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『誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡』木村元彦 サッカー選手から見たユーゴスラヴィア内戦

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木村元彦のデビュー作

筆者の木村元彦(きむらゆきひこ)は1962年生まれのノンフィクション作家、ジャーナリスト。 2005年の『オシムの言葉』で一躍ベストセラー作家になる木村元彦だが、そんな彼のデビュー作がこの『誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡』である。

サッカージャーナリストきってのユーゴ通が、ピクシーの愛称で親しまれ、日本でも活躍したドラガン・ストイコビッチの人生を綴ったスポーツノンフィクション作品である。単行本版は東京新聞出版社より1998年に登場。


 

集英社文庫版は2000年に刊行されている。

内容はこんな感じ

日本ではJリーグの名古屋グランパスで活躍した、ピクシーこと、ドラガン・ストイコビッチは1965年生まれ。旧ユーゴスラヴィア(セルビア)出身。ラドニツキ・ニシェを経て、名門レッドスター・ベオグラードに移籍。ユーゴ代表でも活躍しイタリアワールドカップではベスト8に入る。順風満帆に見えた彼のサッカー人生だったが、祖国ユーゴスラヴィアの内紛が暗い影を落とす。屈辱のユーロ92出場権剥奪から、日本への移籍、そして引退に至るまでの足跡を辿る。

フットボールとユーゴスラヴィア内戦

ストイコビッチは旧ユーゴの選手でセルビア人。ユーゴ関連の本を何冊か読んできたから判りやすいけど、セルビアはユーゴ紛争の当事国で一方的に悪者扱いされた挙げ句に国際政治的に惨敗した国だ。ユーゴへの制裁措置として、ユーロ92、ワールドカップアメリカ大会への参加権が剥奪される。最盛期のピクシーのプレイは国際大会で披露されることが無かったのだ。

筆者は実際にユーゴを訪問して取材を敢行しており、ユーゴ紛争の戦勝国であるクロアチアの豊かさ、敗戦国であるセルビアの貧しさをつぶさにレポートしている。瓦礫の山だらけの首都ベオグラードの惨状にはショックを受ける。ユーゴスラヴィア連邦の解体に併せて、イビチャ・オシムに率いられ史上最強と呼ばれたユーゴスラヴィア代表チームも崩壊を遂げていく。何のためらいもなく自国の代表チームを応援出来る自分の立場がいかに恵まれたモノであるかを痛感させられた。

ピクシーの青年期から引退直前まで

本書ではストイコビッチの選手人生を青年期から引退直前まで取り扱っている。が、サッカー人生の前半部分レッドスター、マルセイユ時代についてはわりとあっさり。90年のイタリアワールドカップも描写は少なめ。グランパス移籍以降のエピソードがメインで、どうせなら日本に来る前の話が知りたかっただけにちょっとガッカリ。

しかしこの人、いくら治安が良くて給料が良かったとはいえ、1994年当時のJリーグに来てくれたよな。当時の映像をたまにネット見るけど、今見てもキレっキレっですごい。2000年以降のJファンとしては、この選手の活躍をリアルで見ることが出来なかったのが返す返すも残念。

なお、ユーゴスラヴィア本はこんなのも読んでるよ。