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『江戸で部屋さがし』菊地ひと美 江戸時代住居の間取りを豊富なカラーイラストで紹介

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専門家が教えてくれる江戸時代の部屋さがし

2022年刊行。作者の菊地ひと美は、1955年生れの江戸衣装と暮らし研究家、日本画家(画号・菊地一美)。

江戸で部屋さがし (The New Fifties)

ちくま文庫の『江戸衣装図絵』シリーズ、東京堂出版の『江戸の暮らし図鑑』、三省堂の『お江戸の結婚』などなど、江戸文化に関する著作が多数ある。いずれもイラストが豊富そうなので、資料として役に立ちそう。

『江戸で部屋さがし』講談社BOOK倶楽部のレビュー記事はこちら。

この書籍から得られること

  • 江戸時代の住居がどうなっていたかがわかる
  • 江戸時代の家賃相場がわかる

内容はこんな感じ

江戸の人々はどんな家に住んでいたのだろうか。間取りは?家賃は?そして住環境はどうなっていたのか。現存する史料をもとに、町人と武士、二つの身分から「江戸での部屋探し」を考える。町人は裏店の長屋から、日本橋に居を構える大店まで。武士は組屋敷から、大名、殿様のお屋敷まで。豊富なカラーイラストと共に解説していく。

目次

本書の構成は以下の通り。

  • はじめに
  • 第一章 町人
  • 一 裏長屋
  • 二 裏長屋の住人 職人
  • 三 裏長屋の住人 商家
  • 四 裏長屋の住人 自由人
  • 五 江戸の女たち
  • 六 裏店住まいの女
  • 七 表店 商家
  • 八 大店と越後屋
  • 九 上商家と暮らし
  • 十 町と大家
  • 十一 貸店いろいろ
  • 第二章 武家
  • 一 直参と拝領屋敷
  • 二 下級武士の組屋敷
  • 三 中級武士・旗本の家
  • 四 武家屋敷の特色 座敷
  • 五 武家屋敷の特色 夫人棟と水回り
  • 六 書院と床の間とは
  • 七 数寄屋
  • 八 上級武家屋敷
  • 九 大名、殿様の屋敷
  • あとがき

カラーイラスト満載で楽しい!

本書は二部構成となっている。第一部では伊達藩(仙台藩)から、江戸で三味線を教えるために上京してきた菊香を主人公として、町人の目線から見た江戸の部屋さがしが描かれる。そして後半の第二部では、参勤交代で江戸にやってきた伊達藩の若き侍、真二郎を主人公として、武士の目線からの江戸の部屋さがしを描いていく。

本文中には多数のカラーイラストが掲載されており、ビジュアル的に江戸の部屋さがしを楽しむことが出来る。これは嬉しい。特に楽しいのは、江戸時代の住宅間取り図で、こうしたものは、なかなかお目にかかることが出来ないだけに興味深い。

裏店の長屋暮らしが楽しそう!

第一部の前半パートは、庶民の暮らし編だ。江戸の街は、大きな通りには表店(おもてだな)と呼ばれる店舗が軒を連ねる。そして、その奥には裏店(うらだな)と呼ばれる、長屋棟が配置されることが多い。江戸時代の多くの庶民は、この裏店で暮らしていた。

一般的な間取りは九尺二間(2.7×4メートル)。四畳半に竈と調理スペースが一畳半分ついて、家賃は月額25,000円。当然風呂はなく(銭湯を使う)、トイレは共同利用だ。玄関や、収納などのスペースは無いので、これは相当に狭く感じるはずだ。基本は板の間で、畳は店子が自分で用意する(故に転居時は畳を持っていく)。

江戸での店舗経営はたいへんそう

第一部の後半パートは、店舗経営をするための物件についてだ。江戸における小規模店舗の広さと、家賃相場はこんな感じ。基本的に住居を兼ねている。

  • 間口2.7×9メートル:月額140,000円
  • 間口4×9メートル:月額154,000円
  • 間口5×11メートル:月額225,000円
  • 間口4×15メートル:月額225,000円

現代の感覚だとけっこう安く感じてしまうけど、当時としてはどうなんだろう。でも、間口2.7メートルはかなり狭いよね。

ちょっとランクアップした上商家向けの物件だとこんな感じ。

  • 間口6×9メートル、蔵4×6メートル:月額340,000円 ※二階建て蔵付き
  • 間口11×15メートル:月額450,000円 ※平屋、造作付き

圧巻は当時の超巨大企業越後屋(現三井)で、その敷地の広さに驚かされる。しかも関西が本場の三井にとって、江戸は支店に過ぎないというのがなんとも。

武家地は広い!

江戸は、将軍家の家来(旗本、御家人)だけでなく、参勤交代でやってくる他藩の奉公人も住んでいたから、とにかく武家地が広い。江戸のおよそ七割は武家の専用スペースだったというから、いかに町人たちが狭い空間に押し込められていたかがよくわかる。

武家の場合、住居スペースは幕府から貸与される。いわゆる拝領屋敷というやつだ。あくまでも一時貸しなので私有はできない。身分や役柄によって、家屋敷の格は決まっているので、異動があれば転居の必要がある。

本書中では、御徒組に属する、七十俵五人扶持武士の、200坪にも及ぶ拝領屋敷が紹介されている。けっこう広い!七十俵五人扶持は、石高に換算すると40石弱程度だろうか。

ちなみに俵→石高の換算には、こちらのサイトを参照した(凄い!)。

もっと身分の低い、20石取りの足軽だと六畳+四畳半+二畳、台所。これでも町人の長屋よりは広い。逆に400~600石取りの中級武士になると、四百坪もの広大な敷地を与えられることになる。

中級武士でこの広さだから、大名クラスになると、もはやとんでもない広さになる。各大名らには、本宅である上屋敷、隠居した前当主や世子らが住む中屋舗、更には、郊外の別宅である下屋敷と三つの屋敷を持っており、その特権階級ぶりがよくわかる。

ちなみに東京都内には、現在でも当時の大名たちの邸宅跡が、大名庭園としていくつか残されているので(それでもかなり敷地を削られているが)、実際に見てみるとその広大さが理解できると思う。

都内に現存する大名庭園マップを参考までに貼っておこう。

以上、菊地ひと美の『江戸で部屋さがし』をざっくりとご紹介させていただいた。筆者ご本人によるイラストもあって、眺めているだけでもかなり楽しい一冊だと思う。江戸の暮らしについて興味をお持ちの方にはおススメの一冊といえる。

江戸の暮らしを知りたい方はこちらも