ビズショカ(ビジネスの書架)

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『中年の本棚』荻原魚雷 悩める中年世代へ送るおススメ本90冊

魅惑の「中年」本ガイド

2020年刊行。紀伊國屋書店出版部の無料冊子「Scripta」の2013年春号~2020年冬号にかけて連載されていたものを加筆修正のうえで単行本化したもの。

筆者の荻原魚雷(おぎわらぎょらい)は1969年生まれのライター、文筆家。『古書古書話』『日常学事始』『本と怠け者』『古本暮らし』などの著作がある。

内容はこんな感じ

いずれは誰にでも訪れる「中年」時代。自分の人生の限界が見えてくる。気力、体力共に衰え、職場では上司からの圧力と、部下からの突き上げで板挟みになる。親の介護、配偶者や子との人間関係。悩みは尽きない。

15年にわたって「中年」をテーマとした書籍を収集してきた筆者が、迷える中年たちに贈る珠玉のブックガイドエッセイ。

古今東西の「中年」本を大紹介

タイトルが『中年の本棚』となっているだけあって、本書で紹介される「中年」本の数々は圧倒的な量である。作家数にして60人以上、著作点数は90点を超える。

本書について、東京新聞の記事が出ていたのでリンクを貼っておく。筆者の荻原魚雷は三十代半ばごろから「中年」本の収集をはじめていたというのだから凄い。

www.tokyo-np.co.jp

中年時代に訪れるさまざまな悩みに対して、荻原魚雷は先人たちが残した知見に救いを求める。ジャンル的には、小説、エッセイ、スポーツ、ビジネス書、マンガ、新書の世界まで、幅広い分野から選書されており、その視界の広さに驚かされる。

人生100年時代の「中年」は意外に長い

「四十にして惑わず」は孔子の言葉だが。本書では最初の章で『「四十初惑」考』を書いている。わたしを含め、いつまでも若者気分が抜けないのが昨今の中年層ではないかと思うのだが、我々のような世代では「四十にして惑わず」は遠い境地だ。むしろ「四十にして初めて惑う」とされた方が納得感がある。筆者がこの章を冒頭に持ってきたのは、なかなかの慧眼と言えるだろう。

平均寿命と、健康寿命が延び、残念ながら定年や、年金の支給開始年代まで先送りされそうな昨今では、「中年」の時代は意外に長く続くのかもしれない。かつてであれば、中年を過ぎればすぐに定年で、やがて寿命の方が追い付いてくるような状況であったが、近頃ではそうもいかない。容易には老いさせてくれないのである。

中年期がなかなか終わらないのであれば、それだけ悩みも増えてくる。そんな我々のような世代には、興味深く読める一冊であろう。

大切なのは好奇心と睡眠

本書全体を通して、中年期のメンタルを支えていくのは「好奇心」なのではないかと、筆者は説いている。何事にも関心を持ち、面白がる力は人生と心を豊かにしてくれる。新たな出会いにも繋がるかもしれない。好奇心の衰えは心と体の老いにもつながってくるのだ。

そしてもうひとつ大切なのは、「とにかく寝る」ことであるとしている。これはわたし自身も大いに共感できる点である。なんだか疲労が抜けないな、いつも眠いな、気持ちが塞ぐなという方は、騙されたと思って睡眠時間を増やしてみていただきたい。半月も続ければ、かなり状態が変わってくるはずである(実体験)。睡眠による身心の回復力は、本当にバカにならないので、30分、1時間でもいいので、睡眠時間を増やしてみるのは超おススメなのである。

中年本の数々を紹介

それでは、以下は、本書で紹介されている「中年」本の数々をザックリご紹介していきたい。拾いきれていないものもあるかもしれないが、その点はご容赦を。

「四十初惑」考

もはや成長はおぼつかず、現状維持の難易度さえもが上がっていく40代をいかに生きるか。「我以外皆我師(我以外は皆師である」の言葉に素直に耳を傾けたいところである。

  • 野村克也「背番号なき現役」
  • 扇谷正造「80年代を生き抜く三つの方策」
  • 吉川英治「草思堂随筆」
  • 源氏慶太「四十初惑」

時をかける中年

中年男が過去をやり直す話の紹介。未来を何とかするより、過去をやり直したい。本来であれば、未来は修正可能だが、過去は変えられない。しかし、中年期に入ると、今さら未来を変えられるとは思えなくなってくる。

