120万部も売れたベストセラー新書
2019年刊行。筆者の宮口幸治(みやぐちこうじ)は立命館大学の産業社会学部の教授。元々は児童精神科医で、医療少年院では法務技官として勤務した経験を持つ人物。
本書は、新書大賞2020で第二位にランクインした作品である。こちらの記事によると、累計発行部数は120万部を突破している。
この書籍から得られること
- 少年犯罪が生まれる理由について知ることが出来る
- 「境界知能」の存在について知ることが出来る
内容はこんな感じ
非行に走り、少年院に収監される子供たち。彼らの多くは、物の形や数字、漢字等を認知する能力が弱い。ケーキを三等分することが出来ない。知的障害者とまではいかない「境界知能」の人々とはどのようなものなのか。人口比で16%は存在するとされているこれらの人々に対して、どのような施策が有効であるのか。
目次
本書の構成は以下の通り。
- 第1章 「反省以前」の子どもたち
- 第2章 「僕はやさしい人間です」と答える殺人少年
- 第3章 非行少年に共通する特徴
- 第4章 気づかれない子どもたち
- 第5章 忘れられた人々
- 第6章 褒める教育だけでは問題は解決しない
- 第7章 ではどうすれば?1日5分で日本を変える
"三等分"したケーキの図の衝撃
帯のインパクトでアピールするのが新書業界の常だが、本書における「非行少年が"三等分"したケーキの図」はそれが見事にハマったように思える。
一般的にIQ70未満が知的障害と分類される。しかしこれは1970年以降の分類で、1950年代の一時期はIQ85未満とされていた。しかしそれではあまりに対象者が増え過ぎるということでIQ70未満に基準が引き下げられている。
かつて知的障害に分類されていたIQ70~84の区分は、現在では「境界知能」と称される。この層に属する人々は、障がい者と見做されないながらも、通常の生活をしていくことに困難が伴うことが多い。
筆者は、少年期から非行に走り、再犯を繰り返す人物は、この「境界知能」に相当することが多いとして、自身の勤務事例を上げながらその全容を明らかにしていく。
被害者が被害者を作り出す
非行を繰り返す、「境界知能」の少年たちは、その特性故にイジメの対象となることが多い。知的障害には該当しないが故に、通常の学校に通い、周囲から浮き上がってしまい、理解者も得られず孤立していく。この悪循環が彼らを犯罪に走らせ、さらなる被害者を生み出していくのだと筆者は説く。
人間誰しもわからないものは怖い。非行少年と聞くと。何を考えているかわからない。近寄りたくない。不安。そんな印象がどうしても強くなりがちだが、彼ら固有の生きづらさを理解することが、まずは大切なのではないかと思われる。
コグトレのエビデンスはない
それでは、こうした「境界知能」の非行少年に対して、社会はどう接するべきなのか。筆者は褒めるだけの教育はその場限りにしかならず実効は薄い。適切な自己評価と、自己への気づきを与えることが重要であるとする。
筆者は、自身の考案した認知機能強化トレーニング「コグトレ」を紹介し、これにより「1日5分で日本を変える」と言い切っているのだが、これは少々我田引水が過ぎるように思える。「コグトレ」の効能や素晴らしさを説くばかりで、具体的なエビデンスを示さないのは、少々不誠実に思えるのだ。
危うさも感じる
また「境界知能」の非行少年にスポットを当てるあまりに、非行少年=「境界知能」と断じかねない危うさを感じるのも気になった点である。若くして犯罪に手を染めてしまう人々には社会的な事情、家庭や、学校などの諸問題も相応にある筈である。本書があらたな偏見の芽を育ててしまうようにも思えるのだ。
なお、本作には鈴木マサカズによるコミカライズ版が存在する(未読)。デリケートな問題なだけに、絵で見せるのは難しいと感じるのだが、内容はどうなのだろうか。現在までに4巻まで発売されており、売れているもよう。
関連書籍としては、こちらもおススメ