ビズショカ(ビジネスの書架)

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『アフターデジタル』藤井保文・尾原和啓 オフラインのない時代に生き残る

すべてがオンラインとなった世界で

2019年刊行。筆者は藤井保文(ふじいやすふみ)と尾原和啓(おばらかずひろ)の両名。藤井保文は1984年生まれ。ウェブコンサル企業のビービット勤務。中国のITビジネスに造詣が深い人物。尾原和啓は1970年生まれ。IT関連の著作家、批評家。著作としては2015年の『ザ・プラットフォーム―IT企業はなぜ世界を変えるのか?』あたりが知られているだろうか。

内容はこんな感じ

デジタルがあまねく社会に浸透した社会ではオンラインとオフラインの境界は見えなくなっていく。リアル世界はデジタル世界に包含される。デジタル化が猛烈な勢いで進行している中国では今何が起こっているのか。実例をもとに、これからの日本企業はどうあるべきか。「アフターデジタル」後の社会を読み解く一冊。

オフラインがなくなる?

オンライン可の浸透が進む現在。IOTが普及すると、ユーザデータはIDに紐づけられ、実世界でもデジタルとの接点が生まれ、オフラインが存在しなくなる。このような時代に日本企業はどう活路を見出していくべきなのか。

これからの時代は、ユーザとの接点頻度を高くし、行動データを活用できないと他社に負けてしまう。顧客データをとにかく多く取得し、それをエクスペリエンスの良さに還元する。改善ループをいかに高速で回せるか。デジタル先進国に追いつくには、データ×エクスペリエンスの切り口で考え、新たな視野を獲得することが大事である。

本書では、現在のIT最先端と思われる中国での事情を主に紹介しつつ、具体的にどうしていけばよいかと説いていく。

IT先進国中国の実例

第一章は「知らずには生き残れない、デジタル化する世界の本質」として、中国を中心とした最先端のIT事情が語られる。人体にマイクロチップを埋め込んだ決済を実現させているスウェーデンも驚きだが、真打はやはりIT大国中国の凄味であろう。

決済ではアリペイとウィーチャットペイが圧倒的な存在感を放ち、リアルでの購買データ情報を蓄積している。ウーバーを超える成功を収めているタクシー配車プラットフォームDiDi(ディディ)。二億人のユーザを抱える平安保険のエコシステム。

そして、ジーマクレジットによる信用スコア、与信管理の徹底は、善行を積めば明確なメリットが生まれるという点で、中国人の素行を大いに改善した。中国ではクレジットカードの普及が進んでいなかったことが、逆にジーマクレジットの普及余地を残していたのではないかと思われる。

日本企業はどのような視点転換が必要なのか

第二章では「アフターデジタル時代のOMO型ビジネス~必要な視点転換~」として、アフターデジタルの時代にあって、日本企業はどうやって視点転換をしていくべきかを説いていく。

社会インフラやビジネスの基盤がデジタルに変容する時代にあって、筆者らはOMO(オンラインマージオフライン)型のビジネスの重要さを強く主張している。

これからの時代は、もはやオフラインは存在しない前提で考えなければいけない。従来はリアルでの購買がメインであり、時々オンラインでも利用される。といった利用シーンが主流であった。しかしIOTが普及していくと、リアルでの購買情報もデジタルデータで取得できるようになっていく。つまりあらゆる購買シーンがデジタル化されていくのだ。オンラインが起点で基盤となり、リアルは直接会える貴重な場になる。オンとオフは主客が逆転していくわけである。

顧客から見れば、オフラインとオンラインは融合しているほうが便利。「客はその時に一番便利な方法で買うだけ」という言葉は特に印象に残った。

具体事例としては、アリババ系の新らしい小売り形態「フーマー」。

食配サービスアプリの餓了麼(ウーラマ)。

食品配達のメイトゥアン(美团)。

コーヒーチェーン、ラッキンコーヒー(瑞幸珈琲)などの事例が面白かった。(ラッキンは現在はヤバそうだけど)。

日本との考え方の違いは?

第三章では「アフターデジタル事例による思考訓練」として、具体事例から、アフターデジタル時代の考え方を学んでいく。

とかく日本では、やっていいことを最初に決めて法制化していくホワイトリスト方式が主流だが、中国ではやってはいけないことだけ決めていくブラックリスト方式である。当然、後者の方が自由度が高く、経済におけるスピード感が段違いとなる。

とはいえ、「データは資源である」と割り切れる、プライバシーを軽視した中国のデータ共産主義は日本人には許容し難い。厳しい個人情報保護を掲げる欧州の基準とも抵触するだろう。このあたりは専制国家の強みではあるが、なんとも難しいところ。日本ならではの良さをいかにして発揮していくか、キャラクターなどのIP資産などは一つの強みにはなっていくと思われる。

日本はどう変わっていくべきか

最終章の第四章では「アフターデジタルを見据えた日本式ビジネス変革」として、いかにしてOMO(オンラインマージオフライン)型のビジネスに転換していくかを考察している。

仕組みは容易にコピーされるが、体験はコピーされにくい。良いエクスペリエンスを提供することでユーザに感動を与え、高頻度で使うと得をする仕組みを作りだす。これからは製品から体験へと、ユーザの求める価値が変わっていく。最適なタイミングで、最適なコンテンツを、最適なコミュニケーションで提供できるか。

買い切りの単一接点から、何度でも利用してもらえる常時寄り添い型のビジネスに。そのためには、行動データを使ってユーザに良いエクスペリエンスを提供し続けること。また、こうした良いループを高速で回し続けられるスタッフが必要であるとしている。

変革の武器となる一冊

以上、非常にザックリとではあるが、『アフターデジタル』の概要をご紹介した。日本のビジネスパーソンは、デジタルが完全に浸透した世界をイメージできていない。最先端の中国の事例を見ると、異世界であるかのようなデジタル化の浸透ぶりに驚かされるばかりである。エクスペリエンスと行動データのループを高速で回す体制をいかに作れるか。この点が、これからの日本企業の重要なテーマになってくる。

なお、2020年、本書の続編である『アフターデジタル2』が刊行されている。こちらも続けて読んでみるつもりなので、読後はご紹介予定。少々お待ちを。