中里和人による舟小屋写真が素晴らしい
2007年刊行作品。刊行当時、表紙を見て速攻購入。
もしかしてと思ったら、やはり写真は中里和人(なかざとかつひと)だった。中里和人は1956年生まれの写真家で、現在は東京造形大学の教授にもなっている。昔ながらの小屋や、いい感じの古い長屋群、夕暮れ時の逢う魔が刻の光景など、いまどきの言い方で言うとエモい写真を取らせたら天下一品のフォトグラファーである。
本書は日本海沿岸に点在する舟小屋の紹介本である。今でも舟小屋の残る13集落のカラー写真(中里和人が撮影)を元に、民俗学、建築方面の専門家である神崎宣武(かんざきのりたけ)、中村茂樹(なかむらしげき)、畔柳昭雄(くろやなぎあきお)、渡邉裕之(わたなべひろゆき)らによる舟小屋コラムが中間部のモノクロページに入る構成となっている。
内容はこんな感じ
舟小屋とは漁労に出られない冬期に、漁船を陸に揚げ長期保管するための小屋のことを指す。太平洋岸にはほとんど見られず日本海沿岸に多く残る。日本海特有の豪雪、干満の少なさ、そして沿岸部開発の遅れなどが主な原因とされている。貴重な民俗遺産でありながら、これまで注目されることがなかったその存在にスポットを当てていく。
日本各地の舟小屋写真を収録
筒石、寺家(じけ)、麦ヶ浦、奥原、長尾(なご)、岩車、三方五湖、成生、田井、水ヶ浦、伊根、新井崎(にいざき)、隠岐。言葉の響きを想像し、字面を眺めているだけでもワクワクする。まだまだ知らない土地がこの国は沢山あるのだ。
地域ならではの独自の発展を遂げた舟小屋の数々が素晴らしい。程度の差はあるにしても、いずれもまだ「生きている」小屋である点に注目。以前に五能線沿線を旅した時に、たくさん漁師小屋を見たけど、あちらはほとんどが廃屋同然だっただけにこの生活感は嬉しい。
圧巻は伊根
圧巻は230軒もの舟小屋が湾口をびっしり埋め尽くす伊根(京都府伊根町)だろう。一般的な知名度も伊根は特に高い地域だと思う。
おおおおおおお。行きteeeeeeeeeeeeeee。素敵過ぎるなこれは。ストリートビューも貼っておこう。
成生(京都府舞鶴市)の連棟式舟小屋「シチケンブン」(七棟の舟小屋が連結されている)も身震いがしそうな程の素敵物件。こちらのBlogで画像が紹介されていたのでリンクさせて頂く。
しかしながら、舟小屋の残っている土地は、いずれも交通の便が悪くて、鉄道旅主体の自分だとなかなか訪れる機会が無いんだよなあ。体力のあるうちに自転車でも担いで遠征すべきだろうか。
おまけ リクシルギャラリーを知っているか?
突然だが、LIXIL(リクシル)ギャラリーをご存知の方はおられるだろうか?
建築材料・住宅設備機器業界大手のLIXILは私設のギャラリーを東京と大阪に設置している。こちらでは建築や、民俗、自然科学系の展示を通年で行っており、そちら系のネタが好きな人間にとっては楽園のような場所なのである。
かつてはINAX(イナックス)ギャラリーの名で知られていたが、企業合併により現在はLIXILの名称で運営がなされている。
今回紹介した『舟小屋―風土とかたち』も企画展がINAXギャラリー(当時)で開かれていた。
入場無料なので(←素晴らしい!)近くに行かれた際には、是非チェックしてみた頂きたいスポットである。