中世の破産者たちの姿を描く
2005年刊行。筆者の桜井英治(さくらいえいじ)は東京大学大学院総合文化研究科の教授。本書刊行当時は北海道大学大学院文学研究科助教授だった。日本中世史、流通経済史を専門としている。
この書籍から得られること
- 日本中世、室町期の金融システムに詳しくなれる
- 中世の破産者たちと債権者たちのエピソードについて知ることが出来る
内容はこんな感じ
中世の時代にも巨額の負債を背負い破産する者たちは存在した。彼らは何故莫大な借財を抱えることになったのか。自己破産のような救済措置が無かった時代に、破産者たちはどのような法的処理を受けたのか。債権者たちはいかにして債務を取り立てることが出来たのか。具体的な事例を元に中世期の金融システムを解き明かしていく。
目次
本書の構成は以下の通り。
- したたかな債務者たち
- 1.「尾張房料足の事」
『御前落居記録』第一六項/『御前落居記録』の形式/
松梅院禅能の弁明/義教の事実認定 - 2.松梅院禅能の破産
松梅院禅能/義持の北野信仰/「永代不易の御判」/
いつの借金か/禅能の失脚/義教と北野社 - 3.有徳人たちの末路
光聚院猷秀/永享の山門騒乱/西室大夫見賢のこと - 4.金融ネットワーク
直列型・並列型・複合型/「土倉寄合衆」/不良債権問題/
土倉の廃業と預金保護/二つの経営形態/借書の流通 - 5.破産管財の仕組み
正実坊と籾井入道/仲介者による代官請負/禅能と猷秀/
猷秀は救いの神か - 6.経営再建は成功したか
その後の禅能/徳政の影/中世は優しい時代か
中世の金融システムを考える
15世紀前半。室町幕府六代将軍足利義教の治世に作成された裁判記録「御前落居記録」中の判例を元にした考察。実際に起きた訴訟事件を読み解きながら中世の金融システムについて考証を巡らしていく。本人の承諾が無ければ質草を流せないという慣習法の存在や、所領を債権者に貸与し年貢をもって返済に充てるなんて借り手有利の判例が興味深い。しかしこの時代の金貸しって僧侶ばっかりなのは驚きだった。
山川の日本史リブレットが面白い!
日本史(世界史)リブレットは山川出版社が1998年から刊行している叢書。既刊が400冊近く出ている。かなり平易に書いてくれてはいるけど、ある程度の歴史知識がある人間向けに書かれているので少々敷居は高いかな。歴史系の専門出版社が出しているシリーズなので、一般の歴史系新書と比べるとやや難易度高の印象。もっとも歴史好きでなければ手にも取らないだろうけど。
ラインナップを見る限りでは魅力的なテーマを扱った著作が多いので、興味のある出来事、人について書かれたものがあったら、読んでみると良いかと思う。