SNS全盛時代の世論操作術
2018年刊行。筆者の福田直子はドイツ在住のジャーナリスト。
本書では、ネットが当たり前になった時代、特にSNS全盛時代のポピュリズムの危険性を指摘している。
ポピュリズムとは聞きなれない言葉かもしれないが、wikipediaから当該項目を引用してみるとこんな感じ。
ポピュリズム(英: populism)とは、一般大衆の利益や権利、願望、不安や恐れを利用して、大衆の支持のもとに既存のエリート主義である体制側や知識人などと対決しようとする政治思想、または政治姿勢のことである。日本語では大衆主義(たいしゅうしゅぎ)や人民主義(じんみんしゅぎ)などのほか、否定的な意味を込めて衆愚政治や大衆迎合主義(たいしゅうげいごうしゅぎ)などとも訳されている。
最近の例としては、2016年のトランプが選出されたアメリカ大統領選、イギリスの国民投票によるEU離脱決議(Brexit)なんかが記憶に新しいところかな。
おススメ度、こんな方におススメ!
おすすめ度:★★★(最大★5つ)
インターネット、特にSNSを使った選挙運動に関心のある方、Facebookのような巨大SNSがどうやって個人の嗜好を特定して広告を狙い撃ちしてくるのか知りたい方におススメ。
内容はこんな感じ
心理分析を使った選挙キャンペーン(アメリカ大統領選、イギリスのEU離脱問題)、国家単位での国際的な世論誘導。Googleや、Facebook、Twitterなどの巨大ネットサービスの個人最適化が行き着くところは「自分の意見に近しいもの、自分の嗜好に合ったもの」なのではないか?かつてなく巧妙かつ、精緻なものとなってきたネット時代のポピュリズムの危険性に警鐘を鳴らし、新しい時代の民主主義の在り方を問う一冊。
ネット広告はピンポイントで個人を狙い撃ちしてくる
最近のネット広告、特にGoogleやFacebookの出してくる広告って、どうしてこんなに自分のことをピンポイントで狙ったものを出してくるのか不思議に思ったことはないだろうか?この点については、先日書いた、小川卓の『あなたのアクセスはいつも誰かに見られている』でもご紹介した。
わたし自身も仕事でやっているのでわかるだが、最近のネット広告のセグメントの細かさはホントに凄い。実に事細かな設定で、配信相手を細分化できるのだ。故に、主義主張、思想信条を分析され尽くした上で、そっと差し出される最適化情報は、けっこう危険なのである。
本書は、その危険性が政治の分野に利用された場合の問題点について説いていく。IT企業側のモラルが求められると共に、受け手側のリテラシーの改善も必要だろう。
ネットを鵜呑みにしない、それ以外の情報源の確保も大切
GoogleやFacebook、Twitterなどの巨大SNSが、情報を収集しビッグデータを使った商売をしていくことは、もはや押しとどめることはできない。だからと言って、好ましいもの、不快感を覚えないもの、自分の考えに近いものだけを選択していくと、世界はとても狭くなってしまう。自分で選んだようでいて、実は選ばされているという事実を自覚して、ネット以外の情報源も確保しておくとが大切なのかな。難しそうだけど。
新聞の購読率が減り、テレビを見る人も減っている。ニュースはネットで見ればいいじゃないというけれど、ネットで見ているニュースは、自分が見たいと思ったもの、読みたいと思った話題に沿ったフィルターがかけられ、偏った内容のものしか表示されなくなってくることを自覚しないといけない(まあ、新聞、テレビの報道が決して公明正大でないのは承知の上でね)。
不快な思想、自分と異なる意見にも耳を傾けることは、決して楽しいことではない。
けれども、それらと時には直面することで自分の考え方の軌道修正も出来るし、世の中を知ることもできるわけで、これからの時代、意図的に自分とは違う思想にも注意を払って生きていくべきなのだろうなとは感じた。
国民投票はポピュリズムを許してしまいそう
おそらく日本で近い将来に実現するかもしれない、憲法改正に伴う国民投票では、こうしたデジタルポピュリズムが猛威を振るうことは容易に想像できるだけに、しっかりと備えておくことが大切かな。
本書ではSNS経由で差し込まれてくる広告の姿を借りたプロパガンダに加えて、まことしやかに見てきたような嘘をつく、フェイクニュースの類についても警告を発している。フェイクニュースによるデマゴーグは、日本ではまとめサイトの類で拡散されがちだし、SNSとの相性も良く、ひとたびバズると猛烈な勢いで拡散してしまう。後から正しい情報が配信されたとしても、往々にしてそれが隅々までいきわたることは無い。
こうしたフェイクニュースに対する対応として、欧米ではその真偽を確認する、ファクトチェックサービスが導入されている。遅まきながら日本国内でもいくつかサービスが始まっているようなので、必要に応じて利用してみるとよいかと思われる。
ファクトチェック・イニシアティブ – FactCheck Initiative Japan(FIJ)