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『50代からの人生戦略』佐藤優 いまある武器をどう生かすか

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50代をどうすごすかで人生は決まる!

2020年刊行。筆者の佐藤優(さとうまさる)は1960年生まれ。元外務省勤務で主任分析官。ロシア事情に精通し、鈴木宗男に関する一連の事件で逮捕、起訴。有罪判決を受け退職。その後作家業に転身し、多くのヒット作を生み出す。

50代からの人生戦略

名前だけ聞くと誰だっけ?と思われる方も多いかと思うが、書籍帯の筆者ビジュアルを見て頂ければ、インパクトの強い顔立ちなだけに「ああ、この人か」と記憶が甦ってこないだろうか。

内容はこんな感じ

焦らない、無理しない。でもあきらめない。これからの生き方は「残り時間」から考える。50代に入ってから出来ることは何があるのか。そしてすべきではないことは?人生の折り返し地点を過ぎた今こそ、「人生戦略」を再構築する時が来ている。お金、働き方、家族、人間関係、自分磨き。知の巨人が教える、人生の大分岐を乗り越えるためのヒント集。

「戦略」に特化した50代本

アラフィフ年代なので、これまでに「50代本」を何冊か読んできた。具体的な戦術を教えてくれる本もあったし、この年代ならではの悩みを示してくれる本、メンタル的なケアをしてくれる本もあった。

それらと比べて本書、『50代からの人生戦略』の特徴は「戦略」に特化した内容となっている。小手先のノウハウはあまり提示せず、もっと大きな人生の指針。基本方針を示してくれている。具体的な知識を知りたい方には少々物足りないかもしれないが、根っこの部分をしっかりと考えておきたい方にはお勧めなのではないかと考える。

以下、簡単に各章をご紹介したい。

50代からの「残り時間」

人生100年時代とはいえ、さすがに50代に入れば「折り返し地点」はもう過ぎている。何でもできるだけの時間は残っていない。「残り時間」を意識して過ごすべきだと筆者は説く。

ここで筆者は二つの時間の概念を示す。均質で、均等な流れていく時間「クロノス」と、意味のある時間「カイロス」である。「カイロス」は上から来る時間。神から来る時間であり、ある決定的な出来事から物事の意味や価値観が決定的に変わってしまう、裂け目のような瞬間を指す。

「クロノス」的な時間の概念では、未来は変えられるが過去は変えられないと結論づけられるが、「カイロス」的な時間では、「過去は変えられる」と考える。

過去に辛い事件があったとしても、それを糧として良い結果を未来で勝ち取ることが出来た。となれば、その過去の体験は決して不幸な意味だけではなかった。そう捉えなおすことで、多少は救われる部分が出てくるのかもしれない。

50代からの「働き方」

まず最初に筆者が強く主張するのは「仕事は絶対辞めるな」ということ。

50代から転職して成功できる人間は相当に少ないと思われる。起業も同様である。社内であっても、この年代に入ってからの新規分野へのチャレンジはリスクが高いから止めておけと、筆者はなかなかに慎重な態度である。

職場で先が見えてきて、役職定年も始まってきた。やる気がそがれる。モチベーションがあがらない。そんな会社員人生でも安定した収入が毎月得られるメリットは計り知れない。50代は報われない自分を意識する年代なのである。

与えられは仕事はきっちりこなし、しかし夜は定時でそそくさと帰る。頑張り過ぎない。何を言われても気にしない「鈍感力」が大切となってくるのだ。

50代からの「職場の人間関係」

現在の50代はバブル前後の世代が多い筈である。この世代はパワハラ、セクハラ当たり前の時代を生きて来た。時代がこれだけ変わっても、ベースとなる部分ではあまり変われていない。若手には厳しく指導してしまったり、踏み込み過ぎてしまったりして、失敗したことも多くあるのではないだろうか。

もはや、貫禄すらもパワハラになる時代である。弱者の視点を持つこと。とにかく目立たぬようリスク管理をする。派閥の力学も逆らわず受け入れる。地道に周囲の信頼を積み重ねることが肝要であると筆者は説く。

50代からの「お金」

マネーの点についても筆者は実に慎重である。お金の本を読むとたいてい書いてある、積立てNISAなどの金融商品についても積極的には進めない。投資スキルをこれまで磨いてこなかった人間が、50代になって慌てて初めてもリスクが大きいと筆者は考えているのであろう。手を出すならせいぜい、年収の5%までにすべきと本書では明確に線を引いている。

逆に投資すべきであるとしているのは人間関係の掘り起こし。学生時代の関係性の復活、同窓会への積極参加。そして健康への投資を強く推奨している。幾つになっても人間の資本はカラダである。健康でなければその快適性は大きく低下してしまう。億劫に感じても検診の類は、しっかりと通っておくべきだろう。

50代からの「家族関係」

この章で筆者が強く説くのは、専門家に頼ることの大切さである。特に、重要なのが介護における問題である。50代ともなると、両親が介護年代に突入する方も多い筈である。いざという時に、介護の全てを自分でやろうとするとパンクしてしまう。早い時期から専門家への相談を行い、制度について学習すること。専門家は頼っていい。使っていい。一人で抱え込むことがいずれ重荷になってくる。

子どもについては、期待し過ぎないことを再三示している。期待し過ぎるから、裏切られたと感じる。辛い気持ちになってしまう。なかなか難しい部分もあるのだが、「子どもに見返りを求めない」そう割り切ることが大切なのである。

50代からの「自分磨き」

最終章では50代からの「自分磨き」がテーマになっている。ここで筆者は、50代こそ教養を身に付けるべきであると主張する。日本人は教養を学ぶ機会が少ない。古文や漢文の知識。歴史や倫理。数学等。いまこそ初心に帰って、教養に触れてみることが人生を豊かにする。高校の教科書から再スタートするのがおススメなのだとか。

また、本書の終盤では近代以前に著された古典や、聖書や仏典、コーランを読んでみようと説く。近代以降とはまったくことなる価値観で書かれた古典に触れてみることで、新たな気づきや学びが得られる。

佐藤優は、同志社大学大学院の神学科を修了しており、敬虔なカトリック教徒である。キリスト者であるだけに、彼の中には聖書の教えが深く根付いているのであろう。この点、宗教アレルギー、キリスト教嫌いの人間には煙ったく思えてしまうかもしれないが、古典として、教養として聖書に触れるのは十分にアリと考える。

佐藤優のその他の作品も読んでみよう

佐藤優は著作も多く、書店で目にすることも多い。外務省時代の異色の経歴から常々興味のある人物だっただけに、本書は非常に興味深く読み終えることが出来た。鈴木宗男事件に関する顛末は『国家の罠』に詳しく書かれているようなので、いずれ読んでみるつもり。

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