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『荒野へ』ジョン・クラカワー アラスカの荒野で若者はなぜ死んだのか

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実話に基づくベストセラーノンフィクション

2007年刊行作品。筆者のジョン・クラカワー(Jon Krakauer)は1954年生まれの作家、登山家、ジャーナリスト。

オリジナルの米国版は1996年刊行で原題は『Into the Wild』。もともとは、米国のアウトドア雑誌「Outside」に掲載された1993年の記事を加筆修正のうえで書籍化したもの。全米でベストセラーとなり、その後30の言語に翻訳されている。

荒野へ (集英社文庫)

わたしが読んだ日本版は2022年7月の時点で第11刷となっていた。日本国内でも長期に渡って売れ続けている作品となっている。

この本で得られること

  • 若さゆえのあやまちについて改めて考えることが出来る
  • 自分の若いころはどうだったのか考えることが出来る

内容はこんな感じ

クリストファー・ジョンソン・マッカンドレスは、東海岸の裕福な家庭に生まれ育ち、大学を優秀な成績で卒業した。しかし彼は24,000ドルもの預金を慈善団体に寄付すると、突如として失踪を遂げた。そして2年後、彼はアラスカの荒野で餓死死体として発見される。恵まれた生活を捨て「荒野へ」と彼を突き動かしたものは何だったのか?マッカンドレスの足跡と、僅かに残された手記を元にその軌跡をたどったノンフィクション作品。

目次

本書の構成は以下の通り

  1. アラスカ内陸部
  2. スタンピード・トレイル
  3. カーシッジ
  4. ディトライトゥル・ウォシュ
  5. ブルヘッドシティ
  6. アンサーボレッゴ
  7. カーシッジ
  8. アラスカ
  9. デイヴィス・ガルチ
  10. フェアバンクス
  11. チェサピーク・ビーチ
  12. アナンデール
  13. ヴァージニア・ビーチ
  14. スティキーン氷冠
  15. スティキーン氷冠
  16. アラスカ内陸部
  17. スタンピード・トレイル
  18. スタンピード・トレイル

同じ章名が複数回登場、しかも連続している部分があるが、これは間違いではなく、実際にこのような構成になっている。

文明や家族のしがらみから逃れたい

アメリカの青年マッカンドレスは、大自然の中での何ものにも束縛されない暮らしを夢見る。彼はアメリカ国内を転々としつつ、労働により資金を貯めると、1992年の4月にアラスカに入る。しかし彼の装備は貧弱で、ごくわずかな食糧しか持参していなかった。文明への嫌悪感があった彼は、現地に地図やコンパスを持ち込むこともしていなかった。もちろん、いざという時に助けを呼ぶための通信機材などの用意もなかった。

彼は狩猟と、採集の生活で、それでも四か月をこの地で生き抜く。しかし、現地で調達した植物の毒性により、行動が出来なくなり、やがて餓死することになる。死亡時の体重は30キロしかなかったという。

マッカンドレスの遺体が発見されたのはこのあたり。

書籍の表紙に写っているバスは、1960年代、現地の業者が建設作業員の宿舎用にこの地に持ち込んだもの。その後朽ち果てるままとなっていたが、この地にやってきたマッカンドレスが住居として使用。最終的に彼の最期の地となった。

本書でマッカンドレスが有名になって以降、この場所を訪れようとする「聖地巡礼」が相次いだ。しかし、満足な道すらないようなところで、遂に遭難死亡事故が発生。現在、このバスは別の場所に移動されている。

若さゆえの過ちではあるのだけれど

マッカンドレスは、成績が優秀であっただけでなく、人間的にも温厚で好感度の高い人物であったようだ。ただ自分の考え方を容易には変えようとしない頑固さを持っていた。アウトドア能力についての自身への過剰な評価。アラスカの大自然の驚異をあまりに軽視していた点。文明を否定し、満足な装備を持参していなかった点が、結果として彼を死へと導いた。

アラスカ州は日本の四倍を超える面積の土地に、70万人しか住んでいない、僻遠にして極寒の地である。州内の大部分は手つかずの大自然であり、道路すらも満足に整備されていない。春になれば氷が解け、冬であれば渡ることが出来た河川が超えられなくなる。一度は冒険を終えようとした、マッカンドレスの帰途を阻んだのも川の増水だった。地図を持っていれば打開の方法もあったのかもしれないが、彼は自らその可能性を閉ざしてしまっていた。

彼の死亡記事が全米に流されると、その計画の無謀さ、無計画性に多くの批判が寄せられている。「無資格者」「美の旅人」などと心無い投書も寄せられている。彼には最低限の自活能力はあったようなので(四か月は自活出来ていた)、毒性植物の摂取で体が動かせなくなってしまったことは運が悪かったとも言える。

同じようなことをして、生還できた人間も多いだろうし、筆者のクラカワーも自らの若き日の蛮行と比較して大差のないものではなかったかとも説いている。全てを捨てて、誰も自分を知らないところに行きたい。自分の力を自然の中で試してみたい。こんな気持ちは、若いころであればだれもが一度は抱いた心情であろうが、いざ実行に移せた人間は少ないだろう。

一歩前に踏み出すことが叶わなかった人間として考えると、彼の実行力と勇気は賞賛に値すると思うのだ。それだけに、マッカンドレスの結末には、なんともいえないやりきれなさが付きまとう。

映画版は2007年に公開

本作は2007年に映画化されている。タイトルは『イントゥ・ザ・ワイルド(Into the Wild)』で、監督は    ショーン・ペン。マッカンドレス役はエミール・ハーシュが演じている。Amazonプライムでは配信していないようなので、TSUTAYA DISCASで借りて見るつもり。

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