ビズショカ(ビジネスの書架)

ビジネス書、新書などの感想を書いていきます

『老後レス社会』 「一億総活躍社会」をどう生き延びるか

本ページはプロモーションが含まれています

「一億総活躍社会」の過酷な現実と悲惨な未来

2021年刊行。朝日新聞社特別取材班編。2019年から、2020年にかけて日本の少子化高齢化と人口減少をめぐる諸問題を特集した朝日新聞上の企画「エイジングニッポン」の一環として刊行されたもの。

内容はこんな感じ

2040年。日本人口の35%は65歳以上の高齢者で占められる。かつてない超高齢化社会。社会保障費は増大し、就業者人口の減少は深刻な労働力不足を招く。「一億総活躍社会」を掲げる政府の狙いは高齢者の就労促進だが、それは死ぬまで働くことを強いられる社会でもある。確実に訪れる「老後レス」社会をどう生きるか。さまざまな事例と共に読み解いていく

「一億総活躍社会」とはいうけれど

「一億総活躍社会」は2015年の第3次安倍晋三改造内閣の際に出て来た言葉である。

厚生労働省の資料から引用させてもらうとこんな感じ。

  • 少子高齢化という日本の構造的な問題について、正面から取り組むことで歯止めをかけ、50年後も人口1億人を維持
  • 一人ひとりの日本人、誰もが、家庭で、職場で、地域で、生きがいを持って、充実した生活を送ることができること

一億総活躍社会とは - 厚生労働省より

書いてあることは立派に見えるが、実質的には少子高齢化で人が減っていくから、高齢者もしっかり働きましょうという意味に取れる。

少子化で何か困るかというと、働く人が減り生産力が落ちることである。高齢化人口(65歳以上)比率は2040年で35%、2060年には40%に迫ると予想されている。少子化の改善は望むべくもない。となれば労働者人口を増やすには、高齢者をリタイアさせずに働かせるしかない。1950年代には55歳であった定年が、60歳、そして65歳にまで延長された。定年を撤廃する企業まで現れている。

本書では、さまざまな高齢者たちの実情を紹介しつつ、来たるべき「老後レス社会」に対していかに備えるべきかを問うていく。

以下、各章を簡単に紹介しつつ、「老後レス社会」を生き抜くための術を考えていきたい。

高齢警備員

サブタイトルは「過酷な現場でも「死ぬまで働く」理由」。

この章では、高齢者となっても働かざるを得ない人々が紹介される。警備員の仕事は過酷だ。真冬であろうが、真夏であろうが吹きさらしの中での長時間勤務を強いられる。

警備員は薄給で、しかも体力的にきつい。しかし、警備員業界は常に人手不足に在り、コロナ禍にあっても継続して需要がある。そのために、一種のセーフティネットとして機能している側面がある。

これからの超高齢化社会にあって、高齢者が働くことは避けられない。しかしそんな状況にあっても個々の人生の尊厳は守られるべきだとして、この章は終わる。

会社の妖精さん

サブタイトルは「働かないおじさんたち」。

50代中盤以降の、やる気なし、役職なし、仕事なし。会社に寄生して定年までの日々を虚しくやり過ごしているおじさんたちの登場である。個人的には、自分自身そうなりそうな可能性が十分にあり、読んでいて身につまされる章であった。

バブル世代は人数が多いから十分な役職がいきわたらない。モチベーションは低下し、ビジネススキルも磨かれず錆びついていく。下からの押し上げも強く、会社としても扱いに困る世代であろう。

60代であれば現在の不毛な日々を続けても、定年まで逃げ切れるかもしれない。しかし50代にはそのチャンスはないかもしれない。だからこそ、状況に流されるのではなく、自分で人生設計をしてアクションをすべきであると本書は説く。

ロスジェネたちの受難

サブタイトルは「私たちは、のたれ死に?」こちらもキツイ。

1971年~1974年生まれの団塊ジュニアを中心とした人々。彼らは氷河期世代、ロストジェネレーションとも呼ばれる。バブル崩壊の影響をまともに受け、多くの非正規労働者を生んだ世代である。努力しても報われることは少なく、社会からの疎外感に苦しむ。

ロスジェネは人口規模的にも数が多い。彼らが高齢者となる時代には、バブル世代以上に大きな社会問題になる。「失われた」のではない「奪われた」のだとする指摘が重い。

定年前転職の決断

サブタイトルは「妖精さんとは呼ばせない」。

会社での居場所を無くした人々が、新天地に活路を見出した事例が紹介される。アパレル大手ワールドから転身し、福島の被災地で働く男性。外資系の製薬会社を退社し、限界集落での農業に挑んだ男性。年収は大きく減ったが、反面、やりがいは大きくなったという。

働き方改革が問われている昨今だが、むしろ大切なのは「生き方改革」ではないかと本書では説かれている。紹介事例のようにそこまで思いきれる人間はそうそういないのではないかと思う。

当然失敗する可能性もあるわけで、安定した給与がもらえるうちは「妖精さん」として甘んじてしまいそうではある。

死ぬまで働く

メインタイトルは厳しい言葉だが、サブタイトルは「前を向いた高齢者たち」。

こちらでは、お金には困っていないが、それでも働くことを選んだ人々が登場する。人間が生きていく上でお金はもちろん大切だ。しかし、併せて必要なのが、他者から必要とされている実感、承認欲求が適切に満たされることであろう。居場所が欲しい。役割が欲しい。このままでは物足りない。そんな思いが、高齢者を労働の場へと呼び戻している。

とはいっても、高齢者が就労可能な職業は少ない。それぞれの経歴や、個性、スキルに見合った多様な選択肢が用意されるべきであると本書は示すが、果たして何処まで来た出来るだろうか。

老後レス社会を生きる

最終章。サブタイトルは「定年延長、再雇用、そして年金。近未来へのヒント」である。定年延長や、再雇用の動きが進んでも、収入の低下は避けられない。いくら実績のある人間でも、周囲とのバランスの問題がある。会社としても高給を提示することは難しいだろう。ここにもシニア雇用の難しさがある。

老後のお金問題について本書の最後で、WPPの概念が提唱されている。WPPとは以下の通り。

  • W Worklonger 長く働く
  • P Private Pension 私的年金
  • P Public pension 公的年金

定年延長や、再雇用などを活用し少しでも長く働く。更に私的年金で、公的年金までの間をつなぐ。そして、可能であれば年金の繰り下げ需給を行う。

公的年金(老齢年金)は通常65歳から支給されるが、これは本人の申し出によって支給開始を繰り下げることが出来る。支給年齢を70歳まで遅らせると、毎月の支給額は42%アップする。

もっとも、それまでに死んでしまえば全く意味が無いので、個人の健康状態との相談になるが、長寿化が進行して言える現在の日本では十分アリの選択肢と言える。

自分で考えて備えよう

以上、『老後レス社会』の各章を簡単にご紹介した。

確実にやって来る、超高齢化社会。十分な貯えを持ち、公的年金だけで暮らしていけるのは極めて一部の層になるだろう。本書では『老後レス社会』に対して、万人向けのへの具体的な策は示されない。

ただ、豊富な実例を示して見せることで、これから高齢期を迎える人間に、選択肢の多様さを示している。この点では有用な一冊と言えるだろう。本書をきっかけとして、自身が高齢化した際にどうありたいか。しっかり考えておきたいと思った。

超高齢化社会についてのおススメ本はこちら