※2022/5/28追記 続編となる『東京DEEPタイムスリップ1984⇔2022』が刊行されていたので後半に情報を追記しました!
『東京タイムスリップ1984⇔2021』よみがえる1984年の東京
2021年刊行。広告写真家として知られる善本喜一郎(よしもときいちろう)による写真集である。善本喜一郎は1960年生まれ。1983年に23歳の若さで、平凡パンチ(マガジンハウス)特約フォトグラファーになり頭角を現す。
本書は善本喜一郎が若き日に撮影した街頭写真がベースとなっている。長らく眠っていたこれらの写真は、近年、同氏のインスタグラムで公表され話題となり、とうとう書籍にまでなってしまった。
この本で得られること
- 1980年代の東京の懐かしい街並みを知ることが出来る
- 37年の歳月を超えた都市の変化が分かる
内容はこんな感じ
コロナ禍で外出が制限され、自宅で過去のフィルム整理をしていた写真家は、かつて撮影した大量のネガフィルムを発見する。それは懐かしい1984年の東京の姿を写しだしたものだった。2021年。写真家は同じ場所、同じ構図で、再度の撮影を試みる。1984年と2021年。37年の時空を超えた「東京タイムスリップ」写真集。
目次
本書の構成は以下の通り
- はじめに 善本喜一郎
- 写真と記憶と 飯沢耕太郎
- 1新宿
- 2渋谷
- 3五反田・新橋・有楽町・銀座・日比谷・東京・上野・浅草・秋葉原・お茶の水・池袋・赤坂・代々木
- おわりに 善本喜一郎
第三章で登場する、五反田・新橋・有楽町・銀座・日比谷・東京・上野・浅草・秋葉原・お茶の水・池袋・赤坂・代々木のボリュームは控えめ。第一章の新宿パート、第二章渋谷パートで全体の2/3を占めており、新宿、渋谷界隈中心の構成となっている。
懐かしい新宿の姿が楽しい
1980年代を学生として過ごした身としては、『東京タイムスリップ1984⇔2021』は楽しくも懐かしく読むことが出来た。当時のわたしは進学のために東京に出たばかりであり、何もかもが刺激的で珍しい頃である。この頃の、ゴールデン街なんて怖くて、学生は近づけなかったよなあ。
わたしは学生時代、京王線沿線に住んでいたので、新宿は特に強い愛着のある駅である。東口のワシントン靴店はABCマートに。カメラのさくらやはビックカメラに。高野やピカデリー、新宿昭和館は健在ながらも、ビルがすっかり新しくなってしまった。
新宿界隈では、街の構造そのものが変わってしまった南口周辺にかなりのページ数が割かれている。現在の新宿駅東南口のあるあたりは、戦後の闇市の風情を残した、狭小店舗が立ち並ぶディープなスポットだったのだ。長野屋や石の家みたいな老舗が、現在でも姿を変えて生き残っている点は嬉しい。
2021年との比較が面白い
本書でユニークなのは、単に1984年の東京の写真を掲載しているだけでなく、同じ場所、同じ構図で2021年版の写真を撮影し、並べて配置している点にある。この点、善本喜一郎は相当なこだわりを持って撮影に臨んでいる。撮影する時間帯や天候、人の流れ、移りこんでている被写体にまでできる限り同じになるように配慮してあるのだ。
代々木八幡踏切を撮影した写真では、小田急の特急ロマンスカーを捉えている。1984年版では往年の名車両LSE(7000形)が。そして2021年版では最新のVSE(50000形)を撮影している。先頭車両が同じちょうど踏切の中央を通過するタイミングで撮影がなされており、こういう写真は見ていて楽しい。
人の姿を見るのが嬉しい
建物や、懐かしい店舗、街並みの変化が楽しめるのは本書のセールスポイントの一つだが、もう一つ見逃せないのは当時の人々の姿である。本書に収録されているのは風景写真である。積極的に人物を追いかけた写真ではないのだが、風景の中に写り込んでいる人物たちの、自然に背景に溶け込んでいる感じが良いのである。
女性のファッションやヘアスタイルは最近のものとはまったく異なるし、男性のスーツですらも現在とはずいぶんとシルエットが違う。こういう人たちが暮らしていて、実際に生きていたのだとしみじみと実感させられて、なんだか嬉しくなるのだ。
1980年代は遠くになりにけり
モノクロ写真であるせいか、画面に写る1984年の風景は、実際の経年以上に古びて見える。人々も、実際の年代以上に「昔の人」に見える。カラー写真であったらもう少し印象が変わっただろうか。
とはいえ、40年近く昔の写真になるわけだから、わたしたちが1984年に生きていた頃に、37年前(1947年)の写真を見せられるようものか。そう考えると、1980年代もずいぶんと遠い時代になったものだと感慨も深くなる。
2021年版の写真も、何十年かすれば歴史の中の貴重な一枚となっていくのであろう。その時に、東京の街並みはどのように変わっているのだろうか。
『東京DEEPタイムスリップ1984⇔2022』続編が登場
『東京タイムスリップ1984⇔2021』は大きな話題を呼んだようで、2021年末には五刷を達成、総発行部数は10,000部を超えたのだとか。好評を受けて、2022年には続編ともいえる『東京DEEPタイムスリップ1984⇔2022』が刊行された。撮影者はもちろん善本喜一郎である。
この本で得られること
- 新宿、渋谷地域だけでなく、下北沢・自由が丘・浜松町・新大久保・初台のかつての姿を知ることが出来る
- 1980年代の東京の懐かしい姿と、その後の変化を楽しむことが出来る
内容はこんな感じ
1984年と2022年。40年近い歳月を経て東京の街はどう変わったのか。そして何が変わっていないのか。新たに下北沢・自由が丘・浜松町・新大久保・初台の街並みが登場。同じ位置と角度から撮影。街の変化を楽しむ写真集「東京タイムスリップ」シリーズの第二弾が登場。懐かしいあの時代が、現代によみがえる。
目次
本書の構成は以下の通り
- はじめに 善本喜一郎
- あの頃のあの場所を旅する喜び 石原壮一郎
- 1新宿・新大久保・代々木・初台・下北沢
- 2原宿・渋谷・自由が丘・青山
- 3目黒・五反田・大崎・浜松町・新橋・銀座・日比谷・東京・上野・浅草・四ツ谷
- おわりに 善本喜一郎
続編も更にDEEPで面白い!
刊行されているのに三か月気づかず、ようやくキャッチアップ。わたしはかれこれ数十年新宿で働いている人間で、初台や代々木はかつてのアルバイト先、今回も懐かしく読ませていただいた。新宿は相変わらず南口地域の写真が多めで、超大型バスターミナル、バスタの登場で、魔改造された姿がよく実感できる。次に大きく変わっていくとしたら渋谷だろうな。駅周辺の再開発が終わったところで、渋谷の変貌を改めて見比べてみたいところ。作者はこんなことなら、80年代にもっと東京の写真を撮りまくっておけば良かったって思ってそう(笑)。
タイムスリップ写真を撮ってみよう!
今回はおまけとして「時空を超えるタイムスリップ写真術」なるコラムが収録されている。これは、過去に撮影した街の写真があるのであれば、誰でも「タイムスリップ写真」が撮れるよ!と、そのノウハウを指南してくれるコーナー。撮影のコツから、古いフィルムをデジタルデューぷする手順までが披露されており、なかなかに嬉しい。
デジタル化以前のアナログ写真は、ほとんど手元に残っていない方も多いかと思うが、いまからでも遅くないのだ!身近な街の「現在の」風景を撮影しにいくべきではないだろうか。撮影した瞬間は、何気ない日常の風景に過ぎない一枚だが、数十年の歳月を経ることでその情景は貴重なものに変わってくるはずだ。
「東京タイムスリップ」シリーズは、写真としてデータを残しておくことの大切さを教えてくれてもいるのだなと感じ入った次第。