サントリー学芸賞受賞作品
筆者の鈴木博之(すずきひろゆき)は建築史家。東京大学や、青山大学の教授を歴任。東大の名誉教授にもなり、2014年に68歳で亡くなっている。
本作は1990年に文芸春秋社から刊行され、サントリーが主催する学術賞、サントリー学芸賞を受賞している。文春文庫版は1998年に登場。
その後、2009年にちくま学芸文庫版が登場した。これなら最近でもまだ探せばあるかもしれない。わたしが読んだのもこちらの版である。
内容はこんな感じ
江戸幕府誕生時に鬼門除けとして設計された上野は、幕末に彰義隊最後の地となり、明治政府にとっても特別な場所となった。 大久保利通暗殺の地に作られた、紀尾井町司法研修所のその後。 昭和天皇の皇后の実家である、広尾の久邇宮邸が、後に聖心大学となり、平成天皇の妃となる方の学びの場となった話などなど……。土地にまつわる歴史的因縁が生み出す「地霊」の姿を読み解いていく。
目次
本書の構成は以下の通り。
- 港区六本木 民活第一号の土地にまつわる薄幸
- 千代田区紀尾井町 「暗殺の土地」が辿った百年の道のり
- 文京区‐護国寺 明治の覇者達が求めた新しい地霊
- 台東区‐上野公園 江戸の鬼門に「京都」があった
- 品川区‐御殿山 江戸の「桜名所」の大いなる変身
- 港区芝 現代の「五秀六艶楼」のあるじ
- 新宿区‐新宿御苑 幻と化した「新宿ヴェルサイユ宮殿」
- 文京区‐椿山荘 目白の将軍の軍略にも似た地政学
- 中央区日本橋室町 三井と張り合う都内最強の土地
- 目黒区目黒 「目黒の殿様」がみせた士魂商才
- 文京区本郷 東大キャンパス内の様々なる意匠
- 世田谷区深沢 東京西郊の新開地・うたがたの地霊
- 渋谷区広尾 昭和・平成二代にわたる皇后の「館」
地霊(ゲニウス・ロキ)とは?
本書で示す「地霊(ゲニウス・ロキ)」とは、その土地にかつて起きた神秘的、悲劇的な事情により、感性的な影響が残り、いつしかその場所そのものが、独自の精神を持つに至ったものとされている。
数奇な運命を辿った土地には、人々の想いが残り、その後の歴史に影響を与えていく。無論「そうでない例」も枚挙に暇はないのだろうが、いつまで経っても処分できない土地、悲劇的な事ばかり起きる因縁の地は確かにある。
無念の想いが籠る土地、いわくつきの場所には、誰しもが近付きたくない、関わりたくないと思うものだろう。遺された人々の怖れ、尊重の想い、鎮魂の念がこうした土地を作っていくのではないか。個人的にはそのように感じた。
GoogleMapで一覧にしてみた
で、本書に掲載されていた曰くつきの物件の数々をMap化してみたのがこちら。
うわー見にくい……。章ごとにアイコンをいちおう色分けしてみたけど、パッと見なんだかわからないという……。色彩のセンスが無いの致命的だな。
本書では東京だけでなく、神奈川県内や、関西地区の物件についても言及されているので、そちらも出来る限り拾っている。縮尺広げていくと関西方面の物件も出てくるので、興味がある方は試してみて頂きたい。
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