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『ルポ貧困大国アメリカ』堤未果  格差社会の本場アメリカの怖ろしさ

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70万部も売れた大ベストセラー

2008年刊行。日本エッセイスト・クラブ賞及び、新書大賞をダブル受賞したことで知られる。刊行当時は70万部を売った大ベストセラーである。

筆者の堤未果 (つつみみか)は1971年生まれの作家、ジャーナリスト。ニューヨーク州立大学、ニューヨーク市立大学大学院を経て、国際連合婦人開発基金、アムネスティ、野村證券に勤務。その後ジャーナリストに転身と、華々しい経歴の方である。

最近の著作では幻冬舎の『日本が売られる』あたりが記憶に新しいところであろうか。

この本で得られること

  • 格差社会の本場アメリカの実情がわかる
  • アメリカで貧富の差が拡大している理由がわかる

内容はこんな感じ

階層化の更なる加速。貧富の差の拡大。中流層の没落。二極化が進むアメリカでは何が起きているのか。最貧層の人々はいかにして転落の道をたどったのか。アメリカという国の構造的な問題点はどこにあるのか?渦中の人々への取材を通して見えてくる「貧困大国アメリカ」の真の姿とは……。

目次

本書の構成は以下の通り。

  • 第1章 貧困が生み出す肥満国民
  • 第2章 民営化による国内難民と自由化による経済難民
  • 第3章 一度の病気で貧困層に転落する人々
  • 第4章 出口をふさがれる若者たち
  • 第5章 世界中のワーキングプアが支える「民営化された戦争」

格差社会の本場アメリカの怖ろしさ

本書は格差社会の本場アメリカの貧困はこんなに凄いんだぜという驚異の一冊である。刊行されたのは2008年。これはあの「リーマンショック」が起きた年である。

貧困層を狙い打ちにした住宅販売は、サブプライムローン問題に発展する。ローンが払えない人々はせっかく購入した新居を売却。結果、莫大な借金が残り家を買う前よりも生活は苦しくなってしまう。

貧困層は食事に費用も手間もかけられないため、安価でかつ高カロリーな食材に頼りがち。結果として貧困家庭の小中学生にはピザ太りの肥満児童が増大する。金持ち=デブのイメージは、アメリカでは既に過去の遺物であるらしい。

民営化の落とし穴

「政府機関がダメダメだからと民営化に踏み切ったら、市場原理に翻弄されてサービスそのものがなくなったでござる」の巻。

連邦緊急事態管理庁(FEMA)は民営化後、過酷な同業他社との価格競争に晒され、本業の機能が麻痺。ハリケーン・カトリーナの来襲にも無策であったと云う。 また、公立学校を成績別に競わせ、市場原理の中に放り込んだ結果、ダメ学校の予算や教員が大幅カットされた。

公共事業の安易な民営化がどんな事態を生み出すかは、日本でも「郵政民営化」の末路を見ていると、だいたい同じような末路を辿るのかもしれない。

国民皆保険制度がないアメリカ

アメリカには日本のような国民皆保険制度が無い(当時)。メディケイドという最後にすがるべき公保険はあるが、それは余程の貧困状態にまで生活水準を落とさないと使用できない。ニューヨークで盲腸による入院をしたら243万円かかるらしい!アメリカ社会では、一回大病をしただけで中間層も一気に貧困化してしまうリスクがある。

そして、訴訟社会であるアメリカの医師では、医療過誤による訴訟に備えるための保険料が年間22万ドル!に及ぶケースもあるのだとか。アメリカでも産医師不足は深刻らしい。

社会保障を切り詰めた果てに

社会保障をとことん切り詰めれば、イデオロギーと関係なく、貧困層は軍隊に生きる場所を求めざるを得ない。学費補助や、生活の保障を餌に新兵を募集。しかし肝心の学業への保証は限りなく無に等しく。当時の新兵は即座にイラクに送られ、PTSDやらドラッグ、劣化ウランの危機にさらされた。これはもはや一種の、経済的な徴兵制なのである。

更にたちが悪いのが民間の戦争支援業者なのである。彼らは兵士ではなく、現地作業員(警備、運送等)として民間人を徴用。しかも行く先はイラクではなくクウェートだとして募集をしている。これらの民間人は軍属ではないため、戦地での虐待行為をしたとしても国際法に問われないのだとか。

本書はゼロ年代のアメリカの貧困層の絶望を見事に切り取って見せた一冊である。

続巻が出ているので、併せてこちらもいずれご紹介するつもり

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