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『ルネサンスの世渡り術』壺屋めり 巨匠たちのマネタイズ術!知られざる美術史の世界

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「クーリエ・ジャポン」の連載記事が単行本に

2018年刊行。刊行は芸術新聞社から。

本書は、Webマガジン「クーリエ・ジャポン」に連載されていた、「リナシタッ ルネサンス芸術屋の仕事術」(記事閲覧は有料)を加筆修正の上で単行本化したもの。

筆者の壺屋めりは美術史研究者で、現在は東京藝術大学客員研究員。本書のイラストもなんとご本人が書いている。多芸な人は何でもできて羨ましい。

内容はこんな感じ

金銭への執着が激しかったティツィアーノ。ルール違反のプレゼンで競合の画家を出し抜いたティントレット。コピー商品でデューラーの訴えを逆手に取ったライモンディ。レオナルド・ダ・ヴィンチが就活時に書いた過剰なエントリーシート。

ルネサンス期のイタリアを彩った有名芸術家たちが、いかにしてパトロンからの注文を取り付け、同業者たちと戦って来たのか。豊富な事例とイラストで楽しめる、知られざる美術史の世界。

「芸術作品」の概念が今とは違う

芸術作品のあり方と言うものは、時代や地域によって随分と異なる。当時の絵画や彫刻は、アーティストの芸術心の発露から生まれるものではなく、発注者である王侯貴族や、教会、富裕な商人たちなどのパトロンからの依頼があって初めて作られた。

そのため、本書で取り扱う、ルネサンス期では、芸術家たちには以下のようなスキルが求められていたらしい。

美術品の「オーダーメイド」が常識だったルネサンス期。芸術家に求められたのは、技術や実績、斬新なアイデア以上に、注文主の意向に応える柔軟性でした。

『ルネサンスの世渡り術』p7より

芸術家たちはその絵心にまかせて作品を自由に作り上げられたわけでは無く、限定された予算と納期の中で、注文主の課した様々な無理難題をクリアして初めて、作品を世に送り出すことが出来たわけである。

そのため、これらの作品は、芸術というよりは、広告、デザインの方が概念的には近いのだという筆者の指摘はナルホドなと思った次第。

本書では、いかにして受注を勝ち取り、代金を回収し、更により高い給金を求め、丁々発止のやり取りを繰り返す、ルネサンスの巨匠たちのマネタイズ術が紹介されている。文字だけではなく、マンガイラストや地図が収録されており判りやすく、具体的な作品事例が多数収録されているのも嬉しい。

マントヴァ侯妃の「注文書」がすごい!

個人的に一番気になったのは、モンスター注文主のマントヴァ侯妃イザベッラ・デステだろうか。画家の創作魂を根こそぎ削り取る、微に入り細を穿った超長文の「注文書」には笑った。現実世界では絶対に顧客にしたくない相手である。ベッリーニは彼女の注文をうまくかわしたが、その陰にはその数倍の数の被害者が居たに違いない(笑)。