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『未来のドリル コロナが見せた日本の弱点』河合雅司 コロナ禍と「社会の老化」

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「未来の年表」シリーズの第四弾はまさのドリル形式!

2021年刊行。河合雅司(かわいまさし)の大ヒットシリーズ『未来の年表』『未来の年表2』『未来の地図帳』に続く第四弾である。

未来のドリル コロナが見せた日本の弱点 未来の年表 (講談社現代新書)

今回はまさかの「ドリル形式」を取っている。例えばこんな感じ。

現在、主な消費世代の[ ]人に1人が高齢者

正解は「[3]人に1人が高齢者」だが、本文中ではこの「3」の部分が伏せられている。まずは自分で考えてみようというわけだ。

筆者としては読者に考えてもらい、理解を深め、問題意識を高めて欲しい願いがあるのだろう。少し先のページに答えは書いてあるのだが、手っ取り早く現実を知りたいせっかちな読み手には、ちょっともどかしく感じる面もあるかな。この点は評価の分かれるところだと思う。

この本で得られること

  • コロナ禍が浮き彫りにしたこの国の「社会の老化」について知ることが出来る
  • 「社会の老化」を防ぐための5つの提言について学べる

内容はこんな感じ

新型コロナウイルスの蔓延は、日本の病巣を改めて浮き彫りにした。さらに加速化する非婚、少子化。ワクチン開発の遅れ、デジタル化の遅れ、進まないPCR検査。医療体制の崩壊。縮む消費マインド。高齢者人口が増え続ける中で「社会の老化」が止まらない。コロナ禍もたらした影響を読み解き、これからの日本社会がどうあるべきかを考える一冊。

目次

本書の構成は以下の通り

  • はじめに
  • 第1部 人口減少ドリル
  • 第2部 日本を守る「切り札」5カ条
  • 手紙 若い皆さん!何度でも立ち向かおう
  • おわりに

本書は二部構成となっている。第一部ではコロナ禍で明らかになった、日本社会の問題点「社会の老化」について、16の切り口から迫っていく。後半の第二部では、どうすれば「社会の老化」を食い止めることが出来るのか。筆者なりの5つの提言が示されている。

コロナ禍と「社会の老化」

第一部で示されている16の問題点はこちら。

  • 問題1 少子化の急加速
  • 問題2 高齢者とコロナ自粛
  • 問題3 高齢者と介護
  • 問題4 24時間営業の行き詰まり
  • 問題5 外国人の受け入れ
  • 問題6 都市と地方経済
  • 問題7 人材不足
  • 問題8 多様な働き方
  • 問題9 人事と人間関係
  • 問題10 労働生産性
  • 問題11 高齢者の雇用
  • 問題12 不動産と再開発
  • 問題13 交通と都市
  • 問題14 東京都と人口移動
  • 問題15 大都市圏と人口移動
  • 問題16 日本の医療体制

少子高齢化問題から、介護、医療、働き方等に至るまで、幅広い側面で明らかとなった「社会の老化」について警鐘を鳴らしていく。

取り上げられている項目自体は、『未来の年表』『未来の年表2』『未来の地図帳』で書かれていた内容とほぼ被る。ただ、本書では新型コロナウイルスの感染蔓延で、こうした社会問題がどれだけ「より悪化したか」が、具体的な数字と共に示されており興味深い。

たとえば、婚姻率であれば2020年の1-11月期では前年同期比で12.3%減。出生数は9.2%減と散々な状態となっている。これによって、政府の想定よりも18年も早く、年間の出生数は75万人の規模にまで縮小することが明らかとなった。団塊の世代の出生数が年間で200万人を超えていたことを考えると、これは衝撃的な数字である。

本書では既に明らかとなっていた日本の社会問題が、コロナ禍によって「早送り」されたことがわかるようになっている。

「社会の老化」に対する5つの対策

社会の中で高齢者が過半を占めるようになった世界では、大きな改革は起こりにくくなる。人間誰でもそうだが、年を取れば取るほど変化に対して臆病になる。新しいことをしなくなり、何事も無難にやり過ごそうとする。これが「社会の老化」である。

高齢者の意見ばかりが通るようになれば、若い世代は未来に多くを望まなくなっていく。「社会の老化」に対する処方箋として筆者が提案しているのは、若い世代に対する手厚い施策の数々だ。ポイントは以下の五点。

  • 第1の切り札 国政選挙に「若者枠」を新設
  • 第2の切り札 中学卒業時からの「飛び入学」導入
  • 第3の切り札 「30代以下のみが住む都市」の建設
  • 第4の切り札 大学を共同キャンパス化する
  • 第5の切り札 若い人々に英才教育をする

若い世代を選挙や教育、住環境などで優遇し、そのポテンシャルを最大限に発揮してもらおうという趣旨である。

コロナ禍において、高齢者の命を守るためとして、若い世代の行動には大きな制限が課せられた。報道などでは繰り返し若い世代を叩くような論調が登場し、辟易とされた方も多いのではないだろうか。

「社会の老化」に取り込まれていないか

本書の末尾では「社会の老化」に抗するために、中高年以上の世代に向けて、以下の二つのメッセージを残している。

  • 自分の価値観や過去の成功体験を若い世代に頭ごなしに押し付けない
  • 自分人が「社会の老化」という病魔に取りつかれていないか絶えず意識し、チャレンジマインドを保つ

自分の身に置き換えて考えると、なんとも頭の痛くなる指摘ではある。自分たちの世代のツケを若い世代に押し付けないために、最低限の節度は保って生きていきたいものである。

河合雅司「未来の年表」シリーズの感想はこちら