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『地下鉄の駅はものすごい』渡部史絵 東京メトロと都営地下鉄メインのウンチク本

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地下鉄への愛が詰まった一作

2020年刊行。筆者の渡部史絵(わたなべしえ)は芸能人としての活動履歴もあるようだが、現在は鉄道ジャーナリストとして活躍している人物。

『東京メトロ 知られざる超絶!世界』『関東私鉄 デラックス列車ストーリー』『電車の進歩細見』『首都東京地下鉄の秘密を探る』など、数多くの著作がある。地下鉄に関する著作が多く、渡部史絵にとって得意なジャンルであるのかもしれない。

内容はこんな感じ

世界でも屈指の複雑さを誇る日本の地下鉄網。1927(昭和2)年の銀座線開通から始まる日本の地下鉄の歴史。地下を走る鉄道ならではの様々な技術的な問題。見る人の目を楽しませる独自のデザイン。1日あたり、758万人にも上る乗降客をさばく仕組み。東京メトロと都営地下鉄を中心に、都市を縦横に駆け抜ける地下鉄道の魅力を紹介する一冊。

地下鉄好きにおススメ

『地下鉄の駅はものすごい』は一冊まるごと、地下鉄オンリーの鉄道ウンチク本である。地下鉄は日本各地に敷設されているが、大阪、札幌、仙台、横浜、名古屋、京都、神戸、福岡の諸路線について巻末でわずかに触れる程度。主として取り扱うのは東京メトロと、都営地下鉄である。

最近はひと段落ついた感があるが、この数十年で東京の地下鉄網もずいぶん変わった。わたしの学生の頃は、半蔵門線は文字通り半蔵門までしか通っていなかったし、南北線や、副都心線、大江戸線も走っていなかった(年代がバレそう)。

2021年現在、東京メトロは9路線(銀座線、丸ノ内線、日比谷線、東西線、南北線、有楽町線、千代田線、半蔵門線、副都心線)。都営地下鉄は4路線(浅草線、三田線、新宿線、大江戸線)が運行を行っている。狭い東京にこれだけの路線が走っているのだから、世界でも稀な密度と言えるだろう。

本書では地下鉄各路線の敷設に関する歴史や技術面でのエピソード、駅の構造やデザイン等について紹介されている。鉄道ファン、特に地下鉄好きの方であれば楽しく読むことが出来るのではないかと思われる。

東京メトロのここが凄い!

前半パートは東京メトロ編である。

日本の地下鉄の歴史は、1927(昭和2)年の銀座線開通からスタートする。なんと銀座線は戦前から走っているのだ!銀座線のホームは深度が浅く。地上から1フロア降りるだけで到達できる。当時は他に路線がなかったので深く掘る必要がなかったわけである。

しかし、路線数が増えるにつれて地下鉄路線はより深い位置に敷設されていく。かつては地上から掘り進める開削工法で敷設出来たが、深々度になればそうはいかない。ここでシールドマシンが登場。東京メトロは飛躍的に路線距離を伸ばしていく。

興味深いのは皇居の下を地下鉄が走っていない理由である。やはり不敬にあたるから?と思いたいところだが、実際は管理運用上の問題であるらしい。

地下鉄はどの路線でも必ず換気口を地上に設けなくてはならない。このため、皇居の下に路線を通すと、皇居の敷地内にも換気口を作る必要が出てきてしまう。となると、換気口を使ったテロへの対策が必要となり警備の手間が増えてしまうのだとか。

また、すり鉢状勾配の話も面白かった。地下なのだから平坦に線路は敷かれているように思われがちな地下鉄だが、意外にアップダウンが多い。あえて高低差をつけることで列車の加速と減速が行いやすくなっており、年間でみるとバカにならない金額の電気代が節約されているのだという。

都営地下鉄のここが凄い!

本書の後半パートは都営地下鉄編である。

浅草線の敷設は隅田川の地下を通るため、特に難工事であったとされる。あらかじめトンネルを地上で作って、それをそのまま地下に埋め込む潜函工法(ケーソン工法)が凄い。川底を一時的に凍結させる工法まで用いられていたようで驚かされる。

利用者として嬉しいのは、大江戸線について書かれているページ数が多い点だろうか。あまり知られていないが、大江戸線は日本で最長の地下路線である。そして、実はリニアモーターカーなのである。都市部を走る環状部と、練馬方面へと繋がる放射部の独自の構造。後発故に、意匠を凝らした各駅のデザインなどについても詳しく言及されていてこれは楽しい。

図が欲しかった

少しだけ残念な点をあげるとすれば、図表が少ないことだろうか。本書は駅構内や、車両についての写真は相応にあるので、これは良いと思うのだが、いかんせん図表が少ない。特異な構造となっている東銀座駅の例などは図で示してくれれば、もっと分かりやすかったのではないかと思う。「バカの壁」として名高い、東京メトロ半蔵門線と、都営地下鉄新宿線の九段下駅についても、図で見せればよりその「バカ」らしさが際立ったのではないかと思われる。

一から図表を起こすのはコストが増えてしまうから致し方ないのだろうが、この点はこだわって欲しかった部分ではある。

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