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『趣都の誕生 萌える都市アキハバラ』森川嘉一郎 秋葉原の光と影を考察する

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趣味の都アキハバラを読み解く

2003年刊行。筆者の森川嘉一郎(もりかわかいちろう)は1971年生まれで、明治大学国際日本学部の准教授。建築学者で、意匠論を専門とする人物。

本書は日本が世界に誇る?オタクの王国アキハバラに視点を据えた都市論である。

幻冬舎文庫版は2008年に登場している。文庫化に際して2003年以降に起きた変化についても言及されてる増補版だ。現在読むならこちらの方がおススメである。

趣都の誕生―萌える都市アキハバラ (幻冬舎文庫)

この書籍から得られること

  • 秋葉原の歴史がわかる
  • 秋葉原が他の街とどう違うのかがわかる

内容はこんな感じ

個人の趣味が街を変えていく。世界に冠たるオタクの都アキハバラ。街中をアニメ、マンガ、アダルトゲームのキャラクターが覆い尽くす、世界でも他に類を見ない異様な光景はどのような歴史の上に成立しているのか。戦後以降の発展経過を追いながら、極めて特異な変遷を辿った都市アキハバラの光と影を考察していく。

目次はこんな感じ

本書の構成は以下の通り。

  • 序章 萌える都市
  • 第1章 オタク街化する秋葉原
  • 第3章 なぜ家電はキャラクター商品と交替したか
  • 第4章 なぜ“趣味”が都市を変える力になりつつあるのか
  • 第5章 趣都の誕生
  • 増補:第6章 趣味の対立

アキハバラの不思議な歴史

まず興味深かったのがアキハバラの成り立ちだ。近くに電気系専門学校があり、ラジオの組み立て販売の大ヒットから露天商が集中。そしてGHQの露天撤廃例で、散在していたラジオパーツ系の店が集められる。これがアキハバラの原型らしい。

戦前からあった廣瀬商会(ヒロセ無線)が流通網を持っており、仕入れのために小売業者や二次卸店が集まってきたことも大きかった。そして高度成長期の家電ブームに便乗し一気に家電の街へと変貌するが、90年代に入り郊外型大型電気店への対応が遅れ、結果としてパソコンやゲームの街へと変貌していく。

この時期に奇しくもエヴァンゲリオン特需があったことがなんとも因果である。これで一気にオタク向けの市場が拡大してしまったのだ。

特異な形で発展していくアキハバラ

もともとが下町で地権者が細分化されており、大規模資本の進出がしにくかったという側面はあったにせよ、官主導で副都心として開発が進められた西新宿、西武や東急のような鉄道系企業主導で街作りが進められた渋谷・池袋、森ビルや三井不動産のような大手不動産が絡んだ六本木ヒルズやミッドタウン、それらのいずれとも異なる独自の経緯でアキハバラは発展を遂げ現代に至っている。

筆者はこれを個の趣味嗜好が都市(アキハバラ)を形成した希有な例であると説いている。

個の集合体が形成したアキハバラ

オタクたちの個の嗜好が究極的な形で露出してしまったがのアキハバラだという指摘はとても共感出来た。この街がオタクにとっての巨大なマイルームである考えれば、より「快適」な環境を求めて街中の外観がオタグッズで溢れていくのはとてもよく理解出来る。最近では年に1~2回訪れればいい方だが、学生時代(90年代前半)の数年をアキハバラのゲーム店員として過ごしたわたしは、アキハバラに行くたびに「帰ってきた」という感慨を抱いてしまうのだ。

つくばエクスプレスが開通し、ドンキホーテが出来て、AKB発祥の地となり、パチンコ屋が出来て、メイド喫茶が林立して、駅前が大規模再開発(これは官主導だ!)されたりと、変化は尽きないこの街だが、これからもその時代時代のオタクの空気を色濃く反映した街として不可思議な繁栄を続けていくことを望みたい。

関連本としてはこちらもおススメ