中高年男性が活躍するためにはどうすればいい?
昨今「一億総活躍社会」「働き方改革」といった言葉が叫ばれるようになって久しい。あなたの職場環境には変化があっただろうか。新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴うリストラ、テレワークの普及。この十年で、日本人の働き方には大きな変化が訪れているといっても過言ではないだろう。
そんな変化の時代にあって、わたしたち中高年男性は、微妙な立ち位置の存在である。世代人口が多く、社内では誰もが役職に就けるわけではない。既に役職定年を迎えている方も多いだろう。年金は当てにならず、近い将来の定年退職も視野に入ってくる。親の介護や子供の教育にはカネがかかり、まだまだ稼ぐ必要がある。
そんな悩める中高年男性に読んでいただきたいのが本書『中高年男性の働き方の未来』である。2022年刊行。筆者の小島明子 (こじまあきこ)は、日本総合研究所(いわゆる日本総研)所属の創発戦略センタースペシャリストで、経済社会システム総合研究所客員主任研究員。
この本で得られること
- 中高年男性を取り巻く働き方の現状を再認識できる
- 中高年男性がこれから何をすべきかがわかる
内容はこんな感じ
経済的責任の重さ。仕事のストレス。居場所の少なさ。中高年男性を取り巻く社会環境はより厳しさを増している。これからの時代に、中高年男性はいかにして身を処していけばよいのか、どんなキャリアを志向していけばよいのだろうか。中高年男性の働き方に関するデータを軸に、これからの働き方について現実的、かつ前向きな提言を行っていく一冊。
目次
本書の構成は以下の通り。
- はじめに
- 第1章 中高年男性を取り巻く働き方の現状
- 第2章 中高年男性をめぐる働き方の課題
- 第3章 中高年男性は自らの幸福のために何を始める「べき」か
- 第4章 企業が中高年男性を活かすための方法論
- 第5章 中高年男性の活躍推進を通じた日本社会の活性化
なお、本書は中高年男性、特に大都市圏で働く高学歴者(特に高難易度校出身)のホワイトカラー層をターゲットとして書かれている。また、世代的にはバブル世代(1965年~1970年頃生まれ)を想定としている。
とはいえ「中高年男性」という広いくくりでとらえても、本書の内容はある程度は適用できるのではないかと考える。
中高年男性を取り巻く現状を把握する
まずは中高年男性を取り巻く現状の認識から。
バブル世代の特徴と言えば、その数の多さである。バブル世代はよほど優秀な方ではないと役職者として残れない。役付きになったとしても権限がなかったり、部下なしだったりと微妙なポジションに追いやられることが多い。結果として、業務スキルが深化しないので専門性が身につかず、他社への転職も難しくなる。
マネジメント経験がなく、専門性が低い中高年男性が多い。これはなかなかに耳の痛い指摘(泣きそう)。
本書では、だからこそ、新しい価値観を受け入れて、積極的に新しいことを学ぶ個人としての柔軟性が必要になってくると説く。
中高年男性の働き方のマインドは?
さて「マネジメント経験がなく、専門性が低い中高年男性」だが、そんな彼らのマインドはどうなっているのだろうか。筆者の調査によればこうなる。
- 外的報酬(出世、昇進)に対する欲求は必ずしも強くないが、より高い報酬を得たいという欲求は強い
- 内的報酬(やりがいや自己成長)に対する欲求は強い
- ハードワークは許容できない
なんじゃこりゃと眉をひそめてしまう方も多いかもしれないが、これは中高年男性の心情としては理解できる部分が大きい。
出世、昇進している同期を見ていればその業務の過酷さ、周囲からのプレッシャーは明確過ぎる程にわかる。収入や地位の点で羨ましいとは感じつつも、いまさらそんな環境でハードワークをこなす気力、体力は残っていない。だが、仕事をしていくうえでの「やりがい」は求めてしまう(そしてお金は欲しい……)。これが、多くの中高年男性に見られる働き方への姿勢ではないだろうか?
予期せぬ異動、環境の変化も前向きに考える
本書では中高年世代に入り、管理職から現場に戻ったりして、モチベーションが低下してしまうビジネスパーソンに対して、「登山からハイキングの論理への転換」を紹介している。結果を求められる登山型の思考から、プロセスを楽しむハイキング型の思考へ切り替える。価値観を転換しようという提言だ。
また、中高年世代に入ると、望まない異動(希望とは違う部署)も多くなる。だが、予期せぬ事態が発生したとしても、ベストを尽くして対応し、経験を積み重ねていくことでより良いキャリア形成につなげることが出来る。ポイントは以下の五点。
- 好奇心(たえず新しい学習の機会を模索)
- 持続性(失敗に屈せず、努力し続ける)
- 楽観性(ポジティブに考える)
- 柔軟性(こだわりを捨てる)
- 冒険心(時にはリスクを取る)
望まない異動も、新たなスキルの獲得と考える。掛け合わせの経験が多いことは、いずれ武器になる。本書では「キャリアとは「意思」である」との考え方が紹介されている。機会は自分で作るものと考えれば、一見すると不遇と思われる事態も、キャリアに転換していけるというわけだ。
努力は必要だが機会はあると考えたい
本書の後半では、中高年男性がやりがいをもって働けるようになるために、企業サイドではどんなことが出来るのか?様々な提案が紹介されている。70歳まで働ける人事制度設計、副業・兼業の解禁、在籍型出向、プロジェクト型の働き方、フリーランスとしての働き方の提示などなど。雇用者の立場としては積極的に会社側に変化を求めていくのはちょっと気が引ける部分も強いが、知識としては押さえておきたいところ。
幸か不幸か、少子高齢化社会の到来により、定年の延長化傾向は続く(年金もその分あてにならなくなっていくのだが)。結果として、現在の会社で働き続ける、という選択肢も出てくるだろう。
とはいえ、現在は変化の時代である。自己研鑽は必要で、個人のレベルでの努力は欠かすべきではない。その点で、本書『中高年男性の働き方の未来』では、中高年男性が置かれている現状の再認識と、取り得るべき手段の確認が出来た。その点では、良書だったのではないかと考える。