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『方丈記(全)』鴨長明・武田友宏編 角川のビギナーズ・クラシックスで古典を読む

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ビギナーズ・クラシックスを知っているか?

2007年刊行。角川ソフィア文庫からの刊行。同レーベルはKADOKAWAの角川学芸出版ブランドの取り扱い。主として古典文学関連の作品を多数出版している。

ビギナーズ・クラシックスは、角川ソフィア文庫から出ている、古典文学の初学者向けシリーズで日本の古典が34冊、中国の古典が22冊、近代文学編が7冊まで発売されている。原文に加えて、現代語訳が併記されている点が特徴。解説文も豊富で、古典世界のビギナーにとってはありがたいシリーズとなっているのだ。

方丈記(全) ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 (角川ソフィア文庫 89 ビギナーズ・クラシックス)

編者の武田友宏(たけだともひろ)は、1943年生まれ。國學院大學の文学研究科で博士号を取り、同大学の講師、また、神奈川県の県立高校教諭としても活躍されていた方。ビギナーズ・クラシックスの企画者で、本シリーズの中で数多くの作品に編者として関わっている。

内容はこんな感じ

平安時代末期。大火。竜巻。地震。大飢饉。そして戦乱。平家が台頭し武士の世が始まろうとしている。京都でも屈指の大社、下鴨神社の禰宜の家に生まれるも後継者にはなれず。家を出て、山里に小さな庵を建てて一人で暮らす。静かな暮らしの中で悟る、世の無常とは。鴨長明による『方丈記』を現代語訳と、豊富な解説文で読み解いていく一冊。

目次

本書の構成は以下の通り。

  • 万物をつらぬく無常の真理
  • 無常をさとす天災・人災
  • 無常の世に生きる人々
  • 過去の人生を顧みる
  • 山中の独り住まい
  • わが人生の生き方
  • 解説
  • 付録

鴨長明って?

肝心の作者の紹介が後になってしまった。鴨長明(かものちょうめい/かものながあきら)は1155年生まれで、1216年没。平安時代末期から、鎌倉時代初期の人。葵祭で有名な、下鴨神社こと、賀茂御祖神社の禰宜(ねぎ)の次男に生まれる。七歳で従五位下に叙され、順風満帆に思えた人生だったが、父親が早逝したことで後ろ盾を失い、後継の地位を失い家を出される。管弦と和歌の才に秀で、後鳥羽院にも愛でられるが、望んだ地位は得られず出家。源実朝の和歌の師になろうとして鎌倉に行ったりもしたけれど不採用。晩年は山里に庵(方丈)を建てて隠棲したとされる。

詳しく知りたい方はWikipedia先生をご覧ください。

『方丈記』は鴨長明、晩年の隠棲時代に書かれている。『枕草子』『徒然草』と並び、日本の三大随筆の一つとされる作品だ。

古典初学者ならビギナーズ・クラシックス

趣味で続けている放送大学で、今期『『方丈記』と『徒然草』』を履修することにした。そのため、事前学習のために本書を購入した次第。

ビギナーズ・クラシックスでは、現代語訳→原文→解説の順で各段が進んでいく。まずは平易な現代日本語訳で読む。続いて歴史的仮名遣いの原文を読む。直後に原文が来るので、気になる表現が、どう訳されているのかがすぐわかる。そして最後に、編者による解説が入る。時代背景や、当時の鴨長明の状況なども併せて、詳しく解説してくれるので理解が深まる。特定のテーマごとに書かれたコラムも10編収録されており、小ネタもあれこれ摂取できるのが良い。

災害、戦乱、ままならぬ人生に無常を感じる

『方丈記』では平安時代末期に京都を襲った、様々な災害や人災について触れられている。主なものはこんな感じ。

  • 火事:安元の大火(1177年)
  • 竜巻:治承の竜巻(1180年)
  • 遷都:福原遷都(1180年)
  • 飢饉:養和の飢饉(1181~82年)
  • 地震:元暦の地震(1185年)

福原(現神戸市)への遷都は、平家が強行したもので、都の人びとに大きな混乱と不自由を与えた。

一個人としてはいかんともしがたい、大自然の猛威や、平家の横暴。留まることなく、常に移り変わっていく世の無常。名文として知られる、あまりに有名な冒頭の文章がなんとも印象的である。

行く河の流れは絶えずして、しかも本の水にあらず。淀みに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたる例(ためし)なし。世の中にある、人と栖(すみか)と、またかくのごとし。

鴨長明・武田友宏編『方丈記(全)』角川ソフィア文庫p14より

前半は鴨長明が見てきた数々の災害、騒乱について。そして中盤以降は、俗世を捨てた後の、自らの方丈での暮らしについて述べていく。富や名声、名誉への執着を捨てたかに見えても、捨てきれない煩悩。この方丈での暮らしすらも、実は、執着なのではないか。人間、歳を経ても、様々なしがらみから、完全に自由になることは難しい。

『方丈記』は三大随筆の中でも特に短い。現代文訳、解説込みでも180頁余りしかないのだ。気になった時に、サッと通読できるのがこの作品の良さでもあると思う。まだまだ十分な理解には達していないので、今後の放送大学の授業を通して、さらに読み込んでいければと考えている。

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