そこで思考のベクトルは過去へと向き始める、中年層に「過去をやり直す」系の物語がとても魅力的に映るのであろう。この中ではケン・グリムウッド「リプレイ」のしか読めていないのだが、★5レベルの名作なのでおススメ。

  • ケン・グリムウッド「リプレイ」
  • 佐藤正午「Y」「豚を盗む」
  • 藤子・F・不二雄「未来の想い出」

サブカル中年の話

大人なのに精神年齢は幼児並み?サブカル愛好者たちが、中年期にぶちあたる分厚い壁について書かれた章。アスリート化するか、半隠居化するなら、わたし的には後者を選びたい。

  • 吉田豪「サブカルスーパースター鬱伝」
  • 大槻ケンヂ「40代、職業・ロックミュージシャン」

上機嫌な中年になるには

「不機嫌の椅子は一つ」。夫婦円満の秘訣として、田辺聖子は、先にどちらかが不機嫌の椅子に座ったら、もう一人は座ってはならないと説く。「オトナ度」の大切さが問われる部分だが、これがなかなか難しいよね。

  • 田辺聖子「星を撒く」「上機嫌の才能」

「真贋」を見分ける

人間の能力は衰える一方だが、見る力は意外に衰えない。むしろ中年期以降も育てることが出来る。数をこなすこと。見ることの集積は差異を見分ける力になる。眼力は年をとっても育つ。育った眼力を試すことは、老後の愉しみとなるはずである。

  • 赤瀬川源平「目利きのヒミツ」
  • 小林秀雄「真贋」
  • 吉本隆明「真贋」

「林住期」の読書

インド思想の「四住期」によれば、「学生期」は学びの時代、「家住期」は家庭を持ち、子孫を育てる時期、「林住期」は人里を離れて森林に隠棲する時期、そして最後は俗世間から完全に離れる「遁世期」に至るとする。

中年世代は「林住期」への入り口にあたるが、日本で生きる以上、この年代での隠棲は難しい。それならば、半出家、半隠棲くらいの考え方では良いのではとする提案。

  • 立元幸治『「こころ」の出家』
  • 種田山頭火「其中日記」

日曜○○家

フルタイム、全力でコミットしない。日曜日だけなにかをやる「日曜〇〇家」的なものがあれば、隠居後も退屈しないのではないか。趣味の大切さを説く。年を取ってからも趣味は増やせるので、臆せずチャレンジしていきたいところ。この点、好奇心の大切さにもつながる。

  • 藤枝静男「藤枝静男随筆集」「欣求浄土 」
  • 曽宮一念「日曜随筆家」

プロ棋士の“四十歳本”

それぞれの時代を代表する二人の棋士が、共に「中年」本を書いているのが興味深い。

羽生の言う、可も不可もない平均点を取り続けるだけの仕事は、やがては惰性となり減速に繋がるとの指摘は、ちょっとドキッとする。

  • 谷川浩司「40歳までに何を学び、どう生かすか」
  • 羽生善治「40歳からの適応力」

仕事をやめたくなるとき

現状維持バイアスの話。とかく一つのことを続けるのが良しとされる日本社会では、陥りがちな罠でもあろう。「生きること≠働く事」。仕事は人生の一部であったとしても、人生そのものではないのである。

  • ポー・ブロンソン「このつまらない仕事をやめたら僕の人生は変わるのだろうか」

「フォーティーズ・クライシス」の研究

40代に入って感じる、感情や価値観の危機について。容貌への衰えを、その美の世界で戦わないことを選ぶか、あくまでも年相応の美が魅力なのだと開き直るか。強い女性二人の主張の違いが面白い。

  • バーバラ・シェール「フォーティーズ・クライシスなんか怖くない」
  • スザンナ・クベルカ「40歳の魅力」

「青春崇拝」と年相応

若さこそが価値。いつまでも若々しくありたい。そんなアンチエイジング志向へのアンチテーゼ的な指摘。年相応でいいんじゃない、とは思いながら、なかなか難しい。

  • アン・W・サイモン「中年の未来学」
  • 筒井康隆「家族八景」

「ガンダム世代」、中年になる

組織は理不尽なものだけど、どこかに所属していないと不安もある。そんなガンダム世代と、組織より自由や仲間が大切!と言い切れるワンピース世代の乖離を説く。

  • 鈴木貴博『「ワンピース」世代の反乱、「ガンダム」世代の憂鬱』
  • 常見陽平「僕たちはガンダムのジムである」

常見陽平「僕たちはガンダムのジムである」は過去に読んだ。これが初期の汎用機である「ザク」でなく、最新型の量産機「ジム」であるところに、ホワイトカラー層ならではの上から目線を感じないでもない。

水木しげる、長寿と幸福の秘訣

睡眠と適度な貧乏の効用を説く。この辺の機微はさすがの水木しげるであるが、この方、生半可な人じゃないからなあ。

  • 水木しげる「ゲゲゲの家計簿」「水木しげるのニッポン幸福哀歌」

「中年シングル」の課題

中年の「おひとりさま問題」についての考察。彼らが行きつけの店を求めてしまうのは、自己を外の視点から見てくれる「他人という鏡」を必要としているからではないのか。

  • 津野海太郎「歩くひとりもの」
  • 関川夏央 「中年シングル生活」

それぞれのかたち

親の介護について。親子関係が人それぞれであるように、介護の形も人それぞれでいい。決まった形があるなんて思わなくていい。こう考えられると少し楽になれるかも。

  • 伊藤比呂美「父の生きる」
  • 伊藤比呂美、石牟礼道子「死を想う」

『赤グリ』と『青グリ』

この章は自己啓発本から。「やりぬく力」とされるGRITは以下の四語の頭文字。いくつになってもGRITは伸ばせる。

GRIT
度胸(Guts)
復元力(Resilience)
自発性(Initiative)
執念(Tenacity)

  • アンジェラ・ダックワース『やり抜く力 人生のあらゆる成功を決める「やりぬく力」』
  • リンダ・キャプラン・セイラー ロビン・コヴァル『GRIT 平凡でも一流になれる「やり抜く力」』
  • アリアナ・ハフィントン「サード・メトリック」

中年の文学

年を取るにつれて「小説を真に受けなくなる」現象が発生することがある。小説の類が読めなくなってしまうのである。こうした時の処方箋として挙げられているのが、1980年代の直木賞作家神吉拓郎(かんきたくろう)である。

  • 神吉拓郎「神吉拓郎傑作選」珠玉の短編/食と暮らし編 

もっと早く知りたかったなあ。わたしはこの「小説を真に受けなくなる」病が自然治癒するまで10年近く小説が読めかなったのである。

“世の中とうまくやってけないけどなんとか生きてる”先輩

この章では女性向けコミックスから。45歳バツイチ、非コミュ。うらぶれていた中年女性が、人生の意味を再度見出していくお話。これ読んでみたかったんだよね。「探せば生きていける隙間はある」は、なかなかに刺さる一文。

  • 入江喜和「たそがれたかこ」

文学中年の課題

中年世代に大切な「好奇心」の維持について。興味や好奇心を失えば、どんな文学もつまらなくなる。物事をつまらなくしているのは、結局のところ自分に責任があるということなのか。

  • 中村光夫「現代作家論」「文学の回帰」「想像力について」「老いの微笑」「近代の文学と文学者」「読書についてIII」「知人多逝 秋の断想」

尾崎一雄の「小さな部屋」

私小説作家、尾崎一雄の作品から。尾崎一雄は、 経済、家庭、生命、思想の危機が訪れないと私小説は書けないと云う。

故に、これらの悩みに直面した際には、尾崎一雄の作品が効くのではないか。余命三年を宣告されたからこそ、身の回りを大切に思う気持ちも出てくる(最も尾崎一雄は余命宣告後、四十年も生きたが……)。

  • 尾崎一雄「虫のいろいろ」「痩せた雄鶏」「美しい墓地からの眺め」「沢がに」

「下流中年」の生きる道

この章は人気の新書から。経済面への不安について。もはや頑張れば生活苦がなんとかなる時代ではない。どんな時代でも幸せに生きている人はいる。お金が無いなら無いなりに暮らしていけるスキルを持つこと。底辺だの、下流だのいった流行りの言葉に振り回されない、強い自我を持てと筆者は説くが、これもまた難しい。

  • 山田昌弘「底辺への競争」
  • 雨宮 処凛・萱野 稔人・赤木 智弘・阿部 彩・池上 正樹・加藤 順子「下流中年」

中年フリーランスの壁

フリーランスも年齢が40歳を超えると、発注者である編集側が自分よりも若年層になるので、依頼がかけにくくなり仕事が減る。これが「フリーランス、40歳の壁」である。

  • 竹熊健太郎「フリーランス、40歳の壁」「私とハルマゲドン」
  • 上田惣子「マンガ自営業の老後」

フリーランスに限らず、偉くなれなかった会社員でも、同種の事態は起こりうる現象だ。上司の方が若くなり、案件にアサインされなくなるのである。

望んだ仕事が得られない不安は、精神をすり減らす。経済面での備えはむろん必要だが、ここでも筆者は「寝不足で仕事をしないこと」と睡眠の大切さを力説している。

色川武大、「心臓破り」の五十路

色川武大(いろかわたけひろ)は、別名、阿佐田哲也(あさだてつや)と書いた方が通じる人が多いだろうか。節制と健康について書かれた章。しかしこの人の真似は、常人は辞めておいた方がいいような……。

  • 色川武大「戦争育ちの放埓病」「百」「いずれ我が身も」「引っ越し貧乏」「喰いたい放題」「あちゃらかぱい」「ばれてもともと」「無芸大食大睡眠」

“新中年”に学ぶ

女性(ジェーン・スー)の書いた中年論。男性目線ばかりでなく、女性の著作もきちんと取り入れているのはありがたい。「大人だと思ったら安全策と妥協案しか取れなくなってた」がグサッと心に刺ささる。

  • ジェーン・スー「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」「女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり」「未中年」

「中年男」のライフ・コース

誰もが望んだ地位、望んだ人生を歩めるわけではない。そして、これからの時代の老後は長い。"なれなかった後"の人生をどう生きるか。彼らの出した結論が気になる。

  • 田中俊之 髭男爵山田ルイ53世「中年男ルネサンス」
  • 田中俊之「<40男>はなぜ嫌われるか

「輝く中年」の孤独

中年世代の孤独にフォーカスした章。女性に比べるとコミュニケーション能力が貧困であるとされる男性が、いかにして周囲に嫌われずに関係性を作っていけるか。話上手よりも、聞き上手。相手に対する気遣いと思いやりこそが大切なのだ。

  • 神足裕司「輝く中年の星になれ」「金魂巻」
  • 河合隼雄「中年クライシス」
  • 岡本純子「世界一孤独な日本のオヂサン」

さらされるバブル世代

1966年生まれ。エッセイスト酒井順子の著作から、バブル世代の特徴と陥りがちな問題点を挙げていく。欲望に忠実で、なかなか年相応の生き方が出来ないバブル世代。しかし、無理に前後の世代に迎合するよりも、その特性を尖らせて行った方が良いのではと筆者は指摘する。

  • 酒井順子「センス・オブ・シェイム」「中年だって生きている」「駄目な世代」

「昨日できなかったことが今日できるようになる」

この章は、単行本化にあたって新作として追記されたパートである。星野博美は酒井順子同様に、1966年生まれのバブル世代。

「現実に体当たりでまみれている人の文章」として、筆者の評価が特に高かった作家である。これは読んでみたくなる。

  • 星野博美「戸越銀座でつかまえて」「銭湯の女神」「のりたまと煙突」「迷子の自由」「島へ免許を取りに行く」

橋本治、明日の中年のために

若き日の荻原魚雷は、橋本治のセミナーに参加し、”橋本治の弟子”を自称して良しとされていたらしく、最終章は”師”の著作を取り上げている。

若さに拘泥しない。むしろ「年をとらなきゃだめだ」。経験を積むからこそ、自分に自信が持てるようになるという橋本治の主張は、正しく歳月を積み重ねることの大切を教えてくれる。

  • 橋本治「89'」「問題発言2」「貧乏は正しい」「失楽園の向こう側」「上司はおもいつきでものをいう」「バカになったか日本人」「いつまでも若いと思うなよ」