生活に根差した小屋の記録
1999年刊行。本書は三名の共著となっている。中里和一(なかざとかつひと)は1956年生まれの写真家。安藤邦博(あんどうくにひろ)は1948年生まれの建設家。宇江敏勝は1937年生まれのエッセイスト、林業家。
内容はこんな感じ
都市化が進み、日本の原風景とも言うべき懐かしい景観は次々と失われていく。伝統的な建物が開発の波の中で消えていく中で、未だ人間の手の温もりを留める数少ない建造物が小屋だ。実用本位に制作者の心の赴くままに造られた小屋の数々。作業のための実用施設、古来からの日本の小屋の系譜を紐解きながらその魅力に迫る。
INAXギャラリーを知っているか?
INAXギャラリー(LIXILギャラリー)をご存じだろうか?イナックス(後のLIXIL)が、東京と大阪で運営していた企業ギャラリーである。1981年に開設され、魅力的な展示を数多く企画してきたが、惜しまれつつも2020年に閉廊されてしまった(哀しい)。
INAXは出版事業も手掛けていた。中でもINAX(LIXIL)BOOKLETはわたし的な嗜好のツボをストライクで射貫いてくる良レーベルでかなりの数を買わせていただいた。本日ご紹介する『小屋 働く建築』もその中の一冊である。
INAX(LIXIL)BOOKLETのラインナップはこちらで確認できる。
建築や民俗、文化史、歴史系がお好きな方なら必ず好みの一冊が見つかるはずである。LIXILはギャラリーのクローズと共に、出版業からも手を引くようなので、気になるものは早めに買っておいた方が良いだろう。
働く「小屋」の姿を紹介
『小屋 働く建築』はINAXギャラリーで企画された、同名のイベントと併せて出版されたものである。イベントでの有料配布パンフレットのような存在だったのだろうか。
中里和人が撮り溜めた日本各地の小屋の写真を中心に、建築家で筑波大教授の安藤邦博が現存する古くからの小屋を紹介、林業家にしてエッセイストの宇江敏勝が小屋についてのエッセイを寄稿している。
現代人が建てた適当極まりない小屋と、昔ながらの知恵が息づく小屋を同列に並べて見せるのは一瞬違和感を覚えないでもないのだが、遷移の過程をすっ飛ばして見ているからそう思えるのかも知れない。歴史の流れの中で姿形や役割が変えながらも正当な進化を果たしたこれこそが小屋の最新型なのだと思えば納得も行く。ビジュアルのインパクトが強烈なのだ。
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