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『土葬の村』高橋繁行 滅びゆく弔いの習慣

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筆者は死と弔いに豊富な知見を持つ

2021年刊行。筆者の高橋繁行(たかはししげゆき)は1954年生まれのルポライター。『ドキュメント現代お葬式事情』『葬祭の日本史』など、人間の死、葬式、葬祭儀礼に関連した著作を何冊か他にも上梓している。

土葬の村 (講談社現代新書)

この本で得られること

  • 日本の土葬文化について知ることができる
  • 失われてしまった不思議な葬祭習慣について知ることができる

内容はこんな感じ

かつては日本全国、どこでもあたりまえに行われていた土葬。しかし戦後、急速な火葬化が進行する。どうして土葬は廃れ、火葬に置き換わっていったのか。平成、令和に入っても、未だ土葬の習慣が残る地域を取材。30年にわたって土葬の習俗を調査してきた筆者が明かす、失われゆく葬送文化。

目次

本書の構成は以下の通り。

  • はじめに
  • 第一章 今も残る土葬の村
  • 第二章 野焼き火葬の村の証言
  • 第三章 風葬 聖なる放置屍体
  • 第四章 土葬、野辺送りの怪談・奇譚
  • おわりに

第一章の 「今も残る土葬の村」全体の半分のボリュームを占める。『土葬の村』とタイトルにあるが、本書で取り扱うのは土葬ばかりではない。第二章では、野焼きによる火葬習俗。第三章では、風葬の習俗。そして、第四章では土葬、野辺送りにまつわる、奇妙な伝承を紹介していく構成となっている。

日本は超火葬社会

2018年のイギリス火葬協会の調査(孫引きですみません)によると主要国の火葬率はこんな感じ。

  • アメリカ:51.6%
  • イギリス:77.1%
  • ドイツ:62.0%
  • フランス:39.5%
  • イタリア:23.9%
  • カナダ:70.5%
  • ロシア:9.9%
  • 台湾:96.8%
  • 香港:93.3%
  • 韓国:84.2%
  • タイ:80.0%

一方で厚生労働省調べの日本の火葬率は以下の通り。

  • 日本:99.9%

欧米の火葬率がそれほど高くないことが伺える。これは宗教の違いが大きいのだと考えられる。キリスト教では死後の復活が根底にあるので、肉体を保持しておきたいとする思想も強いのだろう(ちなみにイスラームの世界は100%土葬だ)。

一方で、アジアの火葬率は高い。上記の調査は比較的国土が狭い上に人口が密集している国家が多く、土地事情的に埋めている余裕がないという点もあるのだろう(書いてないけど中国の火葬率は30%程度らしい)。

中でも日本の火葬率の高さは群を抜いている。ほぼ100%と言って良い状態である。わたし自身の経験を振り返ってみても土葬の経験は皆無だし、友人、知人からのまた聞きでも土葬の例は聞いたことが無い。

日本でもまだ土葬の習慣は残っていた

ほぼ絶滅してしまったかに思える日本の土葬習慣だが、この国は狭いようで広い。日本でも、少なくとも2010年代までは各地で土葬が行われていたのである。本書では筆者が現地に赴いて調査した五つの地域の土葬事情が紹介されている。興味深い事例が多数登場するので、いくつかピックアップしてみよう。

  • 墓参用のお参り墓と、土葬用の埋め墓が別れている両墓制
  • 座棺(寝かせないで座らせて入れる)棺を使う
  • 座棺に入れるために、死者の脚はあらかじめ曲げておく(死後硬直すると入らなくなるので)
  • 棺が朽ち、遺体の腐敗が進むと地面が凹む。そのため土葬墓は土饅頭にして、あらかじめ盛り上げた形にしておく
  • 土地事情の厳しい地域では死体が完全に腐敗する前に掘り起こし、棺を壊して埋め戻す「お棺割り」の習慣があった

火葬しかしらない人間にとっては驚かされることばかりである。現代人は葬祭儀礼をすっかり業者に委ねるようになってしまった。しかし、かつての葬儀は集落が一体となって参加する地域の一大イベントだった。それだけにしきたり、習慣、考え方には土地ごとの個性が如実に表れる。

土葬が廃れていく一員として、地域の担い手不足が挙げられている。棺を人力で担ぎ、埋め墓まで野辺送りをする。そのためにはさまざまな習慣を守らなくてはならない。人口が減り、高齢化が進む現代の日本で土葬の習慣を維持していくのは確かに難しいことであったのだろう。

 

奇妙な弔いの作法

本書の中で、興味深く読んだのは第四章の「土葬、野辺送りの怪談・奇譚」である。これは主として、戦前に刊行されていた月刊誌『旅と伝説』の「誕生と葬礼号」に掲載されていた事例集を紹介したものである。こちらも興味深いものをいくつかあげておこう。

  • 死に枕を蹴る(死者の枕を蹴る風習)
  • 餅を人の形に切り分けて食べるヒトキリモチ
  • 敷き流し(人が死んだら部屋の畳を縦に敷き替える)
  • 棺の上に刃物を置く(棺の上に猫が乗るのを防ぐ呪い)
  • 猫が棺に乗ると、死者が蘇生する、もしくは猫が化け猫化する
  • 死者の脇の下に墓字(ぼうじ)書いておく。転生した子にもその字が書いてある。土葬した際の土で拭くと字が消える
  • 死んだ子の死亡届を出さず、次に生まれた子に籍を転用する(実年齢と戸籍年齢が合わない人が昔はけっこういたらしい)
  • 葬儀帰りには玄関で生米を齧る
  • 正月中に死者が出た家は、後日正月をやりなおす

民俗的な事例を調べている方には垂涎の内容ではないだろうか。こうした奇妙な風習を知るたびに、失われてしまった文化の巨大さを思い知らされる。

筆者によるネット記事を紹介

以上、高橋繁行の『土葬の村』をご紹介した。昭和以前の葬祭儀礼について知りたい方、葬儀に関する珍しい話、不思議な話を知りたい方におススメの一冊である。

なお、筆者の高橋繁行はライター業も営んでおり、葬儀に関する記事をいくつか書いている。本書で初回されている写真もあり、しかもカラーで見ることができるので、気になる方はチェックしてみて頂きたい。

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