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『刑事弁護人』亀石倫子・新田匡央 刑事事件の弁護士は何をしているのかが判る!

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筆者の亀石倫子と新田匡央はこんな方

2019年刊行。筆者の亀石倫子は1974年生まれ。東京女子大を経て、一度は大手通信会社に勤務するものの退職。その後一念発起、法科大学院経由で司法試験合格を果たした方。窃盗や性犯罪など、刑事事件の実績が豊富な現役の弁護士である。

もうひとりの筆者、新田匡央(にったまさお)は1966年生まれのライター、ノンフィクション作家。今回は亀石倫子の実体験を元に、新田匡央がライティングパートを担当したのではないかと思われる。

内容はこんな感じ

連続窃盗犯として逮捕された男の弁護を引き受けた筆者は、思いもよらぬ事実を告げられる。容疑者の車にGPSを取り付けた泳がせ捜査。令状のないGPS捜査は、警察による違法行為ではないのか?最高裁まで争われたGPS捜査憲法違反事件を、弁護団を率いた主任弁護士の視点から描く。「刑事弁護人」がどんなことをしているのかがわかる一冊。

刑事弁護人のお仕事がわかる!

一般人としてはなかなかお目にかかることがない(というか、お目にかかりたくない!)刑事弁護人という職業。本書では、彼ら、彼女らがどんな仕事をしているのかがわかるようになっている。

容疑者に接見し、弁護を引き受け、法廷戦術を決める。検察側が持っている証拠は、累計証拠開示請求を出さないと裁判前には開示されない。そのため、弁護側は、検察側がどんな主張をしてくるかをあらかじめ予想して、開示請求を何度も出さなくてはならない。とかく、テレビドラマなどでは、法廷のシーンばかりが目立つが、弁護士の仕事はほとんどが、裁判前の膨大な事務作業であり、ここに高度な専門背性が要求される。

検察側と互角以上に戦っていくには、膨大な判例や法的知識が必要であるし、弁護士個人では太刀打ちできないものも多い。

裁判って、どうしてあんなに時間がかかるのだろうと思っていたが、本書を読むとそれもやむを得ないかと感じさせられた。

迫真の法廷ドキュメンタリー

『刑事弁護人』筆者の亀石倫子は、連続窃盗犯の弁護を引き受ける。単純な窃盗事件かと思われた案件だが、警察は被告人の車にGPS装置を取り付け泳がせ捜査を行っていた。GPSの装着は、重大なプライバシー侵害であり、本来であれば令状なしでの実施は許されない。結果としてこのGPS問題が、裁判が大きな争点となり、最高裁まで持ち越される大事件に発展していく。

本書は講談社現代新書にしては350頁近くあり、けっこうなボリュームあるのだが、法廷モノとわかりにくい分野を扱っている割にはリーダビリティはすこぶる良好である。容易に明かされない検察側のねらい。二転三転する裁判結果。劇的な展開が続き、読み始めると頁をめくる手が止まらなくなるのだ。

この事件はかなり有名らしいので、ググると関連記事が出てきた。よってリンクを貼っておく。

若き弁護士の野心と高揚感

この裁判は、日本初の最高裁判所でのGPS判例を引き出す大きな事件となった。おそらくほどんどの弁護士に取って、最高裁は非日常の世界である。筆者をはじめとした若き弁護団のメンバーたちは、熱に浮かされたように事件にハマりこんでいく。

ここまで来ると、本来の被告人の問題は完全に消えていて、ハレの場である最高裁でいかに戦うか。いかに現場を楽しむかという方向に彼らの思考が切り替わっていく。これほどの大舞台に高揚感を覚えるのも致し方ないのかなとは思うものの、ここまで開けっぴろげに書いてしまっていいのかなと不安に感じたのはわたしだけだろうか。