知っておきたいAI(人工知能)の基礎知識
2021年刊行。オリジナルの米国版は2020年に刊行されており、原題「Artificial Intelligence: A Guide for Thinking Humans」。直訳すると「考える人間のための人工知能ガイド」といった感じか。邦訳版はずいぶんと俗なタイトルにされてしまった感がある。でも、こうした方が売れるんだろうなあ。
作者のメラニー・ミッチェル(Melanie Mitchell)はアメリカ人のコンピューター科学研究者。ポートランド州立大学教授、およびサンタフェ研究所の客員教授。認知科学者と知られる、ダグラス・ホフスタッター(Douglas Hofstadter)の教え子としても知られる人物。
巻末収録の解説文は日本のAI(人工知能)研究の第一人者でもある松原仁が書いている。
内容はこんな感じ
AI(人工知能)はどうして「正解」を出すことができるのか。AIが得意なことは?そして出来ないこと、不得意なことは何なのか。人間が職を奪われるようなことはあるのか?シンギュラリティは本当に起こるのか?70年にも及ぶ、AI研究の歴史を踏まえつつ、その仕組みと実用性を平易な言葉で解説していく一冊。
目次
本書の構成は以下の通り
- はじめに―恐怖にとらわれる
- 第1部 予備知識
- 第2部 見ることと読み取ること
- 第3部 遊びを学習する
- 第4部 人工知能が自然言語に立ち向かう
- 第5部 意味の壁
- 解説 人工知能はどこから来てどこまで行くのか 松原仁
AIの歴史
第1部では予備知識としてAIの歴史を振り返る。AIにはこれまでに三回のブームがある。ザックリまとめるとこんな感じ。
- 第一次AIブーム:1950年代半ば~60年代半ば:推論、探索の時代
記号主義AI研究。コンピュータによる推論、探索の研究が進み、迷路や数学の定理証明など簡単な問題(トイプロブレム)は解けても、複雑な現実の問題(機械翻訳での成果が期待されていた)は解けなかった。結果として1970年代には冬の時代へ突入。
- 第二次AIブーム:1970年代半ば~80年代半ば:知識の時代
データベースに大量の専門家の知識を詰め込んだ、エキスパートシステムが登場。しかし、知識を蓄積、管理することの困難さから、1990年代の半ば頃から再び冬の時代へ。
- 第三次AIブーム:2010年~現在:機械学習・ディープラーニングの時代
記号的AI研究の行き詰まりから、非記号的AI研究が活発化。人間がいちいち意味を教えるのではなく、AIが勝手に学習してくれる機械学習、ディープラーニング(深層学習)の技術が発達。また、ネットの普及、コンピュータの高性能化で、ビッグデータが手軽に活用できるようになりブームが加速。現在に至る。
AIは意味を理解できない
AIを知るうえで重要な点は「AIは意味を理解していない」という点にある。例えば、現在ではGoogle翻訳や、DeepLなど、AIを使った機械翻訳が一般人でも無料で気軽に使えるようになっている。登場当時は翻訳の精度に心もとない部分はあったにせよ、現在ではそれなりに信頼できる結果が得られるようになっている(英語力が皆無なわたしは仕事で毎日ふつうに使っている)。
だが、これらの機械翻訳ツールは単語の意味や、文章の意味をAIが理解して翻訳を行っているわけではない。初期の機械翻訳は、文法を学ばせたうえでのルール的な取り組みからアプローチをとっていたようなのだが、これはあまりうまくいかなかったらしい。次のステップとして、大量の翻訳例を読み込ませて「統計的にもっとも確からしい」訳を正解として出力するようになった。つまりAIは意味を理解して翻訳しているのではなく、あくまでも「統計的に」もっとも正しさの確率が高い翻訳を出力しているにすぎないのだ。
最新の翻訳ツールでは、統計的な手法からさらに発展して、単語を数値(ベクトル)に割り当てたり、前後の言葉の意味からも推測を行ったりとより高度な処理が入り、より高い精度での翻訳が出来るようになっている。ただ、依然としてAIは文章の意味を理解して翻訳をしているわけではない。
AIは抽象化、推論が苦手
意味を理解することが出来ないということは、物事を抽象化したり、事前に得た知識を元に結果を推測することも苦手。つまり過去に起きた事例であれば、対応が出来るが、突発的な事態や、例外的な事態にはAIは対応できない。
現在、実用化が進められている自動運転技術が、まずは状況が限定される高速道路の走行に限って導入されるというのも、納得がいくところではある。何が起こるかわからない、一般道での自動運転は、まだまだリスクが高すぎるのだろう。
以上のような状況を踏まえ、昨今取りざたされている、シンギュラリティ問題、人間の知性を超えるAIの登場は、筆者的には当分ありえないと本書では結論付けている(ちょっと安心した)。
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