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『死者の花嫁 葬送と追憶の列島史』佐藤弘夫 死後、人はどこにいくのか?

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日本人の死生観って?

2015年刊行。筆者の佐藤弘夫(さとうひろお)は1953年生まれの、歴史、宗教学者、思想家。東北大学の名誉教授。

死者の花嫁 葬送と追想の列島史

死生観について考える、同著者の関連本としてはこちらの三冊がある。

インタビュー記事はこちら。

内容はこんな感じ

中世までの日本では死者は、死後直ちに彼岸に旅立つとされた。死体の処理も埋めればそのまま。埋めることすらなく埋葬地に遺棄されることもあった。墓参りの習慣もなく。死者の名が刻まれた墓が残ることも無かった。しかし近世以降、その死生観は一変する。現代に続く、死者に生者が寄り添う死生観はいかにして形成されたのか。そして現代の日本で起きている、新たな変化とは何か?

目次

本書の構成は以下の通り。

  • プロローグ 死者を訪ねる人々
  • 第1章 墓石の立つ風景
  • 第2章 骨を運ぶ縁者
  • 第3章 死を希う人々
  • 第4章 墓に憩う死者
  • 第5章 幽霊の発生
  • 第6章 霊は山に棲むか
  • 第7章 目に見えぬものたちと生きる
  • エピローグ 記憶される死者 忘却される死者
  • 参考文献
  • 関連年表
  • あとがき

ムカサリ絵馬のインパクト!

本作の冒頭で紹介されるのが、山形県の村山地方や置賜(おきたま)地方に残っている風習「ムカサリ絵馬」だ。

これは未婚のまま若くして死んだ死者に対して、残された遺族らが架空の花嫁を迎え、死者との婚礼の様子を絵馬として残す風習だ。ビジュアル的にはこちらの記事を参照のこと。

死者の供養といえば、だいたい年少者が、老いて死した年長者を悼むものが多いのだけれど、こちらは、若くして身罷った死者を、年長者が悼むパターン。それだけになんとも切なく、描かれている絵馬の迫力が凄いのだ。この習慣は、遡れても幕末くらいまでしか絵馬が残っていないらしく。比較的新しい民俗習慣である点が興味深い。

本書ではこうした死者と生者の関係性を紹介しつつ、日本人の死生観の変遷について読み解いていく。

中世までは死ねば終わり

日本人の墓は、どんなに古くても江戸時代前半までのもので、それより前の墓は、一部の著名人を覗けばほとんど残っていない。古代から中世にかけて、死者はただちに彼岸に旅立つとされており、残された生者が墓参りをしたり、お盆に死者を迎え入れたりといった風習はなかった。中世の墓地には墓標はなく、埋めたらそれっきり。供養塔が立てられることはあっても死者の名が刻まれることはない。中世まで、人間は葬られた時点で直ちに匿名化され、その後、供養されることもない。

この時代の死生観として、死者は彼岸世界に旅立ちやがて再生されると考えられた。この世は浄土に転生するまでの仮の宿。現実の世界が辛く惨いものであったとしても、彼岸の仏と縁を結ぶことで、人間は死後には救済されると考えられた。彼岸に行けば、死者は成仏してしまうのだから、彼らはもう「ここ」には居ない。それ故に墓参もする必要がない。

近世に入ってからの死生観の変化

しかし江戸時代に入ると日本人の死生観には大きな変化が訪れる。墓参りやお盆の概念が登場する。かつて墓地は生活の場からは遠い場所に作られていたが、江戸期に入ると寺の中に墓地は作られ、墓碑には死者の名が書かれるようになる。死者と生者は、一つの空間を祭祀を通じて分かちあう。

人は死後も霊となって現世に留まる。死後も死者は生者の近くに寄りそう。だから供養のために、残された生者は死者の供養を常日頃から心がける。死者は時間をかけてゆっくりと成仏していく。死者の生きている時代の姿を知るものが、おおよそ死に絶える五十年(五十回忌)をかけて、ようやく死者は彼岸に送られるのだ。

こうした江戸期以降の死生観は、現代にも引き継がれており、我々としても思い当たる部分が多々あるのではないかと思われる。

日本人の死生観の変遷とこれから

日本人の死者との付き合い方を、時代ごとに雑にまとめるとこんな感じ?

縄文時代:墓地の周りに家→墓地は外になる
平安時代:墓のない時代(遺棄されていた)
中世:墓はあるが名はない時代、死者は彼岸に速やかに旅立つ
近世:墓はある。死者は生者に寄り添う

現代の日本では核家族化、少子化が進行中であり、死生観のありようも更なる変化が出てくると思われる。子どもがいなければ先祖代々の墓地も維持できなくなる。よって、これからは墓じまいが当たり前のように行われていくだろう。埋葬の手段も自然葬、樹木葬、散骨といった、一定の墓所に骨を残さないスタイルが増えてきている。遺骨を墓地に埋葬せず、いつまでも手元に置いておく家庭もあると聞いている。

ちなみに、わが家は子なし家庭なので、ゆくゆくは墓じまいをする予定。両親や、ご先祖さまには申し訳ないが、現在の墓を維持できるのもあと10年くらいかなと思っている。妹も別に家庭を持っているので、なんとかしてくれるとは思えないし。今度会った時には話をしてみるつもり。自分が健康で、動けるうちになんとかしておきたい。

でも、墓じまいって、実際問題いくらくらいかかるのだろう。特定の寺院の檀家ではなく、市営墓地なのでそんなにはかからないと思うのだけど。

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