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『サラ金の歴史』小島庸平 サラ金業界の勃興から隆盛、壊滅に至るまでを概観する

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新書大賞2022大賞受賞作品

2021年刊行。筆者の小島庸平(こじまようへい)は1982年生まれの経済史学者。東京大学経済学研究科の准教授。

サラ金の歴史 消費者金融と日本社会 (中公新書)

本書は2021年の2021年度の第43回サントリー学芸賞を受賞。更に、2020年12月~2021年11月に刊行された新書を対象とした「新書大賞2022」にて、第一位の大賞に輝いた作品である。

この書籍から得られること

  • サラ金業界がいかにして始まり、いかにして壊滅させられたがわかる
  • 戦前からの消費者向け金融の歴史がわかる

内容はこんな感じ

1990年代に全盛を極めた消費者金融業界。日本経済史の中でも特異な地位を占めたこの業界はいかにして生まれ、そして衰退していったのか。戦前の「素人高利貸」の時代から、戦後の団地金融。そして高度成長期に入ってからのサラ金の誕生。多重債務者や、大量の破産者を生み出したその背景には何があったのか。家計や、ジェンダーなど複数の視点で読み解くサラ金業界の歴史。

目次

本書の構成は以下の通り。

  • まえがき
  • 序章 家計とジェンダーから見た金融史
  • 第1章 「素人高利貸」の時代―戦前期
  • 第2章 質屋・月賦から団地金融へ―一九五〇~六〇年代
  • 第3章 サラリーマン金融と「前向き」の資金需要―高度経済成長期
  • 第4章 低成長期と「後ろ向き」の資金需要―一九七〇~八〇年代
  • 第5章 サラ金で借りる人・働く人―サラ金パニックから冬の時代へ
  • 第6章 長期不況下での成長と挫折―バブル期~二〇一〇年代
  • 終章 「日本」が生んだサラ金
  • おわりに

駅前の異様な光景が忘れられない

現在、30代後半以上の方であれば、こんなCMを覚えておられるはずだ。90年代~ゼロ年代にかけて、深夜帯に猛烈な頻度で放映されていた武富士のダンスCM。

そしてゼロ年代冒頭にはやった、アイフルのチワワCM。

この時代、駅前の一等地がサラ金に埋め尽くされ、ビル一棟まるごとサラ金!といった光景もざらに存在した。今考えてもあれは異様な光景だったと思う。
本書『サラ金の歴史』は、あの時代、日本各地を席巻したサラ金の歴史を、その黎明期から終焉まで概観する一冊となっている。断片的な知識としてではなく、通史として全体感を把握できるのはありがたい。

サラ金前史「素人高利貸」と「団地金融」の時代

第一章と第二章ではサラ金登場以前の消費者向け金融が、いかなる形態で行われていたが紹介されている。

戦前~1950年代頃までは、与信力の低い一般人向けの金融事業は敬遠されており、素人高利貸が日本各地で活躍していた。素人が貸すのだから対象は、ご近所や、会社の同僚などの限られる。貸し手と借り手の距離の近さが特徴的だ。当時、割のいい副業として推奨されていたという事実には驚かされる。

その後、公営団地入居者を対象とした団地金融が隆盛を極める。一般人向けの融資は、いかにして貸し倒れのリスクを防ぐかが貸し手側の懸案事項となる。その点、団地金融は、公営団地に入居できたという公団の審査をもって信用に替えている。また、一度は行った公営団地からは、逃亡しにくい点もあったのだろう。電話一本で、即時配達。「現金の出前」とは考えたものだと思う。

高度成長期とサラ金の誕生

1960年代の後半になると、アコム、プロミス、レイクが登場。そして1970年代前半には、後に業界最大手となる武富士が誕生しサラ金四天王が出そろう。

この時代はのサラ金各社は、上場企業や公務員といった、安定した収入を得ている人間向けに、レジャーや遊興費、ギャンブル向けの資金を融資していた。サラ金は基本無担保だから、与信管理が重要となってくる。勃興当時のサラ金各社は借り手の勤務先をもって信用とみなしていたわけだ。

しかし、高度成長期が終わり、オイルショックによる不況期を迎えると、サラ金業界も変化を強いられる。エリート層に遊びの金を貸していた時代から、困窮する庶民に向けて日常の生活費を融資する形態に変化していくのである。

興味深いのは、サラ金各社の資金調達だろう。信用力がなく、社会的な地位も低かったサラ金各社は常時、資金繰りに苦しんでいた。しかし1970年代後半からの資本の自由化で、銀行から融資を得られるようになる。外資からカネを借りられるようになっていく。後に社会悪とされるサラ金業だが、一般の銀行や、金融庁などの組織がその発展を下支えしていた点を忘れてはならない。

1990年代に入ると自動契約機が登場(むじんくん、いらっしゃいまし~ん、お自動さん、¥enむすび、ひとりででき太)。テレビCMが解禁されたこともあり、サラ金業界は最盛期を迎えることになる。

社会問題化するサラ金業界と政府による規制

銀行からの資金調達を得て、サラ金各社は際限のない拡大を続けていく。結果として、返済能力の低い層にまで融資を続けたため、膨大な数の返済不能者を出すことになる。恐喝まがいの取り立て。増え続ける自己破産者。団体信用生命保険を使った13か月目の自殺返済。サラ金による借金苦が社会問題化していくのである。

サラ金被害者による対策会議が全国各地で組織される。全国紙や、週刊誌などでのパッシングが激しくなってくる。モラルハザードに陥った業界内では、異様な論理がまかり通る。行き過ぎた創業者崇拝、パワハラで知られた武富士創業者の逮捕は、当時大きな衝撃をもって迎えられた。

政府によるサラ金業界への規制は何度か行われてきたが、決定打となったのは2006年の改正資金業法の登場だ。これによって、上限金利が29.2%から20%に引き下げられ、グレーゾーン金利も消滅。そして総量規制が課される。

以降の、サラ金各社の凋落ぶりはすさまじい。2007年は大手各社が軒並み赤字転落する。2008年にレイクは新生銀行に、アコムは三菱UFJグループに身売り。2010年には武富士が会社更生法を申請し倒産。2011年にはプロミスも三井住友グループの傘下に入る。サラ金業界は、銀行資本の枠内に組み込まれてしまったのだ。

サラ金を肥大させたのはわたしたち自身

最終章の「「日本」が生んだサラ金」では、サラ金という特異な業態を生み出した日本社会を振り返る。サラ金業界を肥大させたのは、銀行や大蔵省をはじめとした、日本の金融システムそのものだった。そしてそれを支えていたのが、借り手となった一般消費者たちである。

サラ金業界にかつての勢いはないが、庶民の資金需要には、現在では銀行系のカードローンが応えている。貸し手が変わっただけで、金貸しのシステムそのものは依然として健在というわけだ。さすがは人類最古の職業と言うべきだろうか。

現在ではLINEを使った「LINEポケットマネー」のような新たな仕組みも登場している。消費者向けの金融業は、表向きの見た目はクリーンになってきているが、その反面で闇金や特殊詐欺のような勢力も依然として健在なのだろうなあ。

 

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