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『天井のない監獄 ガザの声を聴け』清田明宏 UNRWA保健局長による2010年代のガザの実情

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UNRWAの保健局長が書いたガザの実情

集英社のWebメディア「集英社新書プラス」に2017年7月~2018年9月にかけて連載された「ガザの声を聴け!」をベースに書籍化したもの。

2019年刊行。筆者の清田明宏(せいたあきひろ)は1961年生まれの医師。世界保健機関(WHO)で十五年中東他、二十二の国々で結核やエイズの対策に尽力。2010年からは国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の保健局長。

天井のない監獄 ガザの声を聴け! (集英社新書)

いくつか筆者を紹介している記事があったのでリンクしておく。

内容はこんな感じ

国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)は2019年で創設から70年を迎えた。当初の活動予定期間は三年だった。70年が経過しても、解決の糸口すら見いだせないパレスチナ紛争。その中でも最悪の場所とされる「天井のない監獄」ガザ。現地に再三足を運び、その凄惨な現状を知る筆者が、そこに生きる市井の人々の生の声を届ける。

目次

本書の構成は以下の通り。

  • はじめに
  • 第1章 絶望の大地で輝く、希望の星
  • 第2章 使われないままの家の鍵
  • 第3章 パレスチナ難民の健康状態
  • 第4章 米国の大使館移転から「帰還の大行進」へ
  • 第5章 冬の時代に日本ができること
  • おわりに

2010年代後半のガザの姿

昨今毎日ニュースになっているガザ情勢だが、本書が書かれたのは2017年~2018年と、現在起こっている事象の少し前のフェイズに相当する。ガザでの殺戮は昨日今日に始まった話ではなく、現在に至るまでに前提となるさまざまな出来事があった。

本書が書かれた時点で、ガザの人口はおよそ194万人(うち、144万人が難民)。札幌市の人口とだいたい同じくらいか。この人口が365キロ平米(東京23区の6割程度)の狭い範囲に押し込められている。北と東にイスラエル。南にエジプト。両国との境界には「壁」が存在し、ガザの人びとはそこから出ていくことができない。西側は海だが、ここもイスラエル軍によって閉鎖されている。

ガザ地域内には診療所が144。ガザの医療を支えているのが、筆者が率いる国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の保健局だ。UNRWAの活動は各国からの拠出金で成り立っている。しかし当時のトランプ政権は、この拠出金を大幅に減額しUNRWAの活動は危機に陥った。最終的には日本をはじめとした各国の支援があり、この時の危機は回避されている。

ガザと日本の意外な関係

あまり知られていない話だが、日本は以前よりガザ地域への支援を続けている。ハンユニスには日本の援助で作られた「日本地域」が存在する。

また、国際交流の一環としてUNRWAはガザの中学生を日本に招いている。ガザからの出国は本来極めて困難だが、数々の障害をクリアすることで招聘が実現していたらしい。2023年に招かれた3人は、ガザでの戦争が始まってしまい帰国が出来なくなっている。

また、さまざまな制約下におかれているガザでは、教育を得られたとしても職に就くことが困難な状態となっている。そんなガザに対して起業を支援する日本人グループも存在する。

70年のガザの歴史

世界史においても特異な場所となってしまったガザ。この地がいかなる経緯で現在に至ったのか。第二章ではその歴史を紐解いている。イスラエルをめぐる歴史は、旧約聖書の出エジプト記にまでさかのぼるだけに根が深い。

1948年のイスラエル建国によって、パレスチナに住んでいた人々は故郷を追われ難民となった。これを彼らの言葉でナクバ(大厄災)と呼ぶ。ガザ地域は多くのパレスチナ難民であふれた。当初この地はエジプト領だったが、1967年の第三次中東戦争の結果から、イスラエルの実効支配を受けることになる。1993年のオスロ合意によって、イスラエルとパレスチナ間には宥和ムードが生まれる。しかし1995年、合意を主導した当時のイスラエル首相ラビンが、国内右派に暗殺されたことで和平への望みは絶たれた。

オスロ合意では、パレスチナ人の暫定政府としてPLO(パレスチナ解放機構)が認められていた。しかしガザを実質的に支配していた勢力ハマスは、PLOの和平路線を否定し、イスラエルとの対決姿勢を打ち出していく。

2010年代に入ってからのイスラエルによるガザ侵攻は、2008年(キャストレッド作戦、ガザの虐殺)、2012年(防衛の柱作戦)、2014(50日間戦争)年と三度にわたり行われている。

誰にでもできる国際協力

最終章は「冬の時代に日本ができること」として、ガザの人びとに対して、日本人に何が出来るのかを考えていく。筆者は誰にでもできる国際協力として三つのステップを挙げている。

  1. 感じること:相手の心を感じること
  2. 考えること:状況を知り、どうしてそうなっているかを考える
  3. 拡げること:関心をもったことについて調べ、話を聞き、それを拡げていく

現在の情勢になる以前、日本人のガザへの関心はそう高くなかったはずだ。不幸な経緯ではあるが、現在ガザへの関心が高まっているのは事実だろう。どうしてこのような状態となっているのか。そして今、何が起きているのか。何か出来ることがあるのではないかと考えている方に、本書はおススメの一冊ではないかと思われる。

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