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『22世紀の民主主義』成田悠輔 政治家も選挙もいらない「無意識民主主義」のすすめ

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20万部突破のベストセラー

2022年刊行。筆者の成田悠輔(なりたゆうすけ)は1986年生まれの経済学者、実業家。アメリカのイェール大学助教授(本人プロフィールにそう書いてある。准教授じゃないの?)を努めつつ、日本では自身で起業もしているという人物。中高が麻布高校で、大学は東京大学の経済学部(首席)。マサチューセッツ工科大学(MIT)ではPh.D.取得と、経歴が輝かし過ぎて直視できない(笑)。

メガネはよく見ると右目が〇フレーム、左目が□いフレームになっていて、なんかもう普通の人じゃない気配が濃厚に漂ってきている。

22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる (SB新書)

とにかくめちゃめちゃ頭のいい人が書いた、22世紀の民主主義を考えてみよう!という一冊。

書籍の帯によると本書は20万部を突破しており、お堅いタイトルの割には、相当売れている。朝日新聞掲載(好書朝日)の書評記事はこちら。

この書籍から得られること

  • 現代の民主主義の問題点がわかる
  • 政治家も選挙もいらない新しい民主主義の在り方がわかる

内容はこんな感じ

長く続く停滞。21世紀に入って民主主義に元気がない。高齢化が進む先進諸国ではシルバー民主主義が蔓延し、目先の利益にこだわり、中長期的に有効な政策が採用されることはない。これからの政治はどうあるべきか?ゲームのルールを根本的に変えるときが来ている。AIを利用した、政党も政治家も不要となる、無意識民主主義とは何なのか?気鋭の論客が問う、未来に向けた提言。

目次

本書の構成は以下の通り

  • A.はじめに断言したいこと
  • B.要約
  • C.はじめに言い訳しておきたいこと
  • 第1章 故障
  • 第2章 闘争
  • 第3章 逃走
  • 第4章 構想
  • おわりに

本書は冒頭のA~Cのパートで、筆者の言いたいことはほぼ語られている。時間の無い方は、この部分を読むだけでも大意はつかめるはずだ。28頁しかない。

民主主義の制度疲労と資本主義との相性の悪さ

現代の先進諸国では、資本主義でありながら、民主主義のスタイルを取っている。資本主義はパイを少しでも大きくしようとする思想であり、一方で、民主主義はパイをどう分配していこうかという考え方だ。両者の利害は必ずしも一致しないので、片方が暴走しはじめると社会には歪みが生じる。

資本主義が加速し、世界のグローバル化が進行。格差社会が拡大する一方で、民主主義の方はパッとしない。アラブの春は挫折し、アメリカやイギリスではポピュリズムが台頭し、自国第一主義が蔓延する。政治家になれるのは二世、三世の世襲議員か、タレントや芸能人出身者ばかり。政治に対する人々の関心は遠のくばかりだ。

追い打ちをかけたのがここ数年のコロナ禍で、思い切った封じ込め策を取れない民主主義国家ほど、経済へのダメージが大きい。選挙を意識する限り、政治家は痛みの伴う、思い切った政策を実行に移せないのだ。

無意識民主主義のすすめ

世の中にはさまざまな問題がある。福祉、経済、防衛、教育、環境、論点は無数にあり、有権者はそれぞれに「かくあるべき」とする考えを持っているはずだ。しかし、いざ、選挙で意思を託そうとすると、最大公約数的に「比較的政策が近い」特定の政治家、特定の政党に投票するしかない。現代の選挙制度はとにかく、無駄が多く、死票も多い。

こうした諸問題をいかに解決すべきか。そこで筆者が提言しているのが無意識民主主義だ。統計的手法を使って、民意データを匿名化して社会的意思決定に用いる。さまざま争点ごとに、もっとも民意がマッチする形で政策を考えていこうとするプランだ。この意思決定の手段にはAIを用いる。人間は、AIが誤った判断をしないか、監視するのが主業務となっていく。

もちろんアルゴリズムは間違えるし、時には差別もしてしまう。だがそれは、試行錯誤を重ねることで突破できると筆者は説く。ポイントを書き出すとこんな感じ。

  • 民意データを無意識に提供するマスの民意による意思決定(民主主義)
  • 無意識民主主義アルゴリズムを設定する少数の専門家による意思決定(科学専制、貴族専制)
  • 情報・データによる意思決定(客観的最適化)

ひとつの思考実験として

政党も政治家もなくして、AIによる無意識民主主義に政治を委ねよう。ぶっちゃけ、現実味は皆無ではあるが、提言としては面白い。だいたい筆者としても今すぐできるとは思っていない。タイトルも「22世紀の民主主義」をデザインしようという話だし。

現代の選挙制度の限界。個人が何をしても政治は変わらないと思えてしまう無力感。世の中はどんどん悪くなっているのに、出来ることはなく、緩慢な死を待つしかない状態。21世紀に入ってからの民主主義諸国には、多かれ少なかれこんな空気が蔓延しているのではないだろうか。

この国の硬直した保守化傾向の中では、大きな変化は難しいと思う。しかし、情報通信環境が高度に発達した時代では、最先端の技術を生かした新たなやり方があるのではないか、もっと良い方法があるのではないかと考えることは重要だ。本書が多少なりともセールスを伸ばしているのには、そんな社会のニーズが根底にあるように思えてならない。

音声朗読のaudible版は2022年12月2日にリリース予定。朗読は谷合律子(たにあいりつこ)が担当している。

社会の在り方について考えてみたい方へ