ビズショカ(ビジネスの書架)

ビジネス書、新書などの感想を書いていきます

『一瞬でわかる 日本と世界の領土問題』高橋和夫・川島淳司 領土問題はどうして起きるのか?

本ページはプロモーションが含まれています

領土問題が一瞬でわかる!

2011年刊行。筆者の高橋和夫(たかはしかずお)は国際政治学者で、放送大学の元教授(現在は名誉教授)。もう一人の筆者、川島淳司(かわしまじゅんじ)は、放送大学の非常勤講師(当時)。

一瞬でわかる日本と世界の領土問題

わたしは2021年の春から放送大学での学習を続けている。放送大学で、高橋和夫が主任講師を務める『国際理解のために』で、本書『一瞬でわかる 日本と世界の領土問題』が参考書籍となっていたので手を出してみた次第。

『国際理解のために』は国際政治学の初歩の初歩を教えてくれる初学者向けの科目。前半パートではユダヤ教、キリスト教、イスラム教、ゾロアスター教等、メジャー宗教の概要を。後半パートでは日本を中心とした領土問題を学ぶ。本書はその後半パートの内容に被る部分が多い。

この書籍から得られること

  • 領土問題はどうして起きるのかがわかる
  • 世界各地の領土問題の概要が理解できる

内容はこんな感じ

日本の領土問題、北方領土、尖閣諸島、竹島、そして沖ノ鳥島。そして、パレスチナ、ゴラン高原、旧ユーゴ諸国、カシミール、南沙・西沙諸島等など、世界各地で起きている領土問題。これらの争いは何故起きたのか。関係国それぞれの主張は?そしてこれからどうなるのか?歴史的経緯を読み解きながら、その課題点を明らかにしていく。

目次

本書の構成は以下の通り

  • はじめに
  • 第1章 「領土問題」の基礎知識
  • 第2章 日本の「領土問題」
  • 第3章 アジアの「領土問題」
  • 第4章 中東の「領土問題」
  • 第5章 ヨーロッパ・ロシアの「領土問題」
  • 第6章 北南米・アフリカ・南極・北極の「領土問題」

全223ページ中、第1章と第2章までで102ページを費やす。日本人向けに書かれた著作なので、やはり「日本の領土問題」についての記述が厚めとなっている。

第1章で取り扱っている「領土問題はどうして起こるのか?」が、非常にインパクト大であったので、本ブログでは、その部分をかいつまんでご紹介したい。

領土問題はどうして起こるのか?

本書では領土問題が起こる理由として、以下の六点を挙げている。

  • 民族主義の伸長

人類の歴史上、古くから領土問題は存在したが、より先鋭化し、深刻化するようになったのは19世紀に入ってからである。

19世紀頃から、民族は独自の国家をもつべきであるとする「民族自決の原則」が叫ばれるようになった。個人は民族の発展のために貢献すべきであるとされ、世界各地で民族主義が伸長した。

旧オーストリア帝国や、オスマン帝国に属していた地域では、広大な領域に数多の民族が混在して生活しており、こうした旧帝国の崩壊後に、領土問題へと発展している。バルカン半島や、中東地域の現代史を振り返ってみれば、この点はよく理解できる。

民族主義によって、国家にとっての領土は不可侵の存在となり、領土の喪失は国民感情的に許されなくなった。一方で、他国に奪われた領土に住む人々は、かつての国家に帰属するために、新しい国家の支配に抗おうとする。

  • 宗教問題

イスラエルの建国によるパレスチナ問題、インド、パキスタン間の紛争を始め、世界各地での領土問題の背景には宗教問題が横たわっている。

  • 資源をめぐる問題

紛争対象の土地に鉱物資源、エネルギー資源が埋蔵されている場合に、領土問題はより先鋭化する。土地には農業や牧畜、観光地としての価値も存在する。また、河川や湖沼は生活用水、農業用水、工業用水として貴重なものである。こうした要素が絡んできた場合にも、領土問題は解決が難しくなる。

  • 自然現象

河川の流れを国境線としてた場合に、洪水など、河川の氾濫で流域が変わってしまうと領土問題に発展することがある。イラン、イラク国境を流れるシャットルアラブ川(アルバンド川)の流域の変遷に伴う、両国間の争いがよく知られている。

  • 地球の温暖化

北極の氷が解けることで、太平洋-大西洋間に新たな行路が開発された。南極の氷が解けることで、資源利用を巡る問題が出てきている。

  • テクノロジーの発展

かつては到達することすら難しかった場所に、人類は容易に到達できるようになった。そのため、開発が困難であった場所が開発できるようになり、新たな資源を巡る紛争が勃発した。漁業権を巡る争いも盛んとなった。

 

こうして要素を並べてみると、領土問題の解決を厄介にしている最大の要因は民族主義の伸長なのだろう。すべての問題の根っこには民族主義が絡んでくる。本書では「領土問題の解決には、二つの政府の力が国内的に安定し、妥協しても国内の強い批判にさらされないこと」が必要であるとしていて、なんだか暗澹とした気持ちにさせられた。

本書が気になった方はこちらもおススメ