1970年代に書かれた『柳田國男』本
筆者の牧田茂(まきたしげる)は元朝日新聞社社員で、「週刊朝日」の編集長などを経て、退社後は日本大学の講師、白梅短期大学の教授などを歴任。民俗学者としても活躍した人物だ。1916年生まれで、2002年に亡くなられている。柳田國男に私淑し、折口信夫に師事していたことでも知られる。
Amazonの書影古っ!それもそのはず、本書は初版が1972年と50年も前の本なのだ。帯に書かれている「価格380円」が強烈である。
なお、今回わたしが読んだのは版を重ねた版目。1989年のバージョン。さすがに最近では入手困難だが、ずいぶん売れた本なのである。
この本で得られること
- 柳田國男の生涯について学べる
- あまり知られていない官僚時代のエピソードを知ることが出来る
内容はこんな感じ
日本民俗学の祖、柳田國男。官僚としても活躍。民俗学だけでなく、農政学、社会学、人類学、歴史学、国文学、国語学と、幅広い分野で才能を発揮したこの人物の生涯を概観。あまりに膨大な著作数故に、なかなか捉えることが出来ないこの巨人の姿を、当時を知る者の視点から明らかにしていく。
柳田國男の伝記本
牧田茂による『柳田國男』をひと言でいうなら柳田國男(やなぎたくにお)の伝記本である。牧田茂は相当に、柳田國男に入れ込んでいた人物として知られている。なにせ柳田國男を、柳翁と称してしまう程の人物が書いた本なので、かなり偏った内容を想像していたのだがそれほどでも無かった。思っていたよりもバランスが取れた内容となっている。
意外な側面を知ることが出来る
本書では、幼少期から晩年まで、少ない紙面をやりくりして、民俗学界のドン柳田國男の生涯を綴っていく。柳田は最初から学者だったのかと思っていたのだが、実は元は官僚だった事を知って驚いた。しかも結構出世している。戦前の農商務省に入り、貴族院の書記官長や、枢密顧問官にまでなっているのだ。徳川家達と喧嘩して野に下る辺りのエピソードは面白かった。
官僚としての柳田はかなり破天荒な人物だったようで、公務そっちのけで、海外を含めた各地を何ヶ月も旅行して歩いている。現代ではとても許されないことで、いくら何でもそれは怒られるとは思うのだが、それもまた明治という時代のおおらかさなのだろうか。しかし旅に明け暮れた壮年期の柳田は実に充実していたことだろう。少し羨ましい。