実家の家と土地を売却
私事で恐縮だが、一昨年実家の家と土地を売却した(今にして思えばコロナ禍の前に売れてよかった)。
わたしは進学時に実家を出て久しく、生活基盤は東京にある。実家近郊に住む妹も結婚後は、新居を購入してしまっている。父が死んで十余年、母が死んで三年。誰も住まない家を放っておいても仕方がないので、思い出多き実家を手放すことに決めたわけである。
実家の整理、売却にあたり、何事もカタチから入るわたしは、まずは最低限の知識を身につけねば!ということで、手あたり次第に本を読みまくった。
今回、三つのポイントに沿って、東京郊外の実家を処分するまでに読んだ「お役立ち本16冊」をご紹介していきたい。
- 実家の家と土地を売却
- 1.実家の片づけについて知るための4冊
- 2.空き家のリスクを知るための6冊
- 3.実家を売るためのノウハウを知る6冊
- まとめ:本の読みすぎに注意
- おまけ:不動産売却の見積を取るときに大切なこと
1.実家の片づけについて知るための4冊
我が家の場合、両親がふたりとも亡くなった後に実家の片づけを始めて、大いに後悔した。当たり前の話だが、実家の片づけは親が生きているうちに始めた方がいい。
特に、家土地関連の契約書の場所、金融資産の所有状況などは、親が元気なうちに(というか、呆け始める前に)聞いておきたいところである。
もっとも、親に対して「生前整理」なんて言葉は面と向かってはとても言えない。非常にデリケートな問題ではあるので、いかにして親の気分を害さずに整理を進められるか?その手法について、知っておくのは良いことだと思う。
東洋経済の「実家の片づけ」特集は定期的特集が組まれているので、やはり関心の高い問題なのだろう。ボリューム的には物足りないが、手っ取り早く概要を知るには良い一冊。
『カツオが磯野家を片づける日』は、実家の片づけを「磯野家の30年後」でシミュレーションしてみる意欲的な一冊。磯野家をモデルにしているので人間関係がわかりやすい。親の生前から、いかにスムーズに片づけを始めるか。そんなノウハウを学ぶことができる。
『親の家を片づける』は実体験レポートを中心としたノウハウ集。親と同居なのか、別居なのか、生前整理なのか、死後の整理なのか、豊富な実例が紹介されていて役に立つ。
片づけをする自分自身の「老い」についても考えていかないと、これから困るよと説く。生前整理の重要さを改めて知ることができる一冊。
2.空き家のリスクを知るための6冊
続いて、誰も済まない家を放置しておくリスクを知っておこう。誰も住まなくなったとはいえ、親が建てた家を売るのは後ろめたい気持ちがするものだ。しかし、空き家をそのままにしておくことはお勧めできない。
誰も住まない家は、想像を超えた速さで劣化していくのだ。
換気されない室内はカビだらけになり、屋根瓦は劣化し、水回りも使わないと傷んでくる。久しぶりに開けてみた物置の中には、アシナガバチの巣ができていたり、壁の隙間からは植物が侵入してくるのである。※全部実話(笑)
ということで、このセクションでは空き家の実情・リスクを知り、管理・運用のノウハウについて学ぶことができる本を集めてみた。
『老いる家 崩れる街』では、人口減社会なのに、未だに新築が建てられ続けるこの国の不条理について知ることできる。社会問題としての「空き家」について学べる。「空き家」についてのリアルな数字を知ることができる一冊。
『あなたの不動産が「負動産」になる』は、空き家を放置することのリスクを知ることができる一冊。放置していても発生する固定費(固定資産税、管理費、積立修繕費)の負担。これから先、郊外の地価は下がる一方なので、一刻も早く対処した方がいいよと教えてくれる。
『「空き家」が蝕む日本』も空き家のリスクを説いた本。現役の不動産コンサルが書いた本なので、やや現場寄りの内容。
ただ、後半は話がズレてきて、海外不動産投資の話に我田引水されていくので、読む必要はないかもしれない。
『実家の相続で困らないために今すぐできる空き家対策』は、具体的な空き家の管理について教えてくれる一冊。水道管は放置すると中の水が腐って傷む、よって月に一度は水を流した方が長持ちするなど、実践的という意味で、これはいちばん良かった。
ただ、一戸建てに寄せた内容なので、マンション住まいの方には物足りないかも。
『あなたの空き家問題』では、放置することのリスクを説くだけでなく、いかに管理してリスクを減らせるか、どんな公的支援があるのかなどを教えてくれる一冊。
実家をすぐに手放さず、しばらく管理を続けるのであれば、読んでおいて損はない本だろう。
『空き家は2018年までに手放しなさい』、ってもう2021年になっちゃったけど……。これも、地価は下がる一方だから早く売った方がいいよと説く一冊。
筆者の営業ツール的な側面が強くて内容的にはいまいち。
3.実家を売るためのノウハウを知る6冊
さて、いよいよ売却編である。
人口減少期の日本では、立地の良い一部の優良物件を除けば、ほとんどの地域で不動産の価値は下落していく。時間が経てば経つほど、実家の価値は下がっていくので、早めに早めに対策していきたい。
不動産売却はほとんどの人間にとって生涯ただ一度の経験である。
でも、こちらは素人なのに、相手の不動産業者は百戦錬磨のツワモノ揃い。持っている情報の非対称性が半端なく、最低限の知識くらいは身に着けておかないと、不動産業者の食い物にされて終わってしまうだろう。できる限りの備えはしておきたいところだ。
『不動産を「高く売る」ために知っておきたい大切なこと』は、不動産業者が、顧客に対して使ってくる数々のテクニック、常套手段について事前に知ることができる一冊。類書の中では本書が一番充実していて役にたった。
書いてあること、言っていることの真贋は疑えても、書かないこと、言わないことに気付けるかどうか。それは知識がないと本当にどうしようもないので、難しいところだと思う。

不動産を「高く売る」ために知っておきたい大切なこと 不動産売却・相続・空き家問題を解決する!
- 作者:露木 裕良
- 出版社/メーカー: 現代書林
- 発売日: 2016/12/06
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
『親が遺す不動産』は、郊外の駅バス物件、農地、田舎の一軒家等々、具体的な事例を元に、販売戦略を考えていきましょうという一冊。時には相続放棄すらも視野に入れて、対策の最適解を探っていく。
『相場の3割増を実現! “お荷物"マイホーム高値売却術』は、首都圏郊外の築古物件に対象を絞った売却ノウハウ本。わたし的には条件が近くて、かなり役に立った。
ただ「相場の3割増」は営業トークなので、真に受けすぎないように。
『はじめてでも高く売れる 不動産売却40のキホン』は、商業ビルや、複雑な境界を持つ土地、貸借人のいるマンションなど、ちょっと難易度の高そうな物件をいかにして売っていくかという部分に的を絞った一冊。
郊外の一軒家を売りたいだけのわたしには、ここまでのテクニックはいらなかったのですが、該当する物件を持っている方にはお勧め。
『改訂版マンションを相場より高く売る方法』は中古マンションの売却に特化したハウトゥ本。一戸建て所有の人には物足りないかな。
『マイホーム価値革命』は、少し毛色の変わった一冊で、売るのではなく「貸す」スタイルでの活用法を教えてくれる。無理して売って買いたたかれるより、もし借り手がいるなら貸家にした方が儲かる場合もある。選択肢を増やす意味で、読んでおくと良い書籍かな。
まとめ:本の読みすぎに注意
我ながら本読みすぎ(笑)。事前に知識を得ることは大切だが、時間をかけすぎるのは禁物。
わたしの場合、実家を相続してから、実際に売却が完了するまで三年の歳月が経過してしまったのだが、この期間中に地元の地価はなんと3~5%も低下!(妹にメチャ怒られた)。三か月程度と期間を決めて、集中的に対策した方が良いかと。
ただ、不動産に関する本を読む時には注意した方がいいことがある。
この手の本は、ほとんどが不動産業者の方自身が書いている。当然のことながら筆者の所属する組織に有利なことしか書いていないので、一冊だけ読んですべてを信じてしまうのは禁物である。最低でも三冊は類書を読んで、傾向をつかんだ方が良い。
それから、不動産や、税金についての法律はコロコロ変わる。できる限り新しい本を読んだ方が安全だ。
おまけ:不動産売却の見積を取るときに大切なこと
これも実体験だが、売却の見積もりは必ず複数の会社に出そう。一社だけでは客観性が担保されない。
この時、絶対に確認してほしいことがある。
売却したい物件の周辺にある類似物件がいくらで売れているか
という点だ。
自分が売りたい物件の見積価格は、業者の販売方針、得意分野、懐事情でけっこう変わってくる。正直あまりあてにならない。わたしの場合、びっくりするくらい各社バラバラの見積が出てきた。
そんなときに目安になるのは、近くにある類似物件が実際にいくらで売れたかなのである。この場合の類似物件は、あなたにも土地勘があって、実物を見に行けるものが理想である。シビアーな現実を知ることができるはずだ。
どうしても自分の所有物件は高く売りたいので夢を見がちだが、現実を知るうえで、同様物件の売却相場を知っておくことは、不動産者と話をしていくうえでも有効になっていくだろう。