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『デジタル化する新興国』伊藤亜聖 世界はもうこんなにデジタル化されている!

海外のIT事情を知りたい方へ

2020年刊行。筆者の伊藤亜聖(いとうあせい)は1984年生まれ。東京大学社会科学研究所の准教授で、専門は中国経済論。

デジタル化する新興国 先進国を超えるか、監視社会の到来か (中公新書)

中央公論新社の総合誌『中央公論』2019年12月号に掲載された「デジタル新興国論」加筆修正の上で単著化したもの。

内容はこんな感じ

新興国でのデジタル化の動きが加速している。中国、インド、東南アジア、そしてアフリカの各国で、電子決済、生体認証、新たなITビジネスへの展開が、先進国を遥かに上回るペースで進展しているのだ。新興国が躍進している理由はどこにあるのか。その可能性とリスクを読み解きつつ、世界における日本の位置付けを模索する。

新興国のデジタル化が止まらない

先日、このブログで紹介した『アフターデジタル』『アフターデジタル2』では、中国の最新IT事情が紹介されていた。今や、世界屈指のIT先進国となった中国。話には聞いていたものの、その具体例をつぶさに示されると、日本は遥かに引き離されてしまったという実感を強く持った。

今回ご紹介する 『デジタル化する新興国』は、中国やインド、東南アジア、アフリカ諸国等、いわゆる新興国と呼ばれる地域でのデジタル化がテーマとなっている。これらの新興国はどうして驚異的な速度でデジタル化を達成することが出来たのか。その背後に潜む脆弱性とは何か。そしてこれからの日本はどうあるべきなのかが書かれている。 

では、以下、簡単に各章についてのコメント。

デジタル経済の特徴は?

第一章は「デジタル化と新興国の現在」として、デジタル化とは何なのか。そして新興国の現状についてが示される。

まず登場するのが「第四次産業革命」論である。世界にはこれまで三回の産業革命があったとする。以下の三つ。

  1. 18世紀後半からの蒸気機関の発展と普及
  2. 19世紀以降の電気通信の発達
  3. 20世紀におけるコンピュータの開発

これに加えて、21世紀に入ってからの情報通信技術、人工知能、ナノテ、ゲノム領域の技術、ロボット工学の発展などを踏まえ、現在を「第四次産業革命」の渦中とするものおである。

「第四次産業革命」の普及によって、これまで発展途上とされてきた新興国にも大きな変化が見られた。デジタル化が遅れていた新興国において、一気にデジタル化が進んだのである。

デジタル化の直接的な効果としては、筆者は以下の三点を挙げている

  1. 検索と情報アクセスの改善
  2. 自動化技術の普及
  3. プラットフォーム企業の台頭

これらの要素は世界中に大きな影響を与えているが、とりわけ新興国の可能性を大きく広げていると筆者は説く。無論、可能性はリスク、脆弱性と隣り合わせであり、メリットが大きい反面、危険性も振れ幅も新興国程高くなる。

デジタル化が新興国の課題を解決している

第二章は「課題解決の地殻変動」と題して、デジタル化が新興国にどんな恩恵をもたらしたが示される。

新興国では信用を担保することが難しかったが故に、金融サービスが普及しなかったり、気軽にタクシーに乗ることも出来なかった。しかしデジタル化によって、誰もが個人認証できる決済端末を持ち、その利用履歴によって信用が担保されるようになる。タクシー運転手にしても、善い実績を積み上げることで優良なドライバーとして安全性を示すことが出来るようになる。これは大きな変化と言える。

また、この章ではデジタル化の三つのリスクについても言及している。

  1. 説明責任の欠如した情報統制
  2. 技能教育なき自動化とそれによる不平等
  3. 競争の欠如による独占

このリスクは世界のどの地域においても生じうるものだが、社会、政治基盤が脆弱な新興国ではより危険度が高まる。

リープフロッグ型発展はどうして起こる?

第三章は「飛び越え型発展の論理」として、新興国での急激なデジタル化がどのようにして発生したのか。そしてデジタル化が新興国にもたらす新たな可能性について言及している。

リープフロッグ型発展(Leapfroging)とは最近よく耳にする言葉である。Wikipedia先生から引用させていただくと、意味は以下の通り。

リープフロッグ型発展(リープフロッグがたはってん、英:Leapfrogging)とは、既存の社会インフラが整備されていない新興国において、新しいサービス等が先進国が歩んできた技術進展を飛び越えて一気に広まること[1]。リープフロッグ現象ともいう。

リープフロッグ型発展 - Wikipediaより

先進国であれば、固定電話→携帯電話→スマートフォンと順を追って進化していくところを、新興国は何もない状態からいきなりスマートフォンが普及し始めてしまう。先進国では過去のインフラや、古い法律、産業界のしがらみに囚われて、デジタル化は容易に加速化できない。一方の新興国はこれらの縛りが無いが故に、爆発的な勢いでデジタル化を進めることが出来たわけである。前者は日本、後者が中国と考えると理解が早いだろうか。

後発だからこそできる優位性として、スーパーアプリの普及についても触れられている。スーパーアプリとは数億人規模のユーザを持つ、複数の機能を持つ総合アプリケーションである。中国の微信(ウィーチャット)、支付宝(アリペイ)。東南アジアのゴジェックやグラブ、インドのPaytm(ペぃティーエム)が具体例として挙げられている。

日本のような先進国ではそれぞれの分野で圧倒的なトッププレーヤ企業が育ってしまっている。故に、個々の企業が自分でアプリを持ち、統合型のスーパーアプリは生まれにくい。逆に、新興国ではすべてが発展途上であるために、先行した特定の企業が全てを総取りすることが可能となっているのだ。

新興国の脆弱性

第三章までは、新興国の可能性や、優位性、良い点ばかりが語られてきた。翻って、第四章からは「新興国リスクの虚実」として、新興国だからこそのリスクが提示されている。

  • 基幹技術は先進国に握られている

物理的なネットワークや、OSなどミドルウェアの技術は全て先進国の大手企業が持っている。この部分は短期的には如何ともしがたいので、新興国はアプリケーションに勝機を見出すべきであろうと筆者は説く。

  • IT人材不足

新興国は教育基盤が脆弱であるだけに、プログラマなどのIT人材の育成い難があるのではないかという指摘。

  • 正規雇用を圧迫する

デジタル化によって省力化が図られ、非正規労働が増える懸念。

  • プラットフォーム企業と財閥の伸長

デジタル業界特集の勝者総取りの問題。また新興国ならではの財閥の存在が発展を抑止してしまう可能性もある。

新興国で進むネット規制

第五章は「デジタル権威主義とポスト・トゥルース」として、デジタル化が進む一方で、国家によるネット規制、横行するフェイクニュースの危険性についてスポットを当てていく。

中国において、GoogleやYoutube、Twitterなど欧米のサービスへの接続が禁止されているのは有名な話である。結果として中国では自前の検索サービス百度(バイドゥ)が大きな地位を占めるようになったのだが、この検索サービスでは中国共産党にとって開示したくない事象については一切検索表示されないようになっている。また、中国での信用のデジタル化は、国家に個人情報を委ねることでもある。

そして、フェイクニュースによる世論の操作は新興国に限った話でもない。マケドニアにあるフェイクニュース村の存在には驚かされた。世界にはフェイクニュースを作って生計を立てている村がある。こんな記事も発見したのでリンクを貼っておこう。

日本は何が出来るのか

最終となる第六章は「共創パートナーとしての日本へ」である。この章では、新興国のデジタル化が急速に進行する中で、日本はいかなる立ち位置で臨むべきかが説かれている。

本書では日本と新興国との関係について以下のようにまとめている。

  • 1960~1970年代 南北問題の時代/政府開発援助を提供者としての日本
  • 1980~1990年代 工業化の時代/先進工業国としての日本
  • 2000~2010年代前半 市場の時代/課題先進国としての日本
  • 2010年代後半以降 デジタル化の時代/???

かつては日本は新興国を援助する側であった。しかし、ことデジタル化においては、新興国の方が先行している事例が多々出てきている。筆者はこの状況を踏まえた上で、新興国の可能性を広げ、脆弱性を少しでも補うことが求められている役割なのではないか。そのためには、新興国で生まれたサービスを日本に還流させる仕組み、海外拠点への積極的な進出、投資が必要であると主張する。

世界はもうこんなにデジタル化されている

以上、雑ではあるが『デジタル化する新興国』の内容を俯瞰しつつ、気になる点をまとめてみたい。

本書を読んでみて驚くのは、アフリカや東南アジア諸国での急速なデジタル化である。中国の事例は比較的よく耳にすることがあっても、それ以外の地域への知識が皆無であっただけに衝撃度が強かった。

日本では未だマイナンバーカードすら普及せず(わたしも作っていない)、今さらながらにデジタル庁が設立されるありさまで、ここ数十年のデジタル化の遅れを取り戻すのは容易なことではないように思える。これからは周辺諸国の先端事例を、謙虚に学びつつ、その脆弱性には日本らしい丁寧なケアしていく。そんな発想の転換が必要なのではと思った次第。

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