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『芝園団地に住んでいます』大島隆 団地住民の半数が外国人になったらどうなるのか?

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朝日新聞記者による現地レポート

2019年刊行。筆者の大島隆(おおしまたかし)は1972年生まれ。現役の朝日新聞記者。テレビ東京ニューヨーク支局記者、朝日新聞ワシントン特派員等を経て、現在は英語メディアThe Asahi Shimbun AJWのデスク。アメリカでの滞在歴が長い。他の著作に『アメリカは尖閣を守るか 激変する日米中のパワーバランス』がある。

芝園団地に住んでいます : 住民の半分が外国人になったとき何が起きるか

筆者自身による関連記事はこちら。

内容はこんな感じ

埼玉県川口市。UR(旧日本住宅公団)の川口芝園団地では、高齢化により日本人入居者が減少し、替わって、中国人を主とした外国籍の住民が激増している。総入居者約5,000人のうち、その半分が外国人となった地域では何が起こるのか。交わることがない日本人と外国人の生活スタイル。文化、習慣の違いから生じる摩擦。そんな中で、共生の道を模索する人々の模索と葛藤の日々を取材する。

目次

本書の構成は以下の通り。

  • プロローグ
  • 第1章 一つの団地、二つの世界
  • 第2章 ふるさと祭り
  • 第3章 「もやもや感」の構造
  • 第4章 中国人住民の実像
  • 第5章 共生への模索
  • 第6章 芝園団地から見る日本と世界
  • エピローグ
  • あとがき

芝園団地に住んでみた

本書で紹介されている埼玉県の芝園団地はこのあたり。

URによる紹介ページはこちら。

芝園団地は1978年に造成されたもので、建物の老朽化は進むものの、内部はリフォームが施されておりイマドキ風。2DKタイプを改装したもので家賃は月額77,200円。最寄りのJR蕨駅には徒歩で10分弱の立地。荒川を越えればすぐ東京なので、住むには便利な物件なのだと思う。

芝園団地では、約5,000の住民が暮らしているが、少子高齢化の影響で日本人住民が減少。現在では住民の過半数が外国人籍となっている。URは入居にあたって保証人が不要で、外国人でも借りやすいのだ。

筆者は朝日新聞の現役記者で、アメリカでの暮らしが長い人物。日本に帰国した際に、特異なスポットとなっていた芝園団地に注目し、内情を知るには実際に住んでみるのが一番と、現地への入居を決めてしまう。旺盛な行動力はさすがは記者魂といったところだろうか。

住民の半数が外国人になるとどうなるのか

芝園団地に入居してくる外国人で、多くを占めるのが中国籍でIT技術系の20代~30代の方々。技術・人文知識・国際業務の枠で在留資格を持つ(技人国と略される)、専門性のある技能を持つ人びと。だいたい数年で転居し、長くは住まない。数が集まるので、中国人だけを対象とした店が周辺には増えてくる。

外国人住民は団地の自治会には入らない。けれども団地のインフラは利用するし、自治会が企画するイベントには参加する。自治会費を払わないのにイベントにだけフリーライドされ、運営側としてはもやもやした気持ちが残る。ライフスタイルや、生活習慣も違うので、日本人住民とは摩擦が起きる。

いつの間にか自分たちの方が少数派になっている。古くから住んでいる日本人住民としては衝撃的な事態だろう。日本人住民としては、こちらの方が昔から住んでいるのだし、何よりもここは日本だ。であれば、せめて日本に馴染むための努力はしてほしい。「他人の庭に住む配慮」を持って欲しい。そう考える気持ちは十分にわかる。

共生への試み

高齢化する日本人住民と、若い中国人住民。混ざり合うとしない二つの属性を、交流させ、共生への道をさぐる試みも行われている。偏見や差別は、相手を知らないことから起こる。相手がなにものか分からないと、スタンダードなステレオタイプ的な偏見にどうしても引っ張られてしまう。

であれば、まずは互いを知るところから始めたい。ということで、芝園団地では「芝園かけはしプロジェクト」のような、民間主導の交流を促進する団体が活動を続けている。とはいえ、団地の日本人住民は高齢化が進んでいるから、若い外国人層とは、そもそも年代的にも合わない。だいたい昨今は日本人同士ですら隣人との交流は減っているのだから、外国人が相手なら、接触が減るのはなおさらだ。簡単には実を結ばないであろうこの手の活動を長年続けておられる方には、本当に頭が下がる思いがする。

異文化をできるだけ尊重したいとは思うけれど、それが自国の文化と抵触したらどうすればいいのか?同化を促進すべきなのか、多文化の共存、共生を目指すのかは、簡単には選べない。

これからの時代にできること

人口が減り続ける日本。特に少子化故に、生産者人口の減少はすさまじいペースで進行している。それだけに今後も、外国人労働者の数は間違いなく増えていく。芝園団地で起きていることは、数年後、数十年後、日本のどの地域でも起こりうることなのだ。それだけに、この地で起きていることを教訓として、共存、共生の可能性を考えていくことは大切であると感じた。

本書では、提言として以下を挙げている。

  • 日本人社会のルールやマナーを教える
  • 相手の文化や価値観を尊重する
  • 交流して互いに顔の見える関係になる機会を作る
  • 日本語学習を支援する。

黙っていたら何も伝わらない。起こる前にまずは伝える努力から。言うは易し行うは難しだが、これからの社会状況を考えると、外国人居住者の方々との付き合いは、今後避けては通れなくなっていくだろう。

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