まれるため、わたしのような音楽教育を受けていない人間にとっては少々(というかかなり)ハードルの高い作品ではあった。まだまだ咀嚼できていない部分も多く、これからも折に触れて読み返すことになるのだと思う。バッハ愛好家、特に『ヨハネ受難曲』を歌う人間にとっては必携の一冊と言って良い。

なお礒山雅は本書に先立って『マタイ受難曲』の考察本も書いている(単行本は東京書籍から1994年に、その後2019年にちくま学芸文庫版が出ている)。カバーデザインを見ると今回の『ヨハネ受難曲』の装丁は、ちくま学芸文庫版『マタイ受難曲』のデザインを意識していることが明白に伺える。こちらはなんと600頁を超える超大作となっている。いつか「マタイ」を演奏することになったら是非読んでみたいと思っている。

『ヨハネ受難曲』を聴きに来ませんか?

ということで、最後に宣伝。所属している合唱団で来年二月に『ヨハネ受難曲』を演奏します。豪華ソリスト陣なので本気でお勧めします(合唱も頑張る!)。チケットご提供できますので興味のある方はX(Twitter)か、メール(sayomaruziro★gmail.com←★の部分は@に置き換えてください)でお声がけ下さい。ご招待いたしますよ。

  • CVP 第3回公演 J.S.バッハ《ヨハネ受難曲》BWV245

  • 日時:2025年2月9日日曜日/開場12:30 開演13:30
  • 会場 紀尾井ホール 東京都千代田区紀尾井町
  • 全席自由 3500円
  • 福音史家:櫻田亮
  • イエス:加耒徹
  • ソプラノ:澤江衣里
  • アルト:上村誠一
  • テノール:小堀勇介
  • バス・ピラト:黒田祐貴
  • 指揮:圓谷俊貴
  • 管弦楽:プロムジカ使節団
  • 合唱:CVP

チラシ画像はこちら。

CVP 第3回公演 J.S.バッハ《ヨハネ受難曲》BWV245 チラシ

CVP 第3回公演 J.S.バッハ《ヨハネ受難曲》BWV245 チラシ

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