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『限界ニュータウン 荒廃する超郊外の分譲地』吉川祐介 千葉県北東部に乱開発された宅地群があった

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知られざる「限界ニュータウン」の全貌が明らかに

2022年刊行。筆者の吉川祐介(よしかわゆうすけ)は1981年生まれのブロガー、Youtuber。自身も現地で暮らし、100カ所以上もの限界ニュータウンを巡り、その実情をレポートしてきたことで知られる人物である。

限界ニュータウン 荒廃する超郊外の分譲地

2017年に開設されたブログ、URBANSPRAWL(アーバンスプロール)限界ニュータウン探訪記が人気を博している。

また2022年に開設されたYoutubeチャンネル、資産価値ZERO -限界ニュータウン探訪記-も好評で、早くもチャンネル登録者数が10万人を超えている。これは凄い。

PRESIDENT OnlineなどWebメディアへの寄稿も積極的に行っている。目にした方も多いのではなかろうか。

この本で得られること

  • 千葉県北東部の住宅事情がわかる
  • 限界ニュータウンの実情がわかる
  • 過疎化していく住宅地の課題がわかる

内容はこんな感じ

千葉県北東部。この地では五百万円以下の戸建て物件が多数流通している。しかし周囲の状況は深刻である。空き地の方が家より多い。すでに崩壊が始まっている家がある。公園が草木に覆われ雑木林になってしまった。1970年代に投機目的で開発されたものの、住民が増えず、ほとんどの宅地が朽ちるにまかされているのだ。これらの不動産はいかにして販売され、そしていかにして「限界」へと至ったのか。実際に現地で暮らし、多くの物件を訪ね歩いた筆者が語るその実情とは。

目次

本書の構成は以下の通り

  • プロローグ 超郊外の限界ニュータウン
  • 1章 限界ニュータウンとはなにか
  • 2章 限界ニュータウンで暮らす
  • 3章 限界ニュータウンを活用する
  • あとがきにかえて 思いがけない暮らしの変化

限界ニュータウンとは何なのか

住宅価格の高止まりが続いている。もはやふつうの勤め人では首都圏近郊に居を構えるのは難しい時代となっている。そんな状況に見切りをつけて、千葉県北東分の格安物件に目をつけたのが筆者である。この地では土地付きの戸建てが500万円以下で手に入るのだ。

本書で扱っているエリアはこのあたり。鉄道が走らない陸の孤島のような地域であることがわかる。

もちろん安さには裏がある。これらの土地は1970年代の不動産投資の時代に、値上がりを見越して乱開発され、多くの素人投資家が飛びついた。しかし、都心までは電車で一時間以上もかかり、最寄り駅から先のバス交通も貧弱。ガスはプロパンで、トイレは汲み取り。買い物をするにも、病院に行くにも時間がかかる。

土地は完売したものの住民が増えなかった。これらの土地は販売から半世紀を経て、荒廃が始まっている。道路は陥没し、空き地には草木が生い茂り、共同設備は劣化、残された住宅は廃墟化していく。自治会による管理を行いたくても、住民が少なすぎ、またそれぞれの事情が違い過ぎて合意の形成が取れない。

限界ニュータウンで暮らす人々の事情

第二章では筆者をはじめとした、実際に限界ニュータウンで暮らす人々のリアルな声が集められている。この地域では、賃貸でも一軒家が4万円台~5万円台で借りられる。筆者は最終的には購入に至ったようだが、土地だけなら30坪で数十万円と破格の値段で流通している。もちろん、建物が乗っていればさらに数百万が必要だが、それでも都心部と比べれば信じられない価格である。

ただ、1970年代~1980年代に建築された物件は、土地も狭く、間取りも狭い。限界まで効率を重視して設計されたために、過疎地であるのに隣家との距離が近すぎる。

こうした物件の数々を、筆者は「まったくお勧めしない」としながらも、限界ニュータウンならではの魅力を語っていく。土地は余っているのでうまく区画を選べば、隣地を買い取って、自宅の敷地をかなり広くとることが出来る。買い取ったスペースは庭にしても良いし、物置や小屋を建てても良い、もちろん菜園として使うのも良い。

周囲を自分で管理できる。開拓していく満足感は、都心ではまったく味わえない楽しみではあるあろう。人が少ないという点も、人間とのつきあいが面倒だというタイプの方ならむしろメリットになるかもしれない。

限界ニュータウンの活用法

最終章では限界ニュータウンに住むだけではなく、どうやって活用しているのかが描かれる。積極的な工夫を凝らしている人々が登場するのだ。

いちはやく1970年代に物件を別荘として購入。週末には足しげく通ってセカンドハウスとしてしっかりと使い倒す。現在に至るまでもこまめな手入れをして、きちんと管理出来ている方がいる。

また、当初は別荘として購入しながらも、定年後の終の棲家として定住を決意。不便は数あれど、安く住める土地として年金生活者にはメリットもあるのだという。

ただ、筆者も繰り返し書いているが、公共部分(道路や水道関連)の管理は、個人ではどうにもならない部分で、住民間での適切な管理体制が必須となってくる。

日本の歪な土地問題が集約されたかたちに

筆者はもともと、不動産に強い問題意識を持っていたわけではなく、たまたま安い物件を探していたら、千葉県の北東部にたどり着いてしまったという方だ。ただ、周囲を調べていく過程で、1970年代の投機ブーム。バブル期の値上がり。そしてその後の大幅下落と。日本の不動産に関する歪な歴史を知ることになる。

知り得た事実をネットで発信していく中で、さまざまなメディアからの注目が集まり、遂には出版化までこぎつけられたというのはなかなかに凄い(ちょっと羨ましい)。今後の筆者の活動に、引き続き注目していきたい。

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