ビズショカ(ビジネスの書架)

ビジネス書、新書などの感想を書いていきます

『人口減少時代の土地問題』吉原祥子 面倒でも土地の登記はしっかりと!

本ページはプロモーションが含まれています

全国の土地の2割は所有者がわからない

2017年刊行の中公新書。筆者の吉原祥子(よしはらさちこ)は1971年生まれ。民間のシンクタンク東京財団の研究員。

帯の惹句にもあるとおり、「持ち主がわからない土地が九州の面積(国土の2割)を越えている」。日本では2011年以降、少子高齢化に伴う人口減少時代に突入している。日本各地に空き家が増え、相続放棄された土地が激増している。本書では、土地制度の側面からその原因と対策について論じている。

この書籍から得られること

  • 土地登記制度の構造的問題がわかる
  • 人口減少社会で、土地所有にどんな課題があるのかがわかる

目次

本書の構成は以下の通り

  • 第1章 「誰の土地かわからない」――なぜいま土地問題なのか
  • 第2章 日本全土への拡大――全国888自治体への調査は何を語るか
  • 第3章 なぜ「所有者不明化」が起きるのか
  • 第4章 解決の糸口はあるのか――人口減少時代の土地のあり方

土地の登記はものすごく面倒くさい

私事で恐縮だが、三年前に母が他界した際に、実家の家屋と土地を相続した。この時、行政書士などを使わずに自分で手続きをすべてやってみたのだが、事前に法務局に相談をし、被相続人の戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本と住民票を集め、遺産分割協議書を作り、印鑑証明書を作りと、相当な手間がかかった。ハッキリ言って、ものすごく面倒だった。

わたしの実家は、郊外の一戸建てで、権利関係もすっきりしており、近隣との境界問題も無い。それでもこれだけ面倒なのだから、境界も定かでない地方の山林や、権利関係が複雑な土地の相続登記の困難さは想像に難くない。

人が減るから土地も余る

そもそもの土地登記が煩雑で手間がかかることに加えて、現代では少子高齢化による人口減少問題が絡んでくる。高度成長期に農村から都会に出てきた人々は、既に都市部に家があるわけで、地元の田畑や山林の相続に消極的だという。また、そもそもこれからは子供が生まれないのだから、相続人が存在しない不動産も増えていくだろう。

仮に、相続した土地を利用し続けるとしても、土地を売りに出すのでなく、そのまま使用し続けるのであれば罰則規定も無く、何の問題もなく利用できてしまうのだそうだ。こうして、相続登記を先延ばしに数十年という歳月が経てしまうと、相続人が無くなった際には更に相続対象者が増えて権利関係はより複雑になっていってしまう。

本書では、三代にわたって登記を放置していた土地で、相続対象者が150人を超えてしまったという事例が紹介されている。これは極端な例かもしれないが、日本各地にはこのような土地が爆発的な勢いで増えているのである。

人口減少時代の新しい土地制度が必要

戸籍と土地の登記情報は連動していない。つまり、土地所有者が亡くなっても、土地の登記情報は相続人がアクションを起こさない限りそのままなのである。死亡届は自治体に提出されるが、相続登記は法務局の担当であり、両者はまったく連動していないのだ。まずはこの根幹の部分から変えていかないと、どうしようもないだろう。

経済が右肩上がりの時代に設計された仕組みは、人口減少時代には適合できず、機能不全に陥っているのだ。

筆者は本書を以下のように締めくくっている

土地とは私たちの暮らしの基盤であり、代替性のない唯一無二のものである。30年以上、あるいは50年以上前のままの土地登記が、いま各地で土地利用の妨げとなっているように、土地制度の課題について無自覚や解決の先送りは、子や孫の世代に負の遺産を残すことになる。

解決の先送りによる社会的コストのかかり増しという負の連鎖を食い止め、土地を次の世代へ適切に引き継いでいくために、いま人口減少時代に適した土地制度の整備が必要なのだ。

土地登記制度の不備がもたらす影響は、遠からずわたしたち自身にも及んでくる。

固定資産税は自治体収入の4割に該当する。つまり、相続登記がなされずに、納税者が特定できずにいると、地方自治体の税収はどんどん落ち込んでいくことになり、結果として納税者にもしわ寄せが来るのである。明日は我が身と思って、少しでも備えておきたいところである。

土地問題が気になる方はこんな書籍もおススメ