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『中先代の乱 北条時行、鎌倉幕府再興の夢』鈴木由美 『逃げ上手の若君』と併せて読みたい!

2021年刊行。筆者の鈴木由美(すずきゆみ)は1972年生まれの歴史研究家。日本史史料研究会の関連団体(なのかな?)である、中世内乱研究会で会長を務めている人物。過去に共著はいくつかあったが、単著としては本書が初めての作品となる。

中先代の乱-北条時行、鎌倉幕府再興の夢 (中公新書 2653)

呉座勇一の『応仁の乱』や、亀田俊和の『観応の擾乱(かんのうのじょうらん)』など、ここ数年、中公新書では室町時代を舞台とした著作がちらほらと出てくるようになった。この時代のファンとしては嬉しい限り。本書もその流れをくむ一冊と言えるだろう。

この本で得られること

  • 「中先代の乱」とは何だったのかがわかる
  • 「中先代の乱」の歴史上の意義がわかる
  • ジャンプ漫画『逃げ上手の若君』を読むのがもっと楽しくなる

内容はこんな感じ

1333年、鎌倉幕府が滅亡する。その二年後、北条得宗家、高時の遺児である時行は、建武政権に反旗を翻し、信濃で挙兵する。快進撃を続け鎌倉を奪還する北条軍。これに対して、足利尊氏は乱の鎮圧のため鎌倉に向かう。「廿日先代」と揶揄され、短期間で鎮圧されたこの戦いの意義はどこにあるのか。各地の北条氏残党による決起を概観しつつ、その本質に迫る。

目次

本書の構成は以下の通り

  • まえがき
  • 序章 鎌倉幕府と北条氏
  • 第1章 落日の鎌倉幕府
  • 第2章 北条与党の反乱
  • 第3章 陰謀と挙兵 中先代の乱①
  • 第4章 激戦と重圧 中先代の乱②
  • 第5章 知られざる「鎌倉合戦」
  • 第6章 南朝での活動
  • 終章 中先代の乱の意義と影響
  • あとがき

中先代の乱が非常に短期間で終わってしまったこと、また、史料が少ない(筆者も苦労している感がある)こともあってか、乱そのものの記述はあまり多くない。

北条時行がいま熱い!

北条時行(ほうじょうときゆき)は、鎌倉幕府の得宗家であり、第14代執権の北条高時の遺児である。少し前まで、知名度は皆無に近い人物であったがいまは違う。北条時行は松井優征(まついゆうせい)が、「週刊少年ジャンプ」で連載している『逃げ上手の若君』の主人公なのである。

第一話がボイスコミック化されているのでYoutubeをご紹介。

ジャンプ漫画(しかもweb連載でなく週刊ジャンプ本誌である)で歴史モノ。しかも、建武政権時代が舞台の作品が登場するとは前代未聞の出来事である。巷の南北朝史愛好家たちが熱狂したのは言うまでもない(笑)。

本書『中先代の乱』が『逃げ上手の若君』の登場を予期していたのかどうかは不明ではあるが、実にタイムリーな刊行タイミングであった。

中先代の乱の顛末を描く

中先代の乱は北条家の遺児である北条時行が、時の建武政権に対して起こした戦である。「中先代」とは聞きなれない用語だが、wikipedia先生から引用させていただくと、こんな意味になる。

先代(北条氏)と後代(足利氏)との間にあって、一時的に鎌倉を支配したことから中先代の乱と呼ばれている。

中先代の乱 - Wikipediaより

『中先代の乱』では、鎌倉幕府の滅亡時点から丁寧に時代背景を読み解いていく。建武政権への反乱は日本各地で起きており、旧北条家関係者らによるものは26件を数えるのだとか。

北条家の主要な武将は、鎌倉滅亡時に大半が殺されてしまっており、乱の関係者には傍流も多い。その中にあって北条時行は、高時の次男(長男の邦時は鎌倉陥落時に処刑されている)であり、北条の遺臣たちが神輿として担ぐには最適の人物であったのだろう。ちなみに、中先代の乱発生時で、北条時行はまだ十歳である。

信濃で兵を挙げた北条時行は、鎌倉を一時的に奪還するも、その占領期間はわずかに二十日間程度。それゆえに「廿日(はつか)先代」の異名すらある。明智光秀の三日天下、ナポレオンの百日天下みたいなものか。

敗因とその後の影響

北条方の敗因を筆者は以下としている。

  • 天候による人的、精神的ダメージ(当時大きな嵐があった)
  • 共謀者である西園寺公宗の陰謀が事前に発覚したこと
  • 各地の反乱との連動が取れなかったこと
  • 足利尊氏の東下が予想よりも早かったこと

また、当時の史書である『梅松論(ばいしょうろん)』を引いて、以下の理由も示している。

  • 北条時行が大将として幼すぎた
  • 名のある武将が参加していなかった
  • 寄せ集めの軍勢に過ぎなかった

鎌倉幕府滅亡時に、名のある武将の大部分は殺されてしまっていた。この点、禍根を残さない意味で、残酷なようだが建武政権側の対応は為政者としては当然のことであったろう。史料が少ない点もあるのだろうが、この時期の北条方の反乱は実名すらもわかっていない人物が数多く登場し、人材面という点で大いに見劣りがするのである。

また、中先代の乱の意義、影響として、筆者は以下を挙げている。

  • 足利尊氏が建武政権から離反する契機となった

最大の意義はこれに尽きるだろう。中先代の乱を鎮圧した後も、足利尊氏は後醍醐帝の帰還命令を受け入れず、鎌倉に留まり続けた。「武士の都」であった鎌倉を尊氏が制したことで、武家の棟梁としての威信も高まった。

北条時行が、鎌倉幕府再興のために起こした戦いが、結果として室町幕府誕生のきっかけとなってしまったのは歴史の皮肉と言うしかない。

ジャンプ漫画の『逃げ上手の若君』はまだまだ序盤だが、その後の時行をどう描いていくのか(時行の戦いは中先代の乱以降も続くのだ)、なんとも気になるところである。

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