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『人口減少時代の再開発 「沈む街」と「浮かぶ街」』NHK取材班 タワマンの建設ラッシュが起きているのは何故?

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NHKスペシャルを書籍化

2024年刊行。2024年に放映されたNHKスペシャル「まちづくりの未来~人口減少時代の再開発は~」及び、クローズアップ現代「再開発はしたけれど 徹底検証・まちづくりの"落とし穴"」、首都圏情報ネタドリ内の「急増!"駅前・高層"再開発 家選び・暮らしはどう変わる?」などの放送内容をもとに、書籍として再構成したもの。NHKは社会派のドキュメント番組の中身を書籍化して売る手法を確立しており、本作もそのうちの一冊。NHK系列の出版であるNHK出版からの刊行だ。

人口減少時代の再開発 「沈む街」と「浮かぶ街」 (NHK出版新書)

内容はこんな感じ

高度成長期に作られた街が老朽化し、いま日本各地で再開発が進められている。タワーマンションが乱立する、判で押したかのような再開発はどうして行われるのか?資材の高騰化、人件費の高騰、そして人口減少。数々の難題を前に、これからのまちづくりはどうあるべきなのか。各地の成功例と失敗例を紹介しつつ「人口減少時代の再開発」を考えていく。

目次

本書の構成は以下の通り。

  • 序章 なぜ全国の都市で高層ビルによる再開発事業が進むのか
  • 第1章 未曽有の再開発ラッシュから見える日本の“今”
  • 第2章 全国各地で顕在化する“課題”
  • 第3章 再開発をしたけれど…
  • 第4章 ユニークなまちづくり 地域の取り組みとは
  • 終章 まちづくりのあるべき姿とは(特別寄稿)
  • おわりに "再開発"が問いかけるもの

各地でタワマン建設が進む理由

この十年で驚くべき勢いでタワーマンションの建設が増えている。都心部だけでなく、郊外や地方のこんな駅にもタワマンが建っちゃうの?なんて現象がもはや当たり前になっている。結果としてどの地域も判で押したような景観の再開発となってしまい、没個性化していく。

どうしてタワマンが増えるのかと言うと、高層階にすればするほど住宅として売れる床面積が増える。限られた土地資源を最大限有効に使うには高層化するしかない。タワマン隆盛の背景には、そんな地権者、デベロッパーらの苦しい胸算用がある。

うまくいかない再開発

2024年1月現在、日本各地では129もの地区で再開発が進められてる。高度成長期に作られた建物は老朽化している。駅前は寂れ、人口構成比も変わり、時代に即した街づくりは待ったなしだ。

しかしながら多くの地域で、再開発は大きな問題に直面している。資材費、人件費の値上がりでタワマンの建設コストが爆騰。当初の予算を大幅に超過し、地権者たちは追加の出費を強いられている。やっとの思いで建てたタワマンも、コスト高のために、高額な家賃を設定せざるを得ず、結果としてテナントが埋まらない。計画を見直して、低層化の道を模索したり、建設が延期となってしまう物件も続出している。

それでも都市部は駅前のタワマンなら売れる。だが、そこで新たに起きてくるのが人口の急増による、社会インフラ整備の遅れの問題だ。毎年人口が一万人増えているさいたま市では、学校も病院も足りず、住民たちが悲鳴を上げている。

少数派だけど成功例も

本書では多数の再開発事例が紹介されている。その多くは失敗例なのだが、数少ない成功例として三つの地域が挙げられている。

東京の下北沢では、高層化を選ばず、小田急線を地下化することを選ぶ。かつて線路だった地域には、あえて安価な家賃を設定し、若手の起業家を誘致する。下北線路街と名付けられた地域は、個人店がチャレンジできる空間として活況を呈している。

人口33,000人の岩手県紫波町では、補助金に頼らない街づくりを目指す。商業施設ではない普遍的な集客施設としてサッカー場を駅前に作り、県の支援を獲得する。続いて、役場、図書館を建設。消費に頼らない街づくりを進め、人が集まる流れが出来た段階でやっと商業施設の誘致に入る。テナントと賃料を決めてから施設を作るから、入居率は100%だ。そして、商業施設が出来た段階で、最後にようやく住宅地の建設に入る。人が集まる流れがもう出来ているから、地価は3割も上昇し高値で販売することができた。

神戸市では思い切ってタワマンの建設を規制。人はもう増えないのだからと割り切って、職住の近接化を図る。北神急行を買収し、乗り入れしていた市営地下鉄との一体化を図り料金の値下げを行っている。

これからの都市開発はどうあるべきか

最終章では、明治大学政治経済学部の教授、野澤千絵による特別寄稿「まちづくりのあるべき姿とは」が収録されている。ポイントは以下の五点。

  1. 都市圏ごとに容積率等の規制緩和による「ゴール」を設定
  2. 計画段階からの実効性のある市民参加プロセスの導入
  3. 過密化による街への影響の厳密な評価と予防策の実行
  4. 「減築利用」「修復型」に対する新たな事業手法・支援策の実現
  5. 地域の実情・個性に即した「公共性」を評価する仕組みづくり

土地それぞれ固有の事情、ニーズ、懐具合があるので、画一的な都市開発は避けるべき。地権者やデベロッパーが勝手に決めて進めるのでなく、行政、住民らとよくよく意思疎通をしてから進めないと破綻するってところだろうか。

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