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『ウクライナ戦争』小泉悠 大戦争は決して歴史の彼方に過ぎ去ってなどいなかった

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小泉悠によるウクライナ戦争本

2022年刊行。筆者の小泉悠(こいずみゆう)は1982年生まれの軍事評論家、軍事アナリスト。インターネットでのハンドル名、ユーリィ・イズムィコでも知られる、ネット界隈では以前から知る人ぞ知る著名人だった。

ロシア軍事の専門家として、第二次ウクライナ戦争が始まってからは各方面で引っ張りだことなっており、すっかりテレビでお馴染みの顔となってしまった。

ウクライナ戦争 (ちくま新書)

小泉悠は、本書刊行以前にも、(第二次)ウクライナ戦争前史とも言える『現代ロシアの軍事戦略』、開戦直後の200日を著名人らとの対談形式で分析した『ウクライナ戦争の200日』、さらにはロシアのお国柄を紹介する『ロシア点描 まちかどから見るプーチン帝国の素顔』と、ロシアに関しての作品を何作か上梓している。

この本で得られること

  • これだけの大戦争がなぜ起きたのか
  • ウクライナ戦争は本質的にどのような戦争なのか
  • ウクライナ戦争は日本を含めた今後の世界にどのような影響を及ぼすのか

内容はこんな感じ

2022年2月24日。ロシアによる第二次ウクライナ侵攻が開始された。第二次世界大戦以降、最大規模の戦いとなったこの戦争はいかにして始まったのか。開戦に至るまでのロシア、ウクライナそれぞれの歴史的経緯。そしてプーチンは何を考え、何を達成しようとして軍を動かしたのか。2022年8月頃までの戦争の経緯を振り返る。

目次

本書の構成は以下の通り。

  • はじめに
  • 第1章 2021年春の軍事的危機2021年1月~5月
  • 第2章 開戦前夜2021年9月~2022年2月21日
  • 第3章 「特別軍事作戦」2022年2月24日~7月
  • 第4章 転機を迎える第二次ロシア・ウクライナ戦争2022年8月~
  • 第5章 この戦争をどう理解するか
  • おわりに

第二次ロシア・ウクライナ戦争前史

ロシアがウクライナへの執着を隠さなくなったのは、2014年のマイダン革命だった。2014年、親ロシア政権であった、ウクライナのヤヌコーヴィチ政権が崩壊した。そしてその直後にロシアはウクライナへ侵攻。クリミア半島を支配下に置いている。以後、ウクライナはアメリカ、そしてNATOへの接近を強めていく。

また、今回の戦争に先立ち、2021年の春に、ウクライナ国境に6万人を超える大規模なロシア軍が動員される事態があった。これは、トランプ政権からバイデン政権へと変わり、対ロ政策が強硬派に転じていたアメリカへの示威的な要素が強かったとされる。

また、この時期のゼレンスキーは、ロシアに対しては宥和的であり、出来る限り直接的な戦闘を避けようと動いていたことは覚えておくべきだろう。

ウクライナ善戦の理由

筆者はウクライナが大国ロシアに対して善戦している理由として、以下の三点を挙げている。

  1. それなりに規模の大きな軍隊
  2. ウクライナの国土の広さ
  3. 西側諸国からの兵器供与

ウクライナは戦争開始前の時点で30万人規模の軍隊を有しており、これは旧ソヴィエト諸国ではロシアに次ぐ第二位に相当する。ウクライナの三倍の人口を持つ、日本の自衛隊員の数が25万人弱であることを考えるとその規模の大きさがわかるだろう。

また、ウクライナは広い。ヨーロッパでロシア、フランスに次ぐ広大な国土を持つ。これだけの広さの国家に多方面から侵攻して勝利していくのは容易なことではない。

ただ、火力面ではウクライナはロシアに対して圧倒的に劣勢であった。それだけに欧米諸国からの支援が、特に対戦車ミサイル・ジャベリンは大きな効果をもたらした。

ナポレオン戦争からの戦争の質の変化

近代以前、戦争は一部の権力者と軍隊だけが戦うものだった。費用がかかる戦争は、長期間続くことはほとんどなく、その犠牲も国家の一部に限られていた。

戦争の質が変化していくのは、フランス革命後のナポレオン戦争が契機とされる。革命の波及を恐れた周辺諸国は、対仏大同盟を結成し、フランスは国家存亡の危機に立たされる。ここでフランスは国民皆兵を実施、これまで他人事であった戦争に一般市民も巻き込まれていくことになる。国民国家の誕生である。これ以降の戦争は、国民の犠牲を厭わない獰猛な戦争へと変質していくのだ。 

ロシアの侵攻を受けて、ウクライナの総動員数は100万人に到達しようとしている。一方のロシアも、再三の動員令で、まだまだ多くの人々が戦場に駆り出されてきそうだ。国家同士の総力戦は、当分終わる気配が見えない。

先の見えない戦争

本書で取り扱われているのは、第二次ウクライナ戦争の2022年8月頃までの経過となっている。それだけにその後の展開については言及されておらず、2023年の2月に読むと物足りなさが残る。この点、決着のついていない歴史的事象を取り扱うことの難しさはどうしても感じてしまう。

筆者の主張で特に印象に残ったのは以下のテキストだ。

実際に高烈度の戦争に対処できる能力を持たなければ抑止力の信憑性を保てないことを示唆する。

『ウクライナ戦争』p230より

戦争の序盤にキーウ(キエフ)が陥落していたら。ゼレンスキーが国外亡命していたら。この戦争は早期に決着がついていたであろう。

巨大な戦争という現象は、歴史の教科書の中だけの存在ではなく、我が国がそのような事態に巻き込まれたらどうすべきか、そうならないために何をしておくべきかは今から真剣に検討しておく必要がある。

『ウクライナ戦争』p233より

誰もがそんなことは起こらないだろうと、たかをくくっていた戦争が起きてしまった。この戦争は間違いなく世界史の一大転換点になるだろう。それだけに事の経緯にはこれからも注視し続ける必要があるし、わたしたち自身も自分の身に置き換えて考えていく必要があると思うのだ。

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