メタバースって何なのかわからない人のために
フェイスブック(Facebook)が、企業名を「Meta(メタ)」に変更すると発表して、かれこれ一年が経とうとしている。
自社の推進する仮想空間サービス「メタバース」を強力にプッシュしていこうとする強い意志を表しているのだろう。
というところで、では「メタバース」とは何なのか?そう問われて明確に答えが出せる人間は少ないのではないだろうか?
そこでお勧めしたいのが『メタバース進化論』だ。
本書は2022年刊行。筆者のバーチャル美少女ねむは、2017年からVTuberとしての活動を開始。現在はVTuberだけでなく、メタバース原住民にしてメタバース文化エバンジェリスト、作家、歌手、暗号資産投資家として、幅広い分野で活動している美少女アイドルだ。
メタバースの世界には2018年から参画。VTuberとしての活動時以外は、ほとんどの時間をメタバースで過ごしているとのことで、本気でメタバースを使い込んでいる、ガチの「メタバース原住民」と言える。
この書籍から得られること
- メタバースがどんなサービスなのかがわかる
- メタバースの魅力、可能性について知ることが出来る
内容はこんな感じ
近年、急速に注目を集めるようになったメタバースとはいかなるサービスなのか。フェイスブックから社名を変えた「Meta(メタ)」の狙いはどこにあるのか。そしてこれからのネット社会はどう変わっていくのか。VR空間で生まれる経済空間。アバターによるコミュニケーションの登場。新たなアイデンティティの確立。その実情、可能性、そして普及に向けた問題点を検証していく。
目次
本書の構成は以下の通り
- はじめに
- 第1章 メタバースとは何か
- 第2章 ソーシャルVRの世界
- 第3章 メタバースを支える技術
- インターミッション:忘却か、覚醒か
- 第4章 アイデンティティのコスプレ
- 第5章 コミュニケーションのコスプレ
- 第6章 経済のコスプレ
- 第7章 身体からの解放
- おわりに
メタバース7つの定義
まずはメタバースの定義から。本書では以下の7点をもって、メタバースの定義と定めている。
- 空間性:三次元空間を再現
- 自己同一性:自己のアイデンティを投影した唯一無二アバターの姿で存在できる
- 大規模同時接続性:大量のユーザが同時に同じ場所に接続できる
- 創造性:ユーザ自身が発信、創造が可能
- 経済性:ユーザ自身によるメタバース内部での経済活動が可能
- アクセス性:スマホ、PCどんな端末からでも繋がれる
- 没入性:AR/VR技術により世界観に没入できる
つまり、メタバースとは、単なるゲームではなく、現実を代替するような(あるいは超えるような)充実感のある体験ができ、稼いで生きていくことができる仮想空間「そこで人生が送れる人類の新たな生活空間」であると考えられます。
『メタバース進化論』p32より
思っていたよりも、メタバースの規模や意義、期待されている世界観の在りようが、とてつもなく壮大なものであることがお分かりいただけるだろうか?
なにせ「そこで人生が送れる人類の新たな生活空間」なのだ。メタバースは、単なる一過性のゲームや、暇つぶしの類ではなく、日常生活、仕事の場すらも代替しえる、人類の新しい可能性であるとされているのだ。
メタバース3つの革命
さらに、本書ではメタバースにおける3つの革命として、以下の点を挙げている。
- アイデンティティの革命
メタバースはVR/ARによる主として3Dの仮想空間であるため、自己を表現、認識するためのアバターが必須となってくる。アバターを使うことで、メタバースの中では人種、性別、年齢、身体的特徴、国籍などの壁を取っ払った「自分のなりたい姿」で誰もが活躍することが出来る。これは人類史において革命ともいえる出来事ではないだろうか?
- コミュニケーションの革命
インターネットが一般化して、今では誰でもネット経由で気軽に知り合えるようになった。メタバースの世界ではそれが更に加速する。アバターの存在で「外観」によるフィルターが除去された環境下で、新たなコミュニケーションが始まり加速するのだ。
- 経済の革命
実はいちばんの驚きはこの部分かもしれない。稼ぐ場すらもメタバース空間内で完結するのであれば、無理をしてまで現実世界での労働に固執することはない。ネットの空間は実質的に無限の広さを持っている。そこが人類にとっての新たな「新大陸」になると本書は説くのである。
とはいえ課題は山積
とまあ、冒頭部分を読む限りはバラ色の未来世界のように見える。ただ、もちろんこれは理想を込めて語られている部分も多い。メタバースの普及にはさまざまな障害が立ちはだかっている。『メタバース進化論』では、こうした負の側面についてもしっかりと言及がなされている。
- 大規模同時接続性が不十分
- 「なりたい自分」になるためのアバター制作の難易度の高さ
- 個人が経済活動できる環境が整備されていない
- 日本人の参加者が少ない
- 女性の参加者が少ない
- 企業側の意図と利用者側のニーズのミスマッチ
- 国家による規制、法的問題の兼ね合い
- 利用にはある程度の初期投資が必要
かつてのパソコン通信の時代を思い出す
ここで、個人語りになってしまって申し訳ないのだが、『メタバース進化論』を読んでいて、わたしはかつての「パソコン通信」の時代を強く想起させられた。パソコン通信は1980年代の後半~1990年代の初期にかけて、インターネットに先立ってはじまったネットサービスだ。
パソコン通信のサービスを利用するには、まずは20万~30万円程度のパソコンを購入(当時のパソコンは高かった!)。更に高額なサービス利用料(1分あたり10円)と、電話料金を払い続ける必要があった。いまとなっては、至って地味な、文字だけのサービスなのだが、「ここではない世界」が回線の向こう側にあるという魅力は得難いものがった。
ちょっと強引なのだけれども、「ここではない世界」の魅力という点で、メタバースにはかつてのパソコン通信に寄せられた期待と似たようなものを感じてしまうのだ。初期投資にかかる費用も似たようなものだしね。
パソコン通信の時代から、現在のようなインターネットがあたりまえの世界が実現するまで十余年を要した。ネット社会の黎明期も問題点は山積みで、こんなものが流行るとは思えないと断じる人間も多かった。
そう考えると、メタバース(あるいは、メタバース的な新しいVR/AR空間事業)の普及にも、相応の時間が必要になってくるのだと思われる。
オッサンなので、いまさら新しい世界に飛び込むのもどうかとは思うのだが、メタバースの世界にかなり興味をもってしまったのは事実。とりあえず、Meta Quest 2を購入すれば最低限の体験はできそうなので、もう少し小金を貯めたら試してみようかな。