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『本屋、はじめました 増補版』辻山良雄 「本はどこで買っても同じ」ではない

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出版不況下に個人で書店を立ち上げた方の記録

2017年刊行。筆者の辻山良雄(つじやまよしお)は1972年生まれ。大手書店チェーンのリブロで、広島店、名古屋店で店長職、池袋本店のマネージャ職を歴任。2015年に退社し、翌2016年に東京都杉並区の荻窪に新刊書店Titleを開店。個人発のこだわり書店として人気を博し、今年で8年目に入っている。 

ちくま文庫版は2020年に刊行されている。文庫版のオリジナル要素として「文庫版補章 その後のTitle」が追加。更に、若松英輔の解説が収録されている。一方で、単行本版には入っていた「特別付録・東西本屋店主対談」は未収録となっている。この点は残念。

 

内容はこんな感じ

大手書店チェーンリブロの社員であった筆者はいかにして、独立を思い立ったのか。出版不況、書店冬の時代に、あえて新刊書店を開店した理由は何故か。出店計画書の作成、物件探し、店舗のデザイン、そして「棚づくり」の秘訣。開店後の毎日、書店経営者としての想い。そして開店から五年を経た今、筆者が思うことは?

目次

本書の構成は以下の通り。

  • 第1章 前史
  • 第2章 萌芽
  • 第3章 準備
  • 第4章 本屋開業
  • 終章 プロになりたい
  • 文庫増補章 その後のTitle

新刊書店Title(タイトル)って?

本書に登場するTitle(タイトル)は2016年1月10日にオープンした東京都杉並区、荻窪に立地する新刊書店である。

位置をGoogle Mapで確認してみよう。青梅街道沿い。JR荻久保駅からは1キロ弱。歩いて15分程度かな。駅前という程駅近の立地ではない。

ホームページはこちら。

以前から気になっていて、よく名前は聞くのだが、通勤動線とも、生活環境からも少し離れた場所にあるため、なかなか足が向かなかった。

だが、先日ようやく、念願かなって行くことが出来たので写真を掲載。とにかく選書が素晴らしいのでこれは行く価値あり!

Ttile外観

Ttile外観

Titleのブックカバー

Titleのブックカバー

本書は、そのTitleを立ち上げた店主、辻山良雄の開店から五年目までの記録である。

本はどこで買っても同じではない

読書家の皆さまであれば、経験があるかもしれない。自宅の書棚に収められている本を手に取った時に、購入時の店舗の情景や雰囲気、匂いまでもが甦ることはないだろうか。それは、単にモノとして本を買ったのみにとどまらず、記憶や想い出を伴った一つの体験を手に入れたことになる。

モノよりコト。現在は単にモノを買うよりも、体験を重んじる時代である。筆者はそこに勝機を見出しているのであろう。

筆者は云うのである「本はどこで買っても同じではない」と。

自分がイメージしていたものは、もっと本のつくり手や書き手、お客さまなど、さまざまな立場にいる人がかかわる店、本が店の中心にありつつも、単に本を買うことにとどまらない体験が出来る店です。

『本屋、はじめました 増補版』第三章 準備 p77より

ネット書店が幅を利かせ、町の書店が次々と潰れていく中で、あえて新刊書店を個人で開業した意義はそこにあったわけだ。

Titleは駅からの距離も遠く、大規模な書店というわけでもない。書店にありがちな「何かのついでに買う」需要が取れない以上、来店してもらうための工夫が必要となってくる。そのためのこだわりの品ぞろえや、イベントの開催、カフェの併設、空間としての居心地の良さを筆者は徹底して追及している。

地道に積み重ねて研ぎ澄ますしかない

活躍が華々しい方なので、もっとギラギラした熱い文体を想像していたのだが、本作は読む限りでは至って淡々と積み上げている方なのかなとの印象を強く受けた。Titleの好調を受けた、多店舗展開のオファーも断っているし、ビジネスマンというよりも職人肌なのかな。十分な見識を持たない分野には手を出さないのは、手堅い判断だとは思うけど。

筆者のことばで、特に印象残ったのは文庫増補章で書かれている以下のテキストだ。

だからこそ個人として生きる活路は、誰にでも簡単にはできない技術を高め、世間一般のシステムからは、外に抜け出すことにある。それには自らの本質に根差した仕事を研ぎ澄ませるしかなく、それを徹底することで、一度消費されて終わりではない、息が長い仕事を続けていけるのだと思う。

『本屋、はじめました 増補版』文庫増補章 その後のTitle p241より

これはどんな職業にでもあてはまる普遍的な考え方だとわたしは考える。

たいていの仕事には、ルーティンの部分がある。慣れてくると手を抜いてしまったり、惰性で流してしまうような作業は多い。しかしその日常の積み重ねを丁寧に積み重ねていくことが大切なのだろう。これはカンタンに見えて、実は相当に難しいことである。

同じような年代の人間でありながら、すっかり堕落した無気力な毎日を送っている自分としては、非常に耳に痛くもあり、刺激ともなったフレーズだった。こういう人を見ると本当に羨ましく思えてしまう。自分ももう少し頑張らなければ。

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