山口周が示す21世紀的な思考・行動様式
2019年刊行。筆者の山口周(やまぐちしゅう)は1970年生まれの研究者、著作家。
2017年の『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』は、ビジネス大賞の2018最優秀賞(書籍部門)を受賞。この作品の大ヒットで一躍知名度が上がった。
内容はこんな感じ
「正解を出す力」にもはや価値は無い。従順で論理的で勤勉、責任感が強い。こんな20世紀型の優秀さは今後「オールドタイプ」として価値を失っていく。21世紀に求められるのは、自由で直感的でわがまま、そして好奇心の強い人材「ニュータイプ」である。変貌していく世界に合わせて、人間も変わっていく必要がある。山口周が提示する、新たなビジネスパーソンの在り方とは。
これから求められる思考・行動様式
冒頭に筆者は20世紀型の優秀人材オールドタイプと、21世紀型の目指すべき人材ニュータイプの違いとして以下を挙げている。前者がオールドタイプ。後者がニュータイプである。
オールドタイプ→ニュータイプ
- 正解を探す→問題を探す
- 予測する→構想する
- KPIで管理する→意味を与える
- 生産性を上げる→遊びを盛り込む
- ルールに従う→自らの道徳観に従う
- 一つの組織に留まる→組織間を越境する
- 綿密に計画し実行する→とりあえず試す
- 奪い、独占する→与え、共有する
- 経験に頼る→学習能力に頼る
いかがだろうか。納得感のあるものもあれば、それはどうなの?と突っ込みたくなる部分もあるのではないだろうか。以下、各章のポイントを簡単にまとめつつ、いかにして筆者がこの結論を掲げているのかを読み解いていきたい。
人材をアップデートする6つのメガトレンド
まず最初に筆者は、これから起こりうるであろう6つのメガトレンドを提示する。
- 飽和するモノと枯渇する意味
- 問題の希少化と正解のコモディティ化
- クソ仕事の蔓延
- 社会のVUCA化
- スケールメリットの消失
- 寿命の伸長と事業の短命化
さまざまな社会問題が山積されていた20世紀と異なり、21世紀の現在では多くの問題に「答え」が出されてしまっている。となると、もはや「答え」に価値はなくなり、「問題を見出すこと」にこそ価値が見いだされる。
また、VUCAとは、以下の四語の略である。
Volatile Uncertain Complex Ambiguous
不安定 不確実 複雑 曖昧
社会がVUCA化していく時代では、経験や、予測、最適化行動の陳腐化、無価値化が発生する。
ニュータイプの価値創造
問題を解決できる人材よりも、課題を設定できる人材が求められてくる。筆者はニュータイプ人材の価値創造として以下を挙げている。
- 問題を解くより「発見」して提案する
- 革新的な解決策より優れた「課題」
- 未来は予測せずに「構想」する
かつての日本は欧米に追い付き追い越せがテーマとして掲げられ、模倣すべき存在が明確に存在していた。20世紀には欧米との差分を埋めることが「問題」であり、それで確実に前に進むことが出来た。しかし、21世紀の現在では欧米との間に大きな差異はなくなっている。
「問題」とは望ましい状態が現在の状況と一致していない状況である。「問題」が消失してしまった現代では、問題を解く力でなく「発見する力」こそが求められるのだ。
ニュータイプの競争戦略
この章では21世紀型人材、ニュータイプの競争戦略が示される。
- 能力は「意味」によって大きく変わる
- 「作りたいもの」が貫通力を持つ
- 市場で「意味のポジション」を取る
- 共感できる「WHAT」と「WHY」を語る
ポイントは「役に立つ」から「意味がある」への転換である。成熟した市場では役に立つものが溢れている。そこで差別化要因となるのは「意味がある」ことである。「役に立つ」はコピーが容易だが、「意味がある」の模倣は難しい。
ニュータイプの思考法
続いて登場するのは「思考法」である。「直感」「偶発性」「倫理観」を重視せよ。従来型のビジネスパーソンには俄かに受け入れがたい概念が並ぶ。
- 「直感」が意思決定の質を上げる
- 「偶発性」を戦略に取り入れる
- ルールより自分の倫理観に従う
- 複数のモノサシを同時にバランスさせる
筆者は、企業の意思決定が論理偏重に傾くとパフォーマンスは低下すると主張する。差別化が困難な時代となっていること、方法論としての限界、そして「意味」の不在がその理由である。
論理は「役に立つ」をベースとするだけに、誰でも同じ結論にたどり着いてしまい、結果として差別化に繋がらない。それゆえに直感に根差した「偶発性」に有効性が出てくるのである。
ニュータイプのワークスタイル
この章ではニュータイプ人材のワークスタイル、働き方について語られる。
- 複数の組織と横断的に関わる
- 自分の価値が高まるレイヤーで努力する
- 内発的動機とフィットする「場」に身を置く
- 専門家と門外漢の意見を区別せずにフラットに扱う
流動化が進む現在、同じところにとどまり続けるのはリスクでしかない。自分の価値をもっとも発揮できる場所はどこなのか。やみくもな努力は不毛である。自分の本領を発揮できる場所でこそ努力すべきなのである。
ニュータイプのキャリア戦略
この章では、21世紀型人材のキャリア戦略が登場する。
- 大量に試して、うまくいったものを残す
- 人生の豊かさは「逃げる」ことの巧拙に左右される
- シェアしギブする人は最終的な利得が大きくなる
とりあえず試すことの重要性が再三説かれている。綿密な計画はむしろ確率が下がる。ダメならすぐやめる。撤退の巧拙こそが肝要なのである。
ここで筆者は哲学者スピノザの示した概念「コナトゥス」を例に出す。「コナトゥス」とは、本来の自分らしい自分であろうとする力を指す。スピノザは人の本質は、姿形や肩書ではなく「コナトゥス」によって規定されると考える。「コナトゥス」は当然、個人個人によって異なる。人間はこの「コナトゥス」を高めるために生きるべきだとスピノザは云う。
現実世界の事象について、それ自体に良いも悪いもなく、「コナトゥス」と組み合わせた結果として初めて良い悪いが出てくる。故に、人生を楽しむのであれば様々な事象を試すべきなのである。と、筆者は説く。
ニュータイプの学習力
この章ではこれからの時代の「学び」について説明されている。
- 常識を相対化して良質な「問い」を生む
- 「他者」を自分を変えるきっかけにする
- 苦労して身に付けたパターン認識を書き換える
サイエンス偏重であった20世紀型の価値観に対して、筆者はリベラルアーツこそが21世紀型の教養のベースになるとしている。
21世紀型人材「ニュータイプ」の必須スキル「問題を探す」力を養うには、本来「あるべき姿」の想定が必須となる。「あるべき姿」を規定するには個人の全人格的な世界観、美意識が必要である。ここでも役に立つ=サイエンスから、意味のある=アートへの価値転換を筆者は示している。
ニュータイプの組織マネジメント
最終章で登場するのは、21世紀型の組織マネジメントである。マネージャ層には気になるパートではないだろうか。
- 「モビリティ」を高めて劣化した組織を淘汰する
- 権威ではなく「問題意識」で行動する
- システムに耽落せず脚本をしたたかに書き換える
日本は権力間格差の大きい国と言われる。相手が役職上の上位者であるだけで、下位の人間は容易に思考を放棄してしまいがちだ。黙っていれば上位者がなんとかしてくれる。口を出すだけ面倒なことになる。
しかし、経験が陳腐化するこれからの時代、このような思考法ではやがて行き詰る。権威や肩書に流されず、自分自身はどうしたいのかが改めて問われてくるのだ。
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