高橋先生のガザ本が出た!
2024年刊行。筆者の高橋和夫(たかはしかずお)は1951年生まれの国際政治学者。放送大学の元教授(現在は名誉教授)。中東領域を主な研究対象としている。昨今のパレスチナ情勢を踏まえ、解説者としてテレビ出演されていることも多いので、ご存じの方も多いのではなかろうか。
わたしは2021年から放送大学の学生となった(コロナで自宅での時間が増えたので)。高橋先生はいくつか放送大学での講義を持っており、わたしは『国際理解のために』『中東の政治』の二科目を履修させていただいた。『中東の政治』は残念ながら閉講となってしまったが、『国際理解のために』はまだ開講しているので、放送大学の方であれば是非受講していただきたい。
以下は、テキスト(放送大学的には印刷教材と呼ぶ)。
ちなみに本書は、放送大学の面接授業(スクーリング)「パレスチナ難民問題」にて、講師を務めている高橋真樹先生から買わせていただいたもの。高橋真樹先生は、本書についても「構成」担当で関与されている。
内容はこんな感じ
パレスチナ史上最悪の虐殺の場となってしまったガザ。ガザとはいったいどのような土地なのか。そしてイスラエルはどうしてガザを攻撃するのか。そしてアメリカや西欧諸国はどうしてイスラエルを支援するのか。中東諸国はどうしてガザに対して静観しているのか。中東研究をライフワークとしてきた筆者が、これまでの歴史を踏まえ、いまガザで何が起きているのかを解説する。
目次
本書の構成は以下の通り。
- まえがき
- 第1章 10月7日の衝撃
- 第2章 ガザとハマス
- 第3章 パレスチナ問題の歴史
- 第4章 イスラエルという国
- 第5章 揺れ動くアメリカ
- 第6章 イランとヒズボラ
- 第7章 国際社会と日本
- あとがき
パレスチナ問題について知りたい方には最適の一冊
本書ではパレスチナ地域の歴史だけでなく、イスラエル側の事情や、イスラエルを強行に支援しているアメリカの事情についても多くのページを割いて解説している。また反イスラエルであるイランや、非政府組織ヒズボラについても言及されている。各方面の事情がバランスよく説明されているので、パレスチナ問題についての歴史と、最新の状況を理解したい方には恰好の一冊なのではないかと思われる。
イスラエル側からの視点
高橋和夫先生の講義『中東の政治』は、中東地域の政治情勢を国別に読み解いていく試みだったのだが、唯一、物足りない点があった。それはイスラエルについての項目だ。『中東の政治』におけるイスラエルの章は、アメリカ側に拠った、特にバーニー・サンダースや、ユダヤ人ロビー団体に焦点を当てた内容となっており、肝心のイスラエル本国についての言及がほとんどなかった。
本書では第四章「イスラエルという国」がまるまるイスラエルの歴史や、国内情勢を説明してくれる章となっている。昨今の中東情勢に即したイスラエル論を、高橋先生の視点で学びたいと思っていたので、その点本書は『中東の政治』で足りなかった部分を埋めてくれる一冊となっている。
イスラエルの正規兵はおよそ17万人。そして予備役だけで46万人もの兵力を抱えている。この国では男女問わず兵役の義務がある。ちなみに日本の自衛隊がおよそ14万人。イスラエルの人口はだいだい1000万人だから、いかに軍事に特化した国であるかが伺える。
イスラエル国内も一枚岩ではなく、欧州出身のユダヤ人(アシュケナジム)、中東出身のユダヤ人(セファルディム)、ロシアから移民してきたユダヤ人と複雑な階層構造を為す。さらに国内には、取り残されたアラブ人も一定数居住し、加えて占領地のパレスチナ人まで存在するのである。
どうしてイスラエルは右傾化するのか
さまざまな階層が入り乱れるということは、意見がまとまらないということであり、イスラエルでは大きな与党が存在しない。連立政権は不安定で、少数の右翼政党の意見も通りやすくなる。
イスラエルが右傾化している理由として、筆者は以下の三点を挙げている。
- 和平への幻滅
⇒1963年のオスロ合意以降、イスラエルは譲歩をしてきたが、パレスチナ側に和平の意思がない(理不尽に思えるが、イスラエル人はそう感じているようだ)
- ロシア移民の増加
⇒ソ連崩壊後、100万人を超える数のユダヤ人がイスラエルには移民している。彼らは中東人に対する差別意識が強い
- 占領地は解放地
⇒イスラエルはパレスチナ側への侵略をやめず、占領した土地を解放地として自らの国土であると主張する。こうした占領地に移り住んだイスラエル人は、自らの土地を手放したくないので右傾化する。
アメリカはどうしてイスラエルを支持するのか
アメリカの対外軍事経済援助の2割がイスラエルに向けられている。アメリカは世界最大のイスラエル支援国だ。アメリカ国内のユダヤ人は人口比にして僅かに2%。しかし彼らの政財界への影響力は絶大で、強力なロビー団体も存在する。中東地域について、ユダヤ人以外に強い意見を述べる団体が存在しないこともあり、アメリカの中東政策はユダヤ人の意向の影響を強く受ける。
加えて、キリスト教原理主義(福音派)の問題がある。彼らはユダヤ人ではないが保守的なキリスト教徒で、パレスチナ地域がユダヤ化されることは神の再降誕の準備であると信じ、政府のイスラエル政策を熱狂的に支持している。
ユダヤ人は伝統的に民主党支持者である、一方でキリスト教原理主義者は共和党の支持母体だ。つまりアメリカの二大政党はどちらに転んでもイスラエルを支持する。
とはいえ、昨今のイスラエルの軍事行動はあまりに酷いとして、アメリカ国内でも、イスラエル支持を見直す動きは出てきているようだ。