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『ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う』坂本貴志 「定年後の仕事」の実態は?

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60~80歳の「仕事の実態」は?

2022年刊行。筆者の坂本貴志(さかもとたかし)は1985年生まれの研究者、アナリスト。厚労省出身で、三菱総合研究所のエコノミストを経て、現在はリクルートワークス研究所に所属。

ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う (講談社現代新書)

講談社BOOK倶楽部掲載、田中香織による本書レビュー。

内容はこんな感じ

定年後の暮らしはどうなるのか?70歳以降の年収は300万円以下が大半。月々の生活費は30万円程度。年金を考えれば本当に稼ぐべきは月額10万円程度。70歳以上の男性の就業率は45.7%。豊富な統計データをもとに、高齢者を取り巻く経済状況を明らかにし、地域社会に貢献する「小さな仕事」の意義を問う一冊。

目次

本書の構成は以下の通り

  • はじめに
  • 第1部 定年後の仕事「15の事実」
  • 第2部 「小さな仕事」に確かな意義を感じるまで
  • 第3部 「小さな仕事」の積み上げ経済
  • おわりに

定年後の働き方はどうなるの?

高年齢者の労働参加が急速に進んでいる。2020年における70歳以上の男性の就業率は45.7%と、既に過半数に近い状態になっているのだとか。背景には、年金を当てにできない、働かなければ食っていけない深刻な高年齢者の懐具合がある。もっとも、少子高齢化に伴い生産者人口は減少しており、選ばなければある程度の仕事はありそう。

本書ではそんな社会背景をベースに、定年後の働き方はどうあるべきかを考えていく構成となっている。

以下、各部ごとにざっくりと紹介。

定年後の仕事「15の事実」

第一部は統計データ編である。まずは現状を認識しよう。

政府による統計や、筆者の勤務先であるリクルートワークス研究所の調査データをもとに、定年後の仕事について「15の事実」を明らかにしていく。項目は以下の通り。

  • 事実1 年収は300万円以下が大半
  • 事実2 生活費は月30万円弱まで低下する
  • 事実3 稼ぐべき額は月60万円から月10万円に
  • 事実4 減少する退職金、増加する早期退職
  • 事実5 純貯蓄の中央値は1500万円
  • 事実6 70歳男性就業率は45.7%、働くことは「当たり前」
  • 事実7 高齢化する企業、60代管理職はごく少数
  • 事実8 多数派を占める非正規とフリーランス
  • 事実9 厳しい50代の転職市場、転職しても賃金は減少
  • 事実10 デスクワークから現場仕事へ
  • 事実11 60代から能力の低下を認識する
  • 事実12 仕事の負荷が下がり、ストレスから解放される
  • 事実13 50代で就労観は一変する
  • 事実14 6割が仕事に満足、幸せな定年後の生活
  • 事実15 経済とは「小さな仕事の積み重ね」である

第一部の趣旨をまとめると、定年後の収入は激減するが、必要となる支出も減るので、身の丈に合った月額10万円程度を稼げれば十分。各自の健康状態に合わせて無理はせず、地域に貢献できる「小さな仕事」を見つけて、豊かに自由に生きていこう、といったところだろうか。

50代に入ると多くの会社員は転機を迎える。役職定年となり、給与も下がり、現在の仕事に価値を見出せなくなっていく。逆に言えば、競争社会、高い収入や栄誉を求める価値観からの解放でもあるので、考え方をシフトチェンジしくことが大事。定年後の「小さな仕事」を考えると、会社員人生で転機を迎えた際に、どれだけ前向きに開き直れるかがポイントになってくるのだと感じた。

「小さな仕事」の具体例

ちなみに筆者の言う「小さな仕事」とは、仕事量が少なく、責任も軽い仕事のことを指す。現役時代の仕事量が多く責任も大きい「大きな仕事」とは真逆の存在だ。「小さな仕事」には役職もつかないし、社会的地位や名誉とも無縁である。もちろん得られる給与も少ない。

ただ、定年後の必要となる支出が減る世代にあっては、「小さな仕事」で十分ではないかと筆者は説く。

第二部では「小さな仕事」の具体例が登場する。現役時代には活躍され、評価もされていた方々が、定年となり「小さな仕事」に意義を見出し、いかにして心の平安を得ていくかが紹介されている。

なお、筆者は定年後の「小さな仕事」を続けていく条件として以下を挙げている。

  • 健康的な生活リズムに資する仕事
  • 無理のない仕事
  • 利害関係のない人たちと緩やかにつながる仕事

身体に無理なく出来て、メンタルにもストレスを与えないこと。これが何よりも大切だというわけだ。

「小さな仕事」が日本社会を救う?

最終となる第三部では、労働者、企業、そして社会がいかに「小さな仕事」を受け入れて、新たなフェイズに入っていくべきが考察されている。

労働者個人としては、役職や給与の高さを求めて戦い続けるのにはいずれ限界が来る。遅かれ早かれ、会社員人生の転機はやってくるので、それを受け入れる心の準備が必要だ。また、企業側としては人事制度がまだまだ高齢化社会に対応できていないため、幅広いニーズに応えた新しい報酬体系が必要となる。

そして身のまわりにある「小さな仕事」に、相応の敬意が持たれるような社会になって欲しいと筆者は云う。この点については、わたしたち自身それぞれに意識改革が必要だろう。

定年後までキャリアを頑張らなくてもいい

以上、『ほんとうの定年後』を雑にまとめてみた。

一般的な定年後の働き方の指南書では、しっかり準備した上での起業を説いてみたり、現役時代の専門性を活かしてもう一花咲かせよう!的な、攻めの内容が多い。しかし、本書はそれらと真逆に「小さな仕事」で十分ではないかと繰り返し主張する。

定年後に必要となる支出の額は個人間でかなりの差があるので、月10万円の稼ぎでやっていけるのかは、一概には言えないところで。ただ、多少なりとも、気が楽になったかな。心身ともに無理をしないのは本当に大切だと思うので、細く長く働ける「小さな仕事」が、今後見つけられればと考えている。

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