第一人者が語るリスキリングの価値
2022年刊行。筆者の後藤宗明(ごとうむねあき)は一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブの代表理事。2018年頃から日本国内でリスキリングの理念を広めるべく、活動を展開されてきた方。
筆者が主宰する一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブのサイトはこちら。
なお、本書は「読者が選ぶビジネス書グランプリ」2023年版の総合部門では第4位、また部門賞である「イノベーション部門」を受賞している。
また2023年に続巻の『新しいスキルで自分の未来を創る リスキリング【実践編】』が上梓されている。
内容はこんな感じ
人生100年時代。ひとつのスキル、ひとつの業務、ひとつの仕事だけでは長い人生を勝ち抜くことは難しい。これからは時代にあった、新しいスキルを獲得し続けていくことが肝要となる。自分の市場価値を高めていくには何をすればいいのか?単なる学びなおしを超えた「リスキリング」の重要性を解き、その実践ノウハウを解説していく一冊。
目次
本書の構成は以下の通り。
- はじめに
- 第1章 リスキリングの必要性と外部環境の変化
- 第2章 リスキリングする方法
- 第3章 リスキリングを実践する10のプロセス
- 第4章 リスキリングと「スキルベース採用」の時代の到来
- 第5章 リスキリングによるキャリアアップと人材の流動化
- 第6章 AIやロボットが同僚になる新たな時代に向けて
- おわりに
リスキリングって何?
リスキリングという言葉を近年、頻繁に耳にするようになった。まずはその言葉の定義から確認しておきたい。リスキリングを筆者はこう定義している。
「新しいことを学び、新しいスキルを身につけ実践し、そして新しい業務や職業に就くこと」
『自分のスキルをアップデートし続ける リスキリング』p22より
個人が好きなこと、気になる分野を学ぶ「学びなおし」や、学校教育後に、仕事と教育を繰り返す「リカレント」などと違うのは、「新しい業務や職業に就くこと」の部分だろう。趣味や、現業と離れたところでの学びではなく、あくまでも実際の業務や仕事に繋がるスキルの再取得を、筆者は「リスキリング」であると定めている。
リスキリング実践の10ステップ
本書では「リスキリング」を行うための手順を10のステップでまとめている。以下のような流れになる。
- 現状評価
- マインドセットづくり
- デジタルリテラシーの向上
- キャリアプランニング
- 情報収集の仕組みづくり
- 学習開始
- デジタルツールの活用
- アウトプットに挑戦
- 学習履歴とスキル証明
- 新しいキャリア、仕事の選択
興味深いのは「学習開始」する前に、5つものステップを踏んでいる点である。リスキリングはやみくもに勉強を始めればいいというものではない。まずは自分の適性を理解し(現状評価)、意識改革を行い(マインドセット)、IT分野への知見を深め(デジタルリテラシー)、どんな業務、職業に可能性があるのかを把握し(キャリアプラニング)、事前に情報を確認しておく(情報収集の仕組み)べきなのだ。
現有スキル×ITスキルの掛け合わせで伸ばす
リスキリングをするとして、具体的にはどんな業務、仕事をイメージすればいいのだろうか?筆者は時節柄、IT分野での学びが重要であると繰り返し主張する。ただ、やみくもにITを学べば良いわけではなく「築いてきた熟練スキルとデジタルスキルを融合する」ことを、まず考えるべきだと説く。ポイントは以下の三点。
- 現在の職務や過去の経験から自分が持っているスキルを活かす
- 現在持っているスキル×デジタルで何が出来るのかを掛け算で考える
- スキルの隣接性を活かす
現業から全く関係ないところから学び始めても成果につなげていくのは難しい。まずは現在の職務や過去の経験から、既に自分が持っているスキルをどう広げていけるかを考える。そのうえで、現有スキル×デジタルスキルを掛け合わせて可能性を広げていこうという提案だ。
自分の学びをアウトプットする
変わりゆく社会に備えてリスキリングで対応していく。この考え方自体は良いとしても、とにかく難しいのは学んだあとに「新しい業務や職業に就くこと」だ。大企業であれば人事主導による、会社全体でのリスキリングの仕組みがあるかもしれない。だが、大部分の人間は、そんな恵まれた環境とは無縁のはずだ。
筆者は、勇気をもって、自分の獲得したスキルを周囲にアピールすべきであると主張する。アピールの場は会社の朝礼の場でもいいかもしれないし、ちょっとした勉強会でもいい。とにかく知ってもらえなければ何事も始まらない。
本書では、岡島悦子の『抜擢される人の人脈力』から、「人脈スパイラル・モデル」五つのステップを紹介しているので、こちらも引用しておこう。
- 自分にタグをつける(自分が何屋なのか訴求ポイントをはっきりさせる)
- コンテンツを作る(「お、こいつは」と思わせる実績事例を作る)
- 仲間を広げる(コンテンツを試しあい、お互いに切磋琢磨して、次のステップを共創する)
- 自分情報を流通させる(何かの時に自分のことを思い出してもらうよう、種を蒔く)
- チャンスを積極的に取りに行く(実力以上のことに挑戦し、人脈レイヤーを上げる)
コミュニケーション力に自信がない人間(わたしがそうだ)としては、うーんと考え込んでしまう部分ではある。しかし、リスキリングを自己満足の学びなおしで終わらせないためには、こうしたセルフプロデュース力は欠かせないのかもしれない。
おまけ
最後に筆者がおススメしていた、デジタル分野での理解を深めるための10冊をご紹介。わたしもいくつか読んでみるつもり。
- 『2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ』 ピーター・ディアマンディス他
- 『2040年の未来予測』 成毛眞
- 『シンギュラリティビジネス』 齋藤和紀
- 『エクスポネンシャル思考』 齋藤和紀
- 『シリコンバレーの一流投資家が教える世界標準のテクノロジー教養』 山本康正
- 『スタートアップとテクノロジーの世界地図』 山本康正
- 『テクノロジー思考』蛯原健
- 『テクノロジーの地政学』 シバタナオキ他
- 『ゼロ・トゥ・ワン』 ピーター・ティール他
- 『テクノロジーが予測する未来』 伊藤穣一