ビズショカ(ビジネスの書架)

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『僕の見た「大日本帝国」』『写真で読む僕の見た「大日本帝国」』西牟田靖

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原チャリでサハリンに乗り込む行動力

2005年刊行。筆者は1970年生まれのライター、ノンフィクション作家。


 

世界の50もの国を探訪。離島の訪問数も100を越える。タリバン支配下のアフガニスタンや空爆直後のユーゴスラビア、国後島への渡航などにも挑戦しており、旺盛(無茶ともいうが)な行動力には驚嘆させられる。一つ間違えればいつ死んでいてもおかしくはなかろうに。今回の著作については足かけ四年にも及ぶ取材の総決算。言葉も通じないサハリンに原チャリ一つで乗り込む度胸には賞賛を禁じ得ない。

2010年に角川ソフィア文庫版が刊行されている。

内容はこんな感じ

サブタイトルは「教わらなかった歴史と出会う旅」。

サハリン、台湾、朝鮮半島、旧南洋諸島、中国東北部。20世紀半ばまで「大日本帝国」と称され、日本の統治下に置かれていた地域は現在ではどうなっているのか。未だ各地に残る鳥居や旧日本時代の建築物の数々。そして目に見えない思想、文化、言語の痕跡。流暢な日本語を操る老人たち。残された日本人。「日本の足あと」を探す旅が始まる。

現代の日本人による「大日本帝国」探訪記

その行動力と共に驚かされるのが、その目線のフツウさ。この手の行動をする人間って、過剰に右か左に考え方が偏っている印象が往々にしてあるのだけれども、自虐的になるでもなく、一方的に見下すわけでもなく、この筆者は見たもの聞いたものを淡々と受け入れている。歴史的知識についてもイマドキな日本人で、戦中戦後の知識はあまり持ち合わせていない様子。

結果として市井の一般人的な感覚から見た「大日本帝国」探訪記となっていて、妙な気負いがない分素直に読める。戦後60年。戦時を生きた人々が徐々にこの世を去り、往時の建築物も次第に失われていくであろうことを考えると、これは非常に貴重な記録と言えるのではないだろうか。


 

なお、西牟田靖はその後、続篇とも言える『写真で読む僕の見た「大日本帝国」』を上梓している。併せてご紹介しておこう。

『写真で読む僕の見た「大日本帝国」』

2006年刊行。前著『僕の見た「大日本帝国」』は好評だったようで、新潮ドキュメント大賞の最終候補作にまで残った。それならば、ということで登場したのが本著。続編というよりは、増補版、拡張版といった趣きだろうか。前著では紹介出来なかった写真が大量に収録されている。ビジュアルの存在感はやはり圧倒的だ。

内容はこんな感じ

「日本のあしあと」をたどる旅は続く。サハリン、朝鮮半島、台湾、中国東北部、南洋諸島、これらの地域は日本の統治下におかれていた時代があった。明治中期から昭和二十年の敗戦までに残された、有形無形の数々の遺構は戦後60年を経た現在でも垣間見ることが出来る。未公開写真を400点を新たに収録し、書き下ろしエッセイも加えた期待の第二弾。

筆致がちょっと心許ない

写真のインパクトに較べると文章が力不足に思えてしまうのが惜しいところ。特に歴史的な経緯をまとめた部分は、参考資料を苦労してまとめたのだとは思うけど、たどたどしい筆致が心許なく感じた。この筆者の作品としては、まだ初期の頃ものなので、プロっぽくないところが初々しくて逆に新鮮なのかもしれないけどね